2-5 魔法のイロハの為の特訓

 墓参りを済ました俺とリーナは元居た宿へと向かった。


「荷物も取りに行きたいし、久々にお風呂に入りたいわ」


 そう言ってリーナは自分の部屋に入って行く。


 俺は俺で自分の部屋に戻りベッドに座って待っていた。


 色々とあって決断して始める事だが、やはりちょっと気分が高揚してきてしまう。


 今から魔法を習うのだと思うと否応なしに高ぶってきた。


 どんな事を学ぶんだろう。見るに魔法陣を作り出し魔法を放つのだろうとは想像が付くがどんな事を学ぶんだろう。


「おまたせー」


 色々と考えているとリーナが部屋にやって来た。


 髪は洗って何時ものように後ろで綺麗に纏めてあり、手に本を二冊持っている。


「アンタに教えるように教本とかあれば良かったんだけど、あいにくと持っていなかったから取り敢えずはこの二冊だけね」


 どちらも分厚い本だが一冊はもう片方のとくらべて厚さも本の大きさも一回りは大きい。


「これは、まぁ暇な時に見る位で良いと思うわ。まだ必要はないけど覚えるべきはこっちね」


 リーナは正面に座り小さい方の本を脇に置き、大きな方の本をこちらに見せてきた。


 本には多種多様な魔方陣とその効果が書いてあった。本の厚さから察せられる量の多さに眩暈がしそうだ。


「別にこれを全部覚えろってわけじゃないわ。使ってみて使いやすい魔法の系統のを覚えて行けば良い。まぁアタシは全部使えるけど」


 目を白黒させる俺を見てリーナが笑って自慢げに言った。


「そっちの本は何の本なんだ?」


 横に置かれた本を指す。


「そっちは魔力を魔法へと変換させた時の現象の話とか、魔方陣作成の際の大気中にある魔力の反応と固定化云々とか、これからもずっと魔法の研究をしていくなら知っておいた方が良い物だけど、今は読み物として何となく目を通す感じで良いと思うわ」


 ちょっと手に取り中身を読んでみるも、


「そもそも魔方陣と言うものは自身の魔力のみによって描かれる物ではなく、自身のイメージした形に魔力を放出する事で普段大気中に存在している星その物の魔力と言うべき魔力が反応し、それらが作用した結果魔方陣と名づけられた発光現象が起き、自身の持っている魔力以上の魔法が放たれる仕組みとなっている。つまり私達の魔力はこの星その物に作用している物である。では何故、魔法によって人の回復や物質の新たな生成や破壊が可能であるのに、物質その物に魔力を作用させる事が出来ないのか。仮説としては」


 うーん、読んでいるだけで頭が痛くなりそうだ。


「これってリーナはちゃんと中身が解ってるのか?」


「とりあえず一通りね」


「はー……レオにもそう思ったけど、リーナもやっぱすげぇんだな」


「フフン、そんなアタシに一から魔法を教えてもらえるんだから感謝しなさいよ」


「本当にありがたいと思ってるよ、これからよろしくお願いします。師匠!」


「師匠?」


 頭を下げて改めて頼むとイマイチな反応が返って来た。


「もしかして師匠って言葉はこっちには無かったか?」


「いや、あるけど……師匠呼びはちょっと」


「じゃあ先生で」


「先生なら……いや、何だか恥ずかしいから今までどおり名前呼びで良いわ」


「そうか……」


 割と師匠呼びを楽しみにしていたんだが、嫌なら仕方ない。


「さてと、知識も必要だけどその前にアンタは基礎の前の前の事を出来るようにならなきゃね。と言う訳で手出して」


「え、なんで?」


「いいから両手とも前」


 言われて両手を前に出すと両方の手を握られた。


「!?」


「いい?アンタにもアタシ達と同じく魔力がある。アンタの世界では使う事が無かった、いや魔力が消えずに残っているから少なかったと言った方が正しいかな?それを今から」


 リーナが説明してくれているが正直話が全く入ってこなかった。


 両手を柔らかいリーナの手に握られ必然的に顔が近くにある。よく見なくても美少女だ、解ってはいたものの意識をしたら直視出来なくなっていた。


 風呂に入った後という事もあり、ほんのりと甘い香りがしてくる。少し濡れた髪も艶やかだ。目の前に主張するシャツの膨らみも、ズボンから伸びる脚も、全力で思考を破壊していく。


「聞いてる?」


「は、はい!」


 明らかに不機嫌な声をかけられ慌てて返事をした。顔を赤くして慌てる俺を見てリーナが少し恥ずかしそうにしている。


「もう、変なこと考えない!真面目にやらないと教えるの止めるからね」


「はい!真面目にやります!」


 そうは言ってもやっぱり気になる


「ちょっと待ってくれ」


 リーナから手を放して、両頬を思いっきり叩き渇を入れる。突然頬を叩きパァンッと鳴った音にリーナがビクッと驚いた。


「よしっ続きをお願いします!」


「……まぁ気合が入ったのなら良い事ね」


 出した手をもう一度リーナが握った。


「いい?今からアンタの中にアタシの魔力を流して、アンタの魔力の流れを作り出すからそれを感じなさい。その魔力流れを自分で作り出して体の外に出せるようになるのが最初の目標だから」


「わかった、やってみる」


 頷き集中する為に目を閉じた。


「じゃあ行くわよ」


 そう言われ少し時間が流れ後、自分の中に何か温かい力が巡るのを感じ始めた。


 その力はリーナが握る右手から流れ体の中を巡り、左手を通ってリーナの元へ帰って行く。


 力が流れ込む感覚と流れ出る感覚。どちらにも何処か覚えがあった。


「そうだ、村の様子を見せてもらった時とこの世界に来たばかりの時だ」


 最初に村に着いた時に空から魔法で様子を見させても立った時と、この世界に着たばかりの時の自分から溢れ出た力の感覚を思い出した。


「魔力の流れの話?そうね、原理としてはどちらも同じ事ね。思念体とリンクさせた時はアンタにアタシの魔力を流し込んで、アタシの魔法をアンタに擬似的に使わせた。この世界にアンタが来た時の魔力の奔流はアンタの中から発していた。この感覚をどちらも覚えなさい」


 しばらくの間手を繋ぎ魔力の流れを体感する。


「よし、感覚を覚えているうちに一回やってみましょうか。魔力を手のひらに集めて、球体を手のひらの上に出すつもりでやってみて」


 そう言いリーナ手を離した。


 目を開き一度手を見つめた後もう一度目を閉じる。


 自分の中に流れていた魔力を思い出しながら力を込める。


 しかし、何も起こらなかった。


「まぁ出来るようになるまで何度でも練習しましょ」


 うなだれる俺にリーナが声を掛けてくれる。


「この魔力の放出って難しい事なのか?」


「うーん、こっちの世界だと小さい頃に殆どの人が自然と出来るようになるものだから何とも。でも今やってるのは出来なかった人用の訓練だから、大丈夫よアンタも出来るようになるわ」


「ああ、頑張る」


 励ましの言葉を素直に受け取った。


 自分で決めたんだ。曲げたくない、曲げるものか。


「それじゃあ病院に戻りましょうか。それと魔法の教本とか他にも色々買って行かないとね」


 宿を出て病院へと向かう。


 その間も魔力の放出を挑戦し続けたが成果は得られなかった。

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