2-7 新しい旅路へ
次の日もまだレオは起きてはいなかった。
リーナは周りのトラップの再設置をしてくると外に出た為、魔力の放出の練習をする事にする。
昨日もリーナに手伝ってもらい何となくは自分の中にある魔力の気配を掴めてはいるのだが、やはり進歩
が見られずやきもきした気分になって居る時、隣から声をかけられた。
「おはよう」
レオがベットの上で体を起こし、こちらに笑顔を向けていた。
「レオ!目が覚めたか!」
ベットから飛び降りてレオの元へと向かう。
「やっと起きたな、リーナも滅茶苦茶心配してたんだぜ」
「ごめん、心配かけたね。でもおかげで体の調子はもう大丈夫みたいだ」
背伸びをしながらレオが答えた。
「僕はどれ位寝てたんだろう」
「今日であれから五日目だな」
「そんなにか……そうだ、その後襲撃は来なかったの!?」
やっぱり気になるのはそこだよな。
「大丈夫だ。あれから一度も攻撃は来てない」
「そうか」
レオがほっと安堵の息を付く。
安心した表情を見てやはり俺は言わねばならないと思った。
「今回は、いや今回もか、本当にごめん!」
そう頭を下げるとレオはキョトンとした顔を浮かべた。
「どうしたのさいきなり?」
「今回の戦いでこんなに怪我させて、二人に迷惑かけて、俺一人逃げたりして、本当にごめん!」
謝らなければと思った、その後に返って来る答えを何となく解っていても。
「気にしていないと言ったら嘘になるかもしれない。でもリョウを逃がすと判断したのは僕達で、それでも君は僕達を助ける為に戻ってきてくれた、寧ろ僕が感謝したい位さ。リーナを助けてくれてありがとう」
レオは頭を下げて礼を言った。
許してくれるのは解っていた。自分の事を卑しい人間だと思ったが、それでも謝っておきたかった。
「リーナからも同じような事を言われたな」
「だろうね、逆に謝ったら怒られたりしたいんじゃない?」
「良く分かったな」
驚いて見せるとレオが笑って返した。
「昔からそういう所は殆ど変わらないからね」
まぁ見るからにそんな性格をしてそうな気はする。
「そう言えばさっきのは魔力の制御の練習をしてたのかな?」
言われて再び驚く。
「何だかさっきから見透かされてるみたいだな」
「そんな事はないよ。体の中の魔力を動かしていたのが見えたからね」
「まじで!?そうか、実感はまだないけど少しずつ前に進んではいるんだな」
実感はなくとも確かな進歩を手に握り締める。
「変わったね」
その姿を見てレオが呟いた。
「そうだ、変わっていくんだ。全力で、絶対に」
決意を再確認していると病室に声が響いた。
「レオー!」
リーナが声を上げレオに向かって走ってくる。
「ああ、リーナおはよおおっ!」
そのままレオに飛びつきベッドに二人して倒れこんだ。
リーナが何かを言おうとしているが泣いているせいで何を言っているのかは解らない。
最初は驚いたレオもそれを見て優しくリーナの頭を撫でた。
「ごめん」
その言葉にリーナがレオを抱きしめながら頭を横に振る。
「そうだね、ありがとう」
これは俺は居なくなった方が良さそうだなと、泣きじゃくるリーナを見てそう思った。
魔法の教本を持ち、病室から出て目的無く歩いていく。
リーナが落ち着くまでの時間つぶしではあるが何処に行こうか。
何となく階段を上がり屋上へと出た。
干されている洗濯物が、気持ちよく吹き抜ける風に揺られていた。
手すりを掴み、眼下に広がる町を見つめる。復興の作業がまだ行われている。
「頑張ろう」
それしか俺には出来ないのだから。
病室ではリーナが泣くのを止めてぐすぐすと鼻をすすっていた。
「ごめん、アタシのせいで」
「大丈夫、僕もこうして助かってるんだし」
「でも、アタシが捕まったせいでレオがこんな。本当に、本当に死んじゃうかと思った」
「だからリーナだけのせいじゃないよ。僕だって油断してたんだ」
「でも、でもぉ……」
また泣き出しそうになっているリーナの頭をよしよしと撫でる。
「いっつも僕が謝る時は怒るのに、自分は謝ろうとするよね」
「そんなことないもん」
涙を拭い口では否定するもリーナは大人しく頭を撫でられた。
「外に、出なければ良かったのかな」
リーナがポツリと呟いた。
「どうして?」
「だって、アタシがレオを連れ出したからリョウとも会って、そのせいで敵も来て、それが無ければレオも怪我しなくて良かったし、アイツも色々背負わなくて済んだかも」
そう言っているリーナをぺちっと指でデコピンする。
「いたっ、なによ」
「本当にリーナは何でも自分に背負い込もうとしてさ、ちょっとは僕に頼ってくれて良いんだよ?」
「でも……」
「でもじゃない」
「だって」
「だっても禁止」
「う~……」
リーナが顔を赤くしながら唸りぷるぷると震える。
「そもそもアンタが悪いんだからね!何日も何日も寝続けて、アタシを心配させて!」
感情が噴出し、立ち上がり泣きながら怒り始めた。
「アンタは謝られていれば良いの!アタシは謝ってんの!」
「言ってる事が変になってるよ」
「うるさいっ!アンタこそ何時も、何時も!!」
涙を流しながら感情のままに色々な事をこちらにぶつけて来る。
色々と不満をぶちまけた後にようやくリーナが落ち着いた。
「何だか小さな頃の話まで出してたね」
「良いでしょ別に」
そう言ってツーンっとリーナは横を向いている。表情は怒っている様にも見えるけど、情けない顔をしているよりも余程リーナらしい。
「そう言えばリョウが魔力の練習をしていたみたいだけどリーナが教えてるの?」
聞かれてリーナがこちらに向き直る。
「そうよ、なんかやる気ある目をしてたし教えてやろうかなって。そうだ、それで相談したい事があるんだけど」
「なに?」
「リョウのこれからの事で」
しばらく屋上で教本を読んだ後に病室に戻ると、リーナは目を真っ赤に泣き腫らしてはいたものの元気にレオと喋っていた。
「よっ、もう戻ってきても大丈夫かな?」
問われて二人がこちらに気が付いた。
「おかえり、何だか気を遣わせたみたいね」
「俺だって空気ぐらい読むさ」
「丁度リョウの話をしていたんだ。ちょっと来て」
言われて行くとベッドに地図が広げてある。
「なんかあるのか?」
「リョウはこれからどうしたい?」
問うと逆にレオから問い返された。
「どう、か……今はとりあえず魔法を使えるようになるための特訓かな。だからリーナに着いて行きたいと思ってる」
「そうだよね、それでちょっと考えたんだ。僕たちは元々村に帰る予定だったけど、もう少し旅を続けて良いんじゃないかって」
「それってどう言う」
「アンタ的にはこのまま村に帰って静かに過ごすってのは何か違うでしょう?だからね、ちょっと遠いけど魔法の学校まで一緒に行こうと思うのよ」
突然の申し出に驚いた。
「良いのか!?俺なんかの為にわざわざそんな」
「良いのよ、アタシ達も用事があると言えばあるしね。ほらボアフットってのを倒したでしょ?あれの懸賞金を貰いに行けるし」
ああ、そう言えばそんな物もあった気がする。
「それにアタシは適当な理由つけて旅を続けたいだけだから、別にアンタのって為じゃないわ」
その言葉を聴いてレオが少し笑ってしまうと、それをリーナが肘で小突いた。
「ともかく!アンタはどうしたいの?村に行くのと旅を続けるのと」
願っても無い申し出だった。断る理由も無い。
「旅を続ける方を。これからもよろしくお願いします!」
頭を下げ新しい旅に行く事を決意する。
「よろしい、でも学校に連れて行くからって修行は手を抜かないからね。むしろ入る前に色々極めて歴代最強の入学生にするつもりでビシバシ行くわよ」
何だか無茶振りをされた気がする。
「それで今後の旅の予定なんだけど」
レオが地図に手を置いて説明していく。
「今僕達が居るのがここのラグーザ」
内陸にある山間を抜けた盆地の一角にある場所を指差す。
「そして目指していく場所がここの港町ヴィエステ」
結構な距離を指でなぞり港町へと着く。
「ここから船に乗って行った先がさっき言った魔法学校もあるバルレッタ」
「大分長旅になるな」
「そうね、旅費とかは道中で稼いだりしないといけないわね」
旅の日程を色々と話した後、次の日まで体を休めると決め、旅の準備に取り掛かる。
レオは体が鈍ると素振りを再開しようとしたが、リーナに無理やり病室に連れ込まれ寝かせられている。
旅の用品や食料を買って町の人たちにお礼を告げ、部屋に戻るとリーナ達は輝く水晶の様なものに喋りかけていた。
「なにやってるんだ?」
話しかけたときには丁度終わっていたようで水晶の輝きが無くなって行く。
「ああ、魔法で村のお父さん達に旅を続けるって話をしてたの」
「両親から止められたりしなかったか?」
「まぁちょっと怒ってたけど許してくれたわ。それにお父さん達もアタシ達が簡単に帰ってくるとは多分思ってなかったろうし」
「どんな村からの出発だったんだ・・・」
「それはもう、リーナが村から出るって駄々をこねていた時に丁度お使いの予定が出来たものだから」
「良いでしょ、今はそんな話!」
日が替わりフラヴィオさんにお礼を言って病院から出た。
町から出て次の場所を目指して歩き始める。出発日としては絶好の天気だ。
「さぁて張り切って行くわよ!」
「「おーっ!」」
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