4-2 思いがけない幸運
小さな氷が幾つも迫るのを、魔方陣から火を出し迎撃していく。
「今のアンタに必要なのは速さと正確さ!威力は後でついてくる!ほらっ落とせない攻撃!」
先程までとは大きさの違う氷塊が飛んできた。魔力を手に集中し、防壁を作り出して弾く。
一瞬だけ間を置きこちらを囲むように氷が迫って来たのを、また火を出し撃ち落としていく。
「……よし、今日はこれ位にしておきましょうか」
「お疲れ様でしたー……」
終了の呼びかけを聞き、力尽きて倒れこむ。
「狙いの正確さは大分良くなって来たけど、防壁を作る時に迎撃の魔方陣と一緒に練れるようになるともっと良いわね。あと薄くても良いから自分の周りには常時防壁を張れるよう頑張りなさい」
あちこちに出来ている傷を治してくれながらリーナがアドバイスをくれる。
「でもさ、防壁と魔方陣と一緒に作るのって難しくね?」
「やっていれば慣れて出来るようになるから練習あるのみよ」
その通りなんだろうし、頑張るしかないか。
魔法陣の作成は簡単な物且つ、練習を続けている火を出す魔方陣ならそれなりに速く出せるようになっていた。
攻撃として使うには威力不足なのは否めないが、目くらましや相手の行動の阻害には十分な役割を果たせるだろう。
中規模以上の物になると、まだ形をキチンと覚えられていなかったりでメモを片手の作成となってしまう。
魔力による防壁の作成は思ったより簡単に出来たが、これを魔法陣の作成と両立するのはまだ慣れていない。
昼も過ぎ、昼食はどうしようかと考えているとレオ達が戻ってきた。どうやら魔物討伐は無事に済んだらしい。
買ってきた昼食を食べながらレオとエイミーは互いの活躍を褒めあっており、それに少しだけリーナが顔を顰めている。
そんな顔をするなら自分も行けばよかったのに。いや、俺に魔法を教える為に残ってくれてるんだよな・・・うーん、これも何処かでお返し出来るといいが。
「そうだ、さっきの依頼の後、少し行った所の洞窟にエーテル溜りが見つかったみたいで、そこに魔物とかが集まり始めてるからその回収と退治を手伝って欲しいって言われたんだけど、どうしようか?」
「別に手伝っていいんじゃない。エーテル溜りねぇ……この辺にそんなのあったんだ」
「話を聞くにリョウが来た時の、あの魔力の影響じゃないかな」
また、あれのせいなのか……
「はいはい、そんな顔しないの。アンタのせいじゃなくて、今回は逆にアンタのおかげでエーテル溜りが出来てるんだから」
「……そうなのか?」
「そうよ、エーテル溜りって言うのは洞窟の奥とかに魔力が溜まって、それが結晶化して出来る自然現象なの。今回はアンタのおかげで普段は出来ないような所にも出来て、寧ろ村としては良い事よ」
「良い事なのか。なんだ、また何かが起こったのかと心配した」
「まぁ魔物は寄って来るし、話を聞いた盗賊とか来るかもしれないからそれの対処の手伝には行きましょうか。報酬も結構貰えるだろうし」
昼食を食べ終わり、村長の下へと依頼を受ける事を伝えに行く。
「村長のエリクと申します。この度は依頼を受けて頂けるという事で、よろしくお願いしたいします。では話は警備主任の方から」
呼ばれて男性が前に出た。
「えー、ご紹介にあずかりました警備主任のライマンドと言います。先程の戦いで実力の程は聞いておりますので期待してますよ」
そう言ってレオに握手を求めたので、レオがそれに応えた。
「はい。全力を尽くさせてもらいます」
握手を交わした後、地図を広げながらライマンドが話を再開していく。
「それでは洞窟の状況の話を、調査によると中にエーテル溜まりが出来ており、エレメントが多数生まれているとの事です。他にも先程退治してもらったような魔物の目撃証言も幾つか出ており、このエレメントと魔物の退治の手伝いを皆さんには行ってもらいます」
エレメントって何なんだ?結晶的な物が浮かんでたりするのだろうか・・・後でリーナに聞いてみよう。
「こちらは洞窟内の地図になります。もっとも今まであまり調査を行ってはいなかったので、そこまで正確なものではありませんが。安全自体は確認出来ていますのでそこはご安心下さい」
小さな地図を手渡される。幾つかメモ書きの様に注意事項が書かれており、手書き感が強い。少々見辛くはあるが、地図自体は細かく書かれてるし何とかなるだろう。
「それで今回のエーテル採掘は場所の都合もあり、隣の村のシエーナと合同で行う予定で・・・すみませーん、エドアルドさーん。ちょっと良いですかー」
エドアルド……?
聞き覚えのある名前だと思っていると、奥から見覚えのある商人がやって来た。
「はいはい、何の御用でしょうか……おや?」
「あれ?エドアルドさん、お久しぶりです」
「いえいえ、こちらこそ。そうですね、旅を続けるのでしたらこちらの村へと着きますね。これはまた丁度よく」
「皆さんはお知り合いですか?」
挨拶を交わしているレオとエドアルドを見てライマンドが尋ねた。
「はい、こちらの方々は先程話していたシエーナを救った人たちですよ」
「成る程、そうでしたか!すみません。私は直接村の支援へとは行っておりませんでしたので顔を知っておらず、ですがこれは本当に心強い味方が出来ました」
喜び盛り上がる大人二人が今後の予定を話していく。
話の通りエーテルの採掘はエドアルドさんの働きかけもあって、シエーナと合同で行う事を予定しており、これはシエーナに大きな経済効果をもたらしてくれるそうだ。
まだシエーナに話を通していないので、あくまで予定との事ではあるが、特に断る理由も無いだろう。
「いやはや、こんなに近くでエーテルの採掘が出来るようになるとは。私の貸し出している資金も思っていたより早く返してもらえるかもしれませんね」
「エドアルドさんには本当に色々と何から何まで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、私は商人ですから、商機は逃さないようにしているだけですよ。村に支援したのも、採掘に協力するのも私が儲かるからですから気になさらないで下さい」
そう言うエドアルドさんに、エイミーは何度も何度も頭を下げて礼を言っていた。
村を支援してくれた上に、立ち直りの大きなチャンスまで掴んでくれたのだから礼を言っても言い切れないだろう。
その後話が終わるとエドアルドさんは採掘協力の話を通す為にシエーナに向かって行った。
洞窟への出発は明日との事なのでレオから剣の稽古を付けてもらった後は宿に戻り、明日へ備える事にする。
「まさか、旅を出て直ぐに村の為に出来ることが見つかるとは思ってもいませんでした」
体の疲れを取ってくれながらエイミーが嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「そうだな、折角の機会だし俺も出来る限りの事を頑張るよ」
「はいっ!」
良い笑顔だ。俺も精一杯やれる事はやらないとな。
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