1-2 目覚めた世界に聞きたい事と聞かれる事
揺らめく明かりで目を覚ます。
起き上がると周りは暗くなっており、目の前にある焚き火とランプの明かりが揺れていた。
寝ぼけた頭で自分の姿を見ると服が変わっている。
シンプルな長袖のシャツとズボンなのだが、妙に生地が硬い気がする。
起き上がりごそごそとしていると、近くから声をかけられた。
「目、覚めた?今日はこのまま起きないかと思ったわ」
声のした方を向くと、読んでいた本を閉じこちらに話しかける少女が居た。
その少女の格好を見て思わず口にしてしまう。
「え?なにその服」
椅子に座って足を組んでいる少女の格好は、長袖のシャツに短パンと黒いタイツ。
長い金色の髪は後ろに結って纏めてある。
動き易そうな見た目に女性らしいスタイルが非常に眩しい、眩しいのだが。
「なんで初対面のアンタなんかに服装をケチ付けられなくちゃいけないのよ」
目線に気が付き、少女が不機嫌そうに応える。
相手を不機嫌にさせているのは分っていても口を止められなかった。
「いやさ、最初に見たときはもっと凄い服を着てたじゃん?」
そう、確かに俺が見たときは正に下着姿のような姿をしていた。
「はぁ?……あー、あの時は着替えの最中だったから下着姿だったの。見たのは許してあげるからアンタも忘れなさい」
その通り正しく下着姿だったのだ。しかし、それでも尋ねてしまう。
「あれが普段着だったりはしないのか?」
「バカじゃないの」
バッサリと切り落とされた。
ため息混じりに持っていた本を横のテーブルへと置き、少女はこちらへと尋ねる。
「とりあえずアンタには聞きたい事が山ほどあるわ。アタシの名前はリーナ・エスカロナ。アンタの名前は?」
「俺は真田 涼、地球の日本からやって来た」
何故だか自慢げに自分の名前と出身地を名乗る。
「サナダリョウ?」
微妙にイントネーションのおかしい呼ばれ方で返された。
「真田が苗字で、涼が名前な」
しばらく頭を抱えた後にリーナが続ける。
「……呼び名はリョウでいい?」
「おう!」
びしっと親指を立てる涼にまたリーナが頭を抱えた。
「あ、そうだ。レオ、アンタも自己紹介」
呼び声を聞き、反対側で何やら片付けを行っていた青い髪をした少年がやって来る。
「えっと、僕の名前はレオ・ロベルト。よろしくね」
見るからにイケメンの顔立ちだった。
中性的とも言うべきか、邪気の全く無い笑顔をこちらに向けて、握手を求めてきた。
「お、おう、俺は真田 涼だ。こちらこそよろしく」
握手を握り返した所で気が付く。
「あれ、今俺が着ている服ってお前のか?」
レオは腰に帯刀はしているものの、服装は今の俺と殆ど変わらない見た目をしていた。
細身ながらも引き締まった体をしており、握手した手だけでも強そうなのが分る。
「リョウが着ていた服は破れてたし、汚れていたから僕の服に着替えてもらったんだ。一応は君の服も取って置いてはいるけど」
握手をしていた手を放し、荷物が纏められている方へ向く。
成る程一つの疑問は解決した。しかし、それに連鎖するように疑問が後から後から沸いて来る。
「そうだ、あの時にいた魔物はどうなったんだ?というかここは何処だ?あっ魔力がどうのとか言ってたよな?あれってなんなんだ?そもそもここは何なんだ?」
「ちょっと待った」
捲くし立てる俺をリーナが止める。
「アンタの疑問には答えてあげるから、先に幾つかこっちの質問に答えなさい」
こちらにずいっと詰め寄り尋ね始めた。
「リョウ、アンタはどこから来たって?」
突然質問をされ焦るも答えていく。
「え、地球って星の日本から。多分こことは違う世界かな」
その答えに頭を抱えるも、気を取り直しリーナは質問を続ける。
「どうやって?」
「なんか黒い空間を通って」
「アンタ今何語を喋ってる?」
「日本語……」
「これ見える?」
リーナが手をかざすも何も分らない。
「最後、アンタ途轍もない魔力を持っていた自覚あった?」
言われて気が付いた。この世界に来た時にはあった力を今は自分から感じない。
「あれ?来た時には力が溢れるような感じがしたんだがおかしいな、慣れたのか?」
「全部流れて行ったわよ。そりゃもう綺麗サッパリ」
あっさりと出された結論に思わず声を上げてしまう。
「えっ何でだよ!」
それを「さあね」と言った具合でリーナは流した。
「おおかたこっちに来た時に通ってきた空間の魔力が体にくっ付いていたんでしょ。アンタの物じゃなかったけど、おかげで怪我は治って良かったじゃない。アタシが聞きたかったのは一先ずはこれ位だから後はレオに任せるわ」
そう言うとリーナは椅子へと戻り読書を再開する。
ショックで呆然としている俺と、突然状況を任されたレオだけが取り残された。
夜は長くなりそうだ。
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