3-8 魔の者たち
雪が降りしきる街に立つ城に魔物が一人降り立った。
大柄で頭に角を生やしたその魔物は、レオに重症を負わされ撤退したリベールであった。
傷を癒しレオ達への復讐を考えていた彼であったが、使者からの呼び出しを受けこの地に戻ってきていた。
ここは嘗てドニーツェと言う名前の大国があった場所。
今から15年前に魔王軍によって滅ぼされ、今は魔王が住む都となっている。
城の廊下を歩いてゆくリベールは悩んでいた。
ボアフットが討たれたと知った彼は、自分に任されていた任務を途中で放棄しレオ達の討伐へと向かっていたのだ。
それが果たせたのであればまだ弁明の余地はあったものの、彼らの生死を確かめる事は出来ていない。
これから自らの身に起こるであろう任務失敗による軍の中での地位の下落は何としても避けたい。
しかし彼の頭では幾ら考えても名案は浮かんでこなかった。
「不味い、不味いぞ」
彼は元は強者の立ち位置であった。横暴な事をしても許される立ち位置であった。
それは魔王の出現によって終わりを告げたが、それに対して不満を持っているわけではない。
魔王は絶対的な強者であり、それの影の中で人間を相手に力を振るう事が出来たからだ。
いち早く魔王の傘下へと下ったリベールはドニーツェへの攻撃にも参加し、一定の戦果を上げる事が出来た。
それによって自分に与えられた立場は、四天ストレッジ直属の部下として兵器の実験を人の村を使って行う事であった。
それはリベールにとって思い描いていた物とは違っていた。
確かに弱者をいたぶるのは好きであったし、殺戮の限りを尽くすのも嫌いではなかった。
しかし、あまりにも相手が弱すぎる。兵器の実験を秘密裏に進める為に辺境の村を対象にする事が多かったからだ。
その時に耳にしたのが最前線を戦っているボアフットが、何者かによって討たれたという情報だった。
これはチャンスだとリベールは思った。ボアフットを倒した者を討てば自分はボアフットが持っていた地位を貰えるかもしれないと。
だがリベールは敗れた。それもボアフットを倒したとは言え人間の子供に。
「くそっ何なんだあいつは!あの強さは!あの目は!」
人は時に強い目をした者が居る。その目の強さを表す言葉は無かったがリベールはそれが好きだった。それを捻り潰すのが好きだった。
あの少年も最初はその目をしていた。強く追い詰めるにつれ、その目の光りが無くなっていく様を楽しんでいた。
そのまま少年は死ぬのだと思っていると、少年の目に別のものが宿り始めた。
それは憎悪や殺意とは似ても似つかぬ暗い光り。その目にリベールは確かに恐怖してしまっていた。
「おやおや荒れているようですね」
苛立ちを募らせていると声を掛けられた、廊下の影から人が来る。
いや、それは人と言うにはあまりにも異形の見た目をしていた。
全身に触手が蠢き、単に人に近い形をかたどっているだけの魔物であった。
「ストレッジ様!申し訳ございません、リベール只今戻りました」
そう言ってリベールは慌てて跪いた。目の前に居る魔物こそ四天の一人ストレッジその人である。
「そう畏まる必要はありませんよ、呼びつけたのは私ですから」
「はっ!」
「それで、君は私の頼んだ仕事をキチンとこなしていないようですが?」
その言葉に頭を上げようとしたリベールの動きが止まる。
「呪具は3つ渡していたはずです。ですが指定した場所で行われていた実験は2つだけでした。これは何か理由があるのでしょうか?」
絡みつくような口調と共に、触手がリベールの首へと絡みつき、無理やり頭を上げさせた。
その怪物は顔と思われる部分に眼鏡をかけてはいるが、おおよそ必要があるようには見えない。
「申し訳ございません。功に焦り任務を途中で中断しておりました。しかし、実験自体は滞りなく進み、最後の一つも予定地とは違う場所で使用し、発動は部下が確認しております」
頭に纏わり付く触手の不快感に耐えながら必死にリベールは答えた。
「それで?私の指示の場所以外で実験をして良いと思ったと?結果を見ずに帰等して良いと思ったと?」
絡みつく触手の力がギリギリと強くなっていく。
「申し訳……ございません」
「……まぁ良いでしょう。どの道アレは回収された所で問題になるようなもではありませんし」
触手が離れていき「かはっ」とリベールが息を付いた。
「それでは魔王様の下へと行きましょうか」
連れて行かれた部屋でリベールはストレッジと共に跪いた。
その部屋は人の王が居た部屋であった。人が作った豪華な調度品がそのまま使われている。
「リベールとか言ったな。面を上げよ」
声の威厳と違い、若く聞こえる声を聞き顔を上げる。
「報告は聞いておる。貴様がした失敗もな。して、ボアフットだったか、あれを倒した者はどうしたのだ?」
「はっ!かのドラゴンライダーであるボアフットを倒した兵は、私めが戦い、勝利いたしました!」
「殺したと?」
「……はっ!その通りであります。激戦となり私も重傷を負いましたが、確かにこの手で」
沈黙が流れる。魔王は顎に手をやり少し考えていた。
「……ふむ、良かろう。ストレッジより話は聞いておる。今の役職は貴様の能力にあってないのではないかとな。功を狙う性格も戦いに出たほうが活用できよう、グレイズの元へ行き指揮下に入ると良い」
「ははっ!ありがたき幸せ!このリベール全霊をもって尽くさせていただきます!」
「ではよい、下がれ」
今一度リベールが頭を下げ、部屋を去って行った。それを見て魔王が控えているストレッジへと向いた。
「して、あやつが言っていた事は本当か?」
「はっ、脳を覗き見たところ相討ちに近い形だったのは本当のようで、しかし、殺せていたかは解りません」
「そうか、だがよかろう。もしもそれが強き者なら、この退屈な日々の刺激となるやもしれぬ。では他の報告を聞こうか」
「はい」とストレッジは答え、空中に魔力で地図を書き出した。
「先程のリベールが行っていた実験により、呪具による呪いの発動は問題なく起こせる事が実証されました。これ単体では何らかの対策を取られた場合に必殺とはなりませんが、攻撃力と隠密性は恐怖を煽るには十分な物でしょう」
話を一区切りし、地図上に一つ×印を付ける。
「こちらのエヴリーと呼ばれる都市の要塞が落ちてしまいました。もっと時間を掛けて落とす予定でしたのが、ケーニヒ様が我慢できないと灰にしてしまい。計画に支障は無いとは言えど、これを魔王様からお叱り頂きたいのですが」
「よかろう、ケーニヒには我から言っておこう」
「ありがとうございます。これであの子犬も少しは大人しくなるでしょう」
深々とストレッジが頭を下げる。
「それと最後に一つ、何やら情報と共にこちらに付くと言う者がおりまして、まだ情報の裏を取れてはいませんが、その情報が真であるなら良き報告が出来ると思います」
「そうか、それは楽しみにしておこう」
魔王が立ち上がり窓から外を見た。
「我は一度敗れた、この世界と神に。故に軍と四天を作り計画を進めてきた。神が弄した小癪な手は最早意味を成さず、順調だが退屈な時はもう直ぐ終わる。その時我は再び世界を滅ぼそう。我は魔の王、この世の力を統べる者、その名の通りに」
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