異世界に着いた俺は勇者ではなかったけれど、仲間達と旅をします

キバヤシ ケイジ

第一章

プロローグ

 俺は小さい頃、勇者になるのだと思っていた。


 事故で両親を亡くし、その時に得た額の傷、まるで物語の主人公のようだと思っていた。


 今になって思うと自分を見失ってしまわない様、子供ながらの自己防衛だったのかもしれない。


 それでも本気で勇者になるのだと運動をし、困っている人を見かければ率先して声をかける。


 そんな生活を送っていた。


 しかし、その思いも中学、高校となるに連れて薄れていく。


 別に今の生活に不満があるわけではないが、至って普通の学生生活を送るようになっていた。


 学校で出会った友達と遊び、勉学に励む。普通の学生としての生活。


 友達と遊ぶ事は楽しかった、ゲームや漫画は面白かった。


 人助けもまずは自分の事を優先するようになった。


 両親が居ない事は周りから羨ましいと言われ、気が付けば額の傷もなくなっていた。


 自分は特別な存在ではなく、誰かを救えるような勇者になれる世界でもない。


 日常の中で幼い頃に抱いた妄想は何処かへと消えていくのだろう。


 そう思っていた自分の前に今、暗い、暗い、謎の空間が広がっていた。


「なんだこれ」


 思わずそう呟いた。


 夕飯の食材を切らしていた事を思い出し、面倒だからと近くのコンビニで弁当を買ってきた帰りであった。


 行きには確かになかった暗い空間が街灯に照らされた夜道に広がっていた。


 最初は目の錯覚かとも思ったそれは、近づいても確かにそこにあった。


 そこだけぽっかりと穴が開いてるかのような奇妙な空間は、横から見てみると厚みがなく、見るからに異質な雰囲気を醸し出していた。


「なんだこれ」


 二度目を口にし、手を伸ばし触れようとするが、寸前の所で思いとどまる。


 触っても大丈夫なのだろうか?そもそもやっぱり目の錯覚ではないのだろうか?


 そんな考えが頭を渦巻き、とりあえず携帯を取り出し写真を撮ってみる。


 写し出された画面には見ている光景と変わらず、黒い空間が写っていた。


 動画として撮ってみてもそれは変わらなかった。何故だか安心感が生まれる。


 携帯と言う科学的な物でも確かに映る。


 心霊写真などはあるが、そんなものを信じていない少年からすれば、画面に映るそれは現実の範疇にあるものだと確信が持てた。


 試しにとコンビニ袋の中から割り箸を取り出し、空間へと投げてみる。


 すると割り箸は空間を通り過ぎ、コツンと地面へと落ちる音がした。


 回り込んで見てみると、コンクリートの道の上に傷も付いていない割り箸が転がっていた。


「なんだよ、なにも起きないじゃないか」


 ため息をつきながら不満げに呟き空間を見る。


「でも一応は怪奇現象みたいなものか、動画とか上げたらウケるかな?でも映像が地味だしな暗いだけって……あー、後は警察には言った方が良いのか?」


 そんな事をぶつくさ言いながら携帯で録画を続け、持っていたコンビニ袋を下ろし、何となしに空間へと手を伸ばした。


「うおぉ!?」


 空間へと手が触れた瞬間、とてつもない力で空間へと引っ張られた。


 思わず携帯を投げ出し、引っ張られる腕を引き抜こうとするも全くもって敵わない。


「うわああああああああああ!」


 引きずり込まれた少年の悲鳴と共に空間は消え去り、夜道には携帯とコンビニ袋だけが落ちていた。

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