2-6 リーナ先生の魔法教室
病院へと向かう途中で魔法の教本や資料を幾つか買ってもらった。
この状況で買えるのか不安だったが、無事に買うことが出来た。
店の人達は俺達を見るとタダで持って行ってもらって構わないと手渡してくれたが、俺の引き起こした現状を考えると心苦しいなんてものではなく、リーナに頼みお金を払ってもらう。
宿代とかも色々払って貰ってばかりだし、何時か借りは返さないとな。
歩いていく中我慢できずに本を読み始めたが、正直な所読んでいるだけで楽しい。
勉強自体は元々そんなに嫌いでは無かったが、やはり魔法と言われると書いてあるもの全てに興味が湧いて来る。
最初にリーナから貰った本よりも初心者向けに解りやすく図解などもされており、ページを捲る手が止まらなくなっていた。
「勉強熱心なのは良いけどちゃんと前向きなさいよ」
読むのに夢中になっているとリーナに叱られた。
「そうだけど、いやそうだな我慢しよう」
実際問題危ないなと本を閉じるもやっぱり気になる。
「それだけ楽しそうに読んでもらったらその本を書いた人も冥利に尽きるってものね」
「ある意味で俺の夢みたいなものだしな、内容は正しく教科書って感じだけど、書いてる文章だけでも楽しくてしょうがない」
「じゃあそれに書いてる内容が使えるよう頑張らなくちゃね」
意地悪そうにニヤ付きながらこちらに言ってきた。
「ああ、これが俺の最初の一歩になるんだ。やってやるぜ」
気合を入れて答えると「ふふっ」と笑いリーナは前を向いた。
病院に着き病室に戻るもレオはまだ眠ったままだった。
リーナはレオの様子を見た後、フラヴィオさんに許可を取り空いた部屋に泊まる事にし、俺は魔力の放出の練習をしながら教本を読むことに一日を費やした。
次の日になり目が覚めても隣に居るレオはまだ目覚めていなかった。
「そろそろ起きてもらわないと流石のアタシも参っちゃうかもね」
そう言いながらリーナはレオの頭を撫でた。
「くよくよしても仕方ないし、勉強の続きをしましょうか」
リーナが泊まらせて貰っている部屋に行き、机の上に先日教本と一緒に買って貰ったノートを広げ椅子に座り鉛筆を構える。
「さて何から教えようかと思ったけど、一から全部教えないといけないわね」
机を挟んで正面に座っているリーナが教本をぺらぺらと目を通し、こちらに本を渡して話し始める。
「まずは魔法の前の魔力の基本的な所からね。そもそも魔力と言うのは生き物、無機物問わず空気中にも存在するもので、アンタの世界にもアンタに魔力がある所から多分あったのだと思うわ」
「でも俺の世界だと魔法を使う人なんて居なかったけどな?」
「そこは魔法として確立されるかどうかって問題なって、確立までの研究云々とか別の話になっちゃうから置いておくとして、アンタの魔力が残っている事を考えると直感的な部分では使えてたんでしょうね」
解説を続けながらリーナは椅子から立ち上がりベットへと近づいていく。
「魔力は気力でも何でも自分の中にあるエネルギーの一つと思ってもらって大丈夫。それを使う事で魔法としてだけでなく、速く走ったりと身体能力の強化が出来る様になる。そしてそれを突き詰めると」
そう言うとリーナはベットを両手で頭の上まで持ち上げて見せた。
「うおっすげぇ!」
「まぁこんな感じで持ち、上げる、事、が」
口調が震え、腕がぷるぷるし始めている。
「ああっもう無理!」
魔方陣が出現し風がベットを包み支え、リーナはゆっくりとベットを下ろした。
「ふぅ・・・こうやって大きな物を持ち上げたり出来るんだけど、それをちゃんと出来るようになろうとすると魔法を使うのとはまた別の方向で訓練が必要になるわ。レオは魔法はからっきしなのにこっちは得意だから前に教えてもらおうと思ったんだけど、どーもアイツの教え方って解り難いのよね」
「レオって魔法は使えないのか?」
「そうね、どうも上手くいかないみたいで」
「あの剣から雷を撃ってったあれは?」
「ああ……あれはアタシの魔法で雷を出してるってのもあるし、あれは特別だから」
何処かはぐらかすかの様にリーナは答えた。
「それで話を戻すけど、ここまでじゃなければ魔力を使えるようになったら身体能力の向上が出来るようになるわ。多分だけどアンタの世界でも図抜けて足が速い人とかは無意識のうちに使えてたのかもしれないわね」
「成る程」
レオが見た目以上の力で立ち回っているように見えたが魔力による強化もあったんだな。
「それと他に基本的な使い方の一つとして魔力を放出して防壁を作り、相手の攻撃を防ぐって物もあるわね。これはアタシやレオが結構やってたし見覚えあるでしょ?」
ボアフットとの戦いの中で何度か攻撃を防いでいる場面を思い出した。
「一先ず魔力そのものの話としてはこんな所かしら。他にも色々あるけど別の機会にしましょう。それで次はその先、魔法の話ね」
リーナが手を前に出し手のひらの前に魔力を集めると、魔力が火に変化した。
「魔方陣が無くても作れるんだな」
「そうね、魔方陣は魔法を使う際の補助や強化の為のものだから。順を追って説明して行くと」
火が消え、再び魔力が手のひらに集まっていく。
「これが魔力を集めた状態、そしてこれが魔法として魔力を変化させた状態」
魔力が火の塊へと変わる。
「魔法への変化は自分の中でイメージを作る事で変化させる事が出来る。その原理を説明し始めると物質変化がどうのこうのと面倒だから、やれば出来ると思うだけでいいわ。でも魔法を使う際に躓く人はここか、魔方陣の作成で躓くからそこは覚悟しておきなさい」
まだ魔力にすら到達出来ていないが覚悟だけはしておこう。
「そして次の段階が魔方陣」
手の上に小さな魔方陣が展開される。
「さっきも言ったとおり魔方陣の役目は魔法を使う際の補助的な物。これは自身の魔力を大気中の魔力、星の魔力と言っても良いわね、それと混ぜて魔法自体の強化と効果の確実性を目的としているの。魔方陣の効果は前に渡した本に書いてあるわ」
前に渡された分厚い本を取り出し開いて見てみる。
「ここの説明にも書いてあるように魔法陣の内側の紋様が魔法の属性や形、陣の周りの文字が魔法の効果や撃つ場所とかを・・・あっ!」
説明の途中でリーナが声を上げた。
「いきなりどうした?」
「アンタこの魔法陣の周りに書いてある文字はどんな文字をしてるように見える!?」
「え?まぁ俺から見たら文字は全部日本語に見えるけど」
それを聞いたリーナは「しまった」と言う顔をして頭を抱えた。
「そうだった、アンタはそうだった」
「どうしたんだよ」
少し考えた後にリーナが答えた
「この魔法陣の文字は普段アタシ達が使ってるものじゃない特殊な文字で書かれていて、それ以外の文字だと反応しないのよ。だからこの文字をちゃんと読めないと」
「魔法を使う事は出来ない?」
「そうなるわね」
「そんな……」
自分が積み上げようとした物が足元から消えていく感覚に襲われる。
「ま、待って。アンタってこう書けば文字として読めたはずよね?」
リーナが一文字、一文字をノートの1ページ毎に書いていく。それは見たことも無い文字で書かれていた。
「見たことが無い文字で見える。俺の居た世界の英語の文字にも見えるけど、似てるだけで全然違う文字だな」
その言葉を聴いてリーナは大きく安堵の息を付いた。
「よかったー・・・これならなんとかなりそうね」
「え!?つまりどういう事だ!?」
リーナが一人納得している雰囲気を出していたので思わず声を出してしまう。
「今書いた文字が魔方陣に使う文字なのよ。最初にこの世界で会った日に言葉や文字がどう見えるのか実験したでしょ?そうよ、アンタは文章として成り立っていない文字としてならこちらの世界の文字として見えるんだから、いざとなったら文字単位で覚えれば良いのよ」
「えっと……つまり?」
「大丈夫って事。驚かせちゃってごめんね」
「そうか、よかったぁ……」
安堵から思わず椅子からずり落ちてしまいそうになった。
「ええっと、何処まで話したっけ?そうだ魔法陣の説明の途中だったわね」
気を取り直してリーナが説明を続ける。
「魔方陣は使う魔法の規模によって複雑化するし、大きく描く事で更に強い威力の魔法が撃てるようになるわ。だから大技を使いたかったら何度も練習して早く、丁寧に描けるようにならなくちゃね」
そう笑顔で解説をしていたリーナの顔が硬い表情を浮かべた。
「そして最後に、これは魔法の事と言うよりも魔法使いとしての心得みたいな物だけど、魔法使いは決して油断したらいけない」
リーナは手を握り、握った手が小さく震え始める。
「アタシもこの間それを痛いほど実感した。頭の中では解ってた、でもアタシはあんなのに負けたりしないと過信してた」
俯き話す声が少し震えている。それを静かに聞いていた。
「アタシの油断で人質に取られて、レオがやられている所を見てるしかなかった、本当に取り返しの付かない事になるところだった」
少し間を置き、震えを止めて顔を上げる。
「アタシもアンタと一緒にもっと強くならなきゃね。もう絶対にあんなへまは起こしたりしない」
顔を上げたリーナは何時もの強気の表情で決意を表していた。
強い人だな・・・。真っ直ぐに相手を見る目を見てそう思った。
「それじゃあ座学はこれぐらいにして、また魔力の放出の練習と、今日は文字の部分以外の魔方陣を描く練習もしましょうか」
「俺はまだ魔力出せないけど、どうやって描くんだ?」
「ペンとノートがあるでしょ」
成る程確かに。
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