3-3 情報整理と作戦会議

 教会の中は呪いで倒れている人で溢れかえっていた


 一先ず気絶した少女を寝かせて周りの様子を見る。


「この状態なのは予想をしてたけど、動けていたのは彼女だけかしら。いや、結界が残ってるって事は他にも」


 その言葉の通り結界自体は小さくはなったものの、この教会を何とか包み込む程度には保たれていた。


「あなた方は?」


 声のした方を向くと、疲れ弱った姿の黒い服を着た男性が奥から姿を現した。


「アタシ達は旅の者です、この村の異変を聞き来ました。この村の状況を教えてもらえませんか?」


 代表してリーナが答える。


「おお、ようやく助けが……本当にありがとうございます。ではこちらへ、私が解る範囲でお話しましょう」


 言われ付いて行き用意された椅子に座る。


「申し送れました、私はここで神父をやっておりますキーン・ガストルディと申します」


 神父という事はこの服は修道服か、先程の少女の服も同様の物なのだろう。


「アタシの名前はリーナ・エスカロナ。こっちはレオ、こっちはリョウです」


 自己紹介をリーナが進めたので頭を下げておく。


 自己紹介が終わりキーンさんが村に起こった事を説明してくれた。


 それは二日前の昼、突然起こった事だそうだ。


 突然村は夜となり、村の人々が呪いで倒れ始めた。


 それに気が付いたキーンさんはシスターと共に人々を教会へと避難させるも、呪いの被害は強まっていきキーンさんも倒れて先程まで伏せていたのだと言う。


「それは悲惨な状況でした。体の弱い老人や子供と避難が遅れた者が次々と倒れ、私も倒れてしまう中で彼女は一人で必死に人々を護り続けていました」


 そう言ってキーンさんは自分の無力さに顔を俯かせている。


「失礼ですが今回の事で何か魔物が来たとか、誰か悪意を持った人が現れたとか、何かしらの兆候はありませんでしたか?」


 話を聞きしばし考えた後にリーナが尋ねた。


「いえ、特には何も」


「ではこの村に何か・・・何と言うか狙われるような物があったりとかは?」


「名産品として胸を張れる果物はございますが、これ程の攻撃を受けるような理由は思いつきません」


「そうですか」と再びリーナが考え込み始めた。


「なにか俺達にも出来ることはありますか?」


 リーナが考えている間、何か出来る事をと思い尋ねる。


「ありがとうございます。タオルや薬がございますので、そちらを村の方々にお願いいたします」


 キースさんから教えを受け、俺とレオはキースさんと一緒に村人達の看病をし始めた。


 幾つか調べ物やキースさんへの質問を終えたリーナも看病に参加する。リーナは魔法を使っていくも、やはり効果は薄いようだ。


 看病が終わった後、倒れていた少女が目覚めた。


「ここは……そうだ……ここを守らないと……」


「キーンさんと俺達が何とかするから、少しの間寝てて大丈夫だ」


 上体を上げフラフラとしている少女を支えゆっくりと寝かしつける。


 言われて瞼を閉じようとした少女の目がこちらを向いた。閉じようとした瞼が開き少女が跳ね起きる。


 跳ね起きた少女の顔がこちらの顔にぶつかり、ゴチンッと大きな音がなった。


「なーにやってんのー」


 リーナから呆れられた声を掛けられる。


「いや、この子が突然起きたからさ」


「うぅ、ごめんなさい。顔をぶつけてしまって」


 顔を摩りながら答えると、彼女も顔を摩り涙を浮かべながらこちらに謝ってきた。


「いや大丈夫、気にしてないって」


「ですが顔をぶつけてしまって、それに先程は切りかかったりして、本当になんと謝れば良いか・・・本当にごめんなさい」


「だから大丈夫だって、あんたも色々いっぱいいっぱいだったみたいだしさ。そうだ、俺は真田 涼って言うんだ。あんたの名前は?」


 謝り続ける彼女に話題を変えようと自己紹介をする。


「えっと、私の名前はエイミー・メラートと言います」


 聞きなれない名前に少しポカンとした後に答えてきた。


「エイミーか、俺の名前って変な名前と思ったろ?」


「えっ、いえそんな失礼な事は決して」


 いたずらっぽく聞くと慌ててエイミーが答えてきた。あたふたと振る手が可愛らしい。


「いや変だと思って当たり前さ、俺は他の世界から来たからな」


「え?」


 突然の言葉に手が止まり、目がうろうろとし始める。


「ショックを受けてるみたいだけど、これが本当だったりするのよね。アタシはリーナ・エスカロナ、アタシとこっちは普通の人?だから安心してね」


「普通の人って紹介はどうなんだろう・・・あっ僕はレオ・ロベルトです」


 二人からの自己紹介を受けてまたフラフラとし始めた。


「大丈夫か?まだ横になってたほうが良いんじゃないか?」


「いえ、大丈夫です。でもちょっと頭が混乱して・・・本当に他の世界から?」


「ああ、本当にな」


「それでは、もしかして貴方達は世界を救う旅を?」


 少し期待しているような言葉にリーナが答えた。


「そんな大層な事は目指してないけどね。でも、この村は救うつもりよ」


 その言葉を聴き「本当にそんな事が」とエイミーが何やら呆然としている。


「それでエイミーにも色々と手伝って貰いたいんだけど、いける?」


「はいっ私に出来ることなら何でも言ってください」


 リーナが差し伸ばした手をエイミーが掴み起き上がる。


「それじゃあ作戦会議といきますか」



 患者の邪魔にならない様に応接間を貸してもらい、そこで話をする事にした。


 キーンさんにはエイミーが起きたという事で休んでもらっている。結界の維持は一人が起きていれば大丈夫らしい。


 椅子に座り幾つかの本を広げてリーナが喋り始めた。


「呪いは祈祷師と呼ばれる者が呪言という物を使う事で発生して、これは人と魔物と問わず使う事が出来るわ。もっとも人が使ったら殆ど自爆みたいな物だから呪いが効かない魔物しか使わないけどね。効果としては複数の病気の併発、肌に火傷の様な怪我、精神に異常とまぁ色々」


 リーナの説明にエイミーが続ける。


「対抗手段は私の様な聖職者が使える神の加護のみですが、それでも完全なものとは言えず、結界内でも僅かに呪いが進行し呪いが解かれるまで病に倒れたままとなってしまいます」


 説明しながら落ち込んでしまったエイミーの言葉を聞いてふと思った。


「これだけ強力な攻撃手段なのに、何か対策を立てたりはしないのか?」


「戦地なら兎も角、村単位では対策なんて取らないわね。そもそも呪いってのは発動までに時間も労力もかかるし、その間に怪しい人物が居たら誰か気が付くでしょ?戦地で使う時も性質上防衛目的が殆どね」


「そうか・・・なら何でこんなに突然に」


「そうよ、そこが変なのよ。怪しい人は居なかったって言うし、この村に呪いをかける理由も見当たらないし、呪ったら呪ったで放りっぱなしだし、何をしたいのかさっぱり」


 そうだ呪いをかけて村を全滅させたいのなら、教会に対して攻撃が来ないのはおかしい。それに空から偵察した時も、俺達が突入した時も、アンデッド達以外に敵が見当たらなかったのは何故なんだ?


「うーん、考えた所で答えは出ないだろうから、とりあえず呪いを解除する事だけ考えましょう」


「解除するにはどうすれば良いの?」


 レオの質問にそのままリーナが答える。


「呪いをかけてる奴を殴るなり何なりして集中を途切れさせれば良いわ、もっとも近づくのが難しいんだけど。エイミーは村の中心に行ってみたりした?」


 落ち込んでしまっているエイミーに声を掛ける。


「いえ、村の人たちを避難させるのが精一杯で、それに村の中心に近づくほど呪いが強まって近寄れるかどうかも」


 その話を聞いて少し考えた後にリーナが話を再開した。


「一番良いのはエイミーに結界を張ってもらってレオに相手を蹴散らして貰う事だけど、出来るかどうか解らないなら他の手も考えなきゃね」


 そう言い何故か俺をちょいちょいと手招いてた。


「と言う事でリョウ。アンタちょっと外を走ってみなさい」


 突然の提案だった。


「何でいきなり」


「アンタこっちに来る間に何か体に不調があった?」


「いや、特には。少し悪い空気を吸った感じがあった位かな」


 そうだ、レオやリーナは突入する際の間だけでも呪いの効果が表れていたのに、俺には特には効いていなかった。


「そうよね、じゃあその呪いに対するアンタ自身の体がどれ程のものか実験してみないと」


 そう言って手を掴み引っ張られる。


「いやいや外はアンデッドとか居るだろ」


「近くのはアタシとレオが倒すから大丈夫。レイスもエイミーが居れば大丈夫だし、いざとなったら結界に逃げていいから」


 そのままずるずると外まで連れて行かれ、それを見送ってしまっていたレオとエイミーも後に続いていった。

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