1-1 始まりの出会い
勢い良く投げ出され、地面へと滑り込む。
擦った顔を摩りながら顔を上げると、そこは夕暮れ時の森の中であった。
ここはどこだ……
突然の出来事に当然の不安が生まれるが、それ以上に体の内側から力が湧き上がるのを感じる。
立ち上がり周りを見渡した瞬間、近くで女性の悲鳴が上がった。
「これってそういうやつじゃ!?」
不安が期待感に押しのけられ、悲鳴のした方向へ走り出す。
そこにあった光景は二足で立っている大型の狼のような魔物と、それに襲われている、まるで下着のような服を着た金髪の美少女であった!
「いっよっしゃあああああ!!」
思わず上げてしまった歓声で魔物と少女がこちらに気が付き、魔物が距離を開けるように飛びのいた。
少女の方はこちらを見て信じられないと言った顔をし、驚きの声を上げる。
「だ、誰よアンタ!?それに、この馬鹿みたいな魔力はアンタから出てるって言うの!?」
魔力、魔力と言ったな。それも少女がこれだけ驚き、魔物が怯えるだけの魔力が俺に!
テンションが上がった少年は思わずポーズを取り、叫んだ。
「ふっ、俺は地球から来た勇者、真田 涼だ!やい、そこの狼男!この俺が相手になってやるぜ!」
名乗り上げを聞き魔物が怯むも、逃げられないと悟ったのか唸り声を上げ意を決し飛び掛ってきた。
迫り来る魔物相手に不思議と恐怖はなかった。
自分の中から溢れ出る力、まさに天をも揺るがす事が出来そうな力を持ってすれば敵では無いと確信があった。
手をかざし、力を集中させ、叫び、放った。
「くらいやがれっ!」
しかし なにも おこらなかった
魔物は勢いそのままに涼の胴を爪で切り裂き、弾き飛ばされた涼は木へと叩きつけられた。
「もう、本当なんなのアイツ!?」
力なく崩れ落ちる涼を見て、少女が思わず悪態を付きながら近くにある服と共に畳んであったマントを取り、手を正面に構える。
マントが光り、かざした手の前に魔方陣が浮かび上がろうとするが、涼から発している膨大な魔力にかき消されてしまう。
どうにか試そうとするも上手く行かず、魔物が涼の元へと迫っていく。
一瞬悩むも近くの石を魔物へと投げ挑発した。
「アンタの相手はアタシよ!」
強く言い放つが、魔物がこちらへと向くと強気な顔が恐怖で歪む。
「こんな奴いつもだったら相手にもならないのに」
ジリジリと後退していくが、魔物が逃がすまいと襲い掛かる。
振りかざされた腕を寸前の所で避けるも、素早く振りぬかれた逆の腕に吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「かはっ」
詰った息を吐き出し立ち上がろうとするが、首を魔物に掴まれ持ち上げられた。
ギリギリと嫌な音がし、懸命に抵抗しようと足をバタつかせるも虚しく空に揺れる。
少女から涙がこぼれ意識が遠のいて行こうとする時、少年の叫びが響いた。
「リーナアアアアアアア!!」
叫びと共に投げられた剣が魔物の背中へと深々と刺さり、絶叫と共に掴んでいたリーナを落とす。
駆けて来る少年へ魔物が振り向きと同時に渾身の一撃を加えようとするも、少年はその腕の下に潜り込み、起き上がりと同時に持っていた剣で腕を切り飛ばした。
悲痛な叫び声を魔物が上げる。
魔物が痛みにバランスを崩し、後ずさった所へ少年が飛び込み首を両断した。
首を失った魔物が血を噴出しながら、大きな音を立てて地面に倒れこむ。
一息付き、剣を納めた少年はリーナへの元へと走り寄った。
「ふぅ、危なかった……リーナ、大丈夫?」
「げほっげほっ、なんとかね、助かったわ」
咳き込みながらリーナが差し出された手を取ろうとすると、少年の手が「ピタッ」と止まり少年が背を向けた。
「ん?レオ、どうしたの?」
レオと呼ばれた少年はリーナから尋ねられた疑問にしどろもどろと落ち着かない様子で答える。
「い、いや、その、リーナが、その」
リーナが立ち上がろうとした時、自分が下着姿だった事を思い出した。
「あっ服を着るから、ちょっとそのまま!」
リーナが顔を真っ赤にさせ手や足で自分の体を隠そうとうずくまる。
「ごめん」
思わぬ事態にレオが顔を赤らめ謝るもリーナは「大丈夫」と答えた。
「別にアンタが謝るような事じゃないわよ、わざとって訳でもないし……よしっ」
慌てて畳んであった服を着て、髪を整え後ろに一つ結びにした後にレオを振り返させる。
「もう大丈夫、なんにせよ本当に助かったわ。いつもならあんなの苦戦しないのにアイツのせいで、そうだアイツ!」
「あいつ?」
リーナが向かっていった先に涼が倒れている。
「死んでは……ないわね、ケガもこの調子だと大丈夫そうね」
涼の服は大きく切り裂かれているも、そこから見える傷は殆どが治りかけていた。
「彼はどうしたの?」
「んー、一応助けて貰った……かな?突然出てきて吹っ飛ばされただけだけど、一応ね。居なかったらレオが間に合わなかったかもしれないし」
リーナが涼を突いてみると少しだけ反応を返した。
「回復魔法を使ってやりたいけどこんな調子だと使えないし、でも大丈夫そうで安心したわ」
一通り確認した後にリーナが立ち上がる。
「彼は一体何者なんだろう」
レオの疑問にリーナは肩をすくめて答えた。
「さあね、起きたら色々と問いただしましょう。聞きたい事は山ほどあるし」
リーナはそう言い、涼から放たれ天まで渦巻く魔力の奔流を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます