あの子の恋愛事情は…!



「金井先輩、ずっと好きでした。付き合ってください。」


俺は今、部活終わりに体育館裏で告白された。

顔を真っ赤にした、可愛い子。

「へ、返事は今すぐじゃなくていいんで。」

この子とは面識がない。

前に話したことがあったとしても、覚えてない。ってことは覚えている程話したことなかったってこと。


一体この子は俺の何を好きになったんだろうかーーーー?

「ごめん、好きな人がいて。」

言って気づく。

やっぱり俺は、ナナが好き。




俺はナナのピアノが好きで、ツンケンな態度もいじらしくて可愛いと思う。

ピアノに一生懸命なところも、「帰れ。」とか言わないでいさせてくれるところも好きだってこと。


ナナのはにかんだツンデレもーーーー。


??

ナナは本当に俺を嫌な奴だと思っていたんだろうか。

ナナが三浦を好きだったとしても「付き合っている」という噂は真実じゃない。

あそこまで怒ることだったのだろうか?

正直ナナの噂とやらについては知ろうとも思わないけど、もう収まりつつある噂にあんなに怒るナナの態度が引っかかる…。


とりあえず明日俺は、秘密基地に行ってナナに謝って、色々誤解だという弁解をしようと決めている。

頑張れ俺!



翌日。

「おはよージン。」

「おはよーミカ、サヤ。」

「ねージン、ニュース見た?」

「なんの?」

「芸能人の鈴木ヒカリが、俳優の西トオルとできてたってヤツ!」

「衝撃だよね。」

サヤが言う。

ああ、昨日からワイドショーで持ちきりの疑惑か。

夜2人で会っていたところを撮られたらしい。でもお互いは関係を否定しているて奴な。

「ああいうのって、本当なのかぁ?」

俺はミカに言ってみる。読者モデルだからこういうことには鋭そう。

「真実は知らないよー。でも別に真実じゃなければそれでいいじゃん?」

真実じゃなければ…?


議員の不倫

芸能人のお泊り

路ちゅー

熱愛etc…。

事実とも取れるゴシップ写真や話題。

確かに。

誤解なら毅然とした態度でいればいい話だ。


「じゃあさ。ばれた!撮られた!やべーってなる時は?」

「わかんないけど…。隠したい真実がそこにある時じゃない?」


隠したい真実がそこにある時…。


隠したい真実ねぇ。



朝のHR。

「おー始めるぞー。欠席いるかー?」

三浦が入ってくる。今日はスーツだ。

スーツが普通なことなのに、ジャージじゃない方が違和感って。

さすが体操のお兄さん(笑)


「あーそうだ金井!」

「あ?」

「昼休み13:20から実行委員会な。生物室。

まじか。

秘密基地へ行けないことが決定する俺。

「はーい…。」


〜〜〜〜〜〜



それは6限の体育の時だった。


靴を履き替えてグラウンドに向かう。

運動靴を持ち上げた時、二つ折りの小さなメモが入っていた。


こ、これは!!

もしや!!

少女漫画でよくある、あれか!?

ラブレターか!?

呼び出しか!?

ドキドキな健全男子、金井ジン。


そっと開く。


「!!!」


そこには知らない女の子から貰うよりもっとドキッとする一言。


『言い過ぎました、ごめんなさい。入江』


まじか。これは。

結構クる。


「ジンー?急げよー。」

篠田と山田が呼んでいる。

俺は焦ってそのメモをポケットに入れた。


「キャー!ジン先輩ー!」

3階から2年の女子が3人手を振っている。

3階は2年の階だ。

俺はとりあえず手を振っておく。

「何やるんですかー?」

キャイキャイと、女の子たちが聞いてくる。

「サッカーだよー!」

「頑張ってくださーい!」

「ありがとうー。」


「ジンーいいなーお前は。」

山田に腕を組まれ言われる俺。

俺は手を振りながら、あの3人の向こう側の廊下にナナがいないか探してる。

なんて男だ(笑)




帰りのHR。

三浦はジャージだ。

アイツ…なぜ着替えた!?

そんなにジャージがいいのか!

スーツを着る必要性は理解できても、ジャージに着替える必要性は俺には見つけられねーよ!

「えーっと。土曜日は半日授業あるからなー。部活あるやつはかぁちゃんに弁当作ってもらえよー」


「今日はおわりー。気をつけて帰れよー。」




三浦にナナのクラスを聞こうかと思ったが、なんだか癪なので、大人しく部活に行くことにした。


このスケコマシ!

お前になんかに頼らねーよ!

ちっちゃい男のプライド。

ほんとちっちゃい俺。




次の日。


今俺…。

音楽室のドアの前にいる。

ピアノの音がするし、後ろのドアからナナがいることは確認済みだ。

でも今、俺…躊躇中。た、タイミングが…。


ドアを20センチほど開けてそっと覗く。

ーーーーナナはピアノを弾いている。

ぱっと隠れる。



…もう一度覗く。


ぎゃ!


目が、あってしまった。

さっと隠れる俺。


ピアノの音が止まる。

??


そぅぅっと…

もう一度覗く俺。


ガラ!

ぐわっっ。

突然ドアが大きくあき、俺は腕を掴まれて引き込まれた。

「入るなら入ってください!!」


ちょっと怒り気味のナナと、腕を掴まれたままの俺。

「あ、や…。」

たじろぐ情け無い男。


ナナの身長は俺より低いから上目遣いで睨まれる。

睨まれているんだけど…照れているようでほっぺたが赤い。カニカミ顔。

出た!必殺ツンデレ。

ちょっと笑いそうになって堪える俺。


「ナナごめん。」


ナナの顔が少しづつ崩れて、次第に困っていく。

手を離すナナ。

「俺結構無神経だった。そういうつもりじゃなくて…。」


「いえ、わたしも感情的になってしまって言い過ぎました。ごめんなさい。」


「別に俺、ナナの事知ったからって何もする気ないよ。正直、噂も知らかった。」


え、知らなかったの?と言う顔だ。

こうしてみているとナナの百面相はなかなか面白い。(俺、本当失礼)


「…ということで!!」


「!?」


「俺とナナの秘密基地は継続いたしますー。拍手!!」

ふざけたように言う俺。

ナナは。


ナナは困ったように、照れたように笑っている。


可愛いじゃないか。

この笑顔は三浦にじゃない。

俺に、俺だけに向けらた笑顔。

ナナは笑うと右側の頬のほくろのところにえくぼができるらしい。

あーやばい。

これは…やばい。

これは可愛い…!

ほっぺた触りたくなるわ…!


ーーーーーーーー。


「俺、ナナのこと好きなんだけど。」

俺はまた口を滑らせた。



ナナは目が点だ。



言ってしまった事に気付いてから、時間がゆっくり流れ始めた気がした。


ドキドキ。


ドキドキ。


ドキドーーーー。

「や、あの…」

沈黙に耐えられなくなって俺は喋る。



ナナの目がちょっと泳ぐ。



「それは…。」



「それは!です。」



え?


ええぇぇ!?



「先輩は私のことそんなに知らなじゃないですか。何を根拠に好きとか言うんですか。」


ーーーーーー。


相変わらずはっきり喋るナナ。

表情に困惑が見える。


「いや、俺はナナのピアノも、ーーーー」

「それは。」

遮るナナ。


「それは違います!!それは恋じゃありません。」


いやいや、そんな全面的に俺の気持ち否定しなくても…。


「仮に好きだとしても、先輩が好きなのはごくごく一部の好きになる要素しか見てないからです」


「だから先輩のその気持ちはです。」


はっきりと言い切るナナ。

面食う俺。


勘違いなのか?と自問したら

勘違いじゃない。という自答しかしない俺の心。



ナナはピアノへ向かう。


どうしてナナはそんな事を言うのだろう。

どうしたら、信じてくれるのだろう。



「ナナ!」


俺はナナの右腕を引いた。

ナナが振り返る


「違うよ。勘違いじゃない。」

振るならちゃんと振ってくれ。




「俺は、ナナが三浦を好きでも構わない」




少しの沈黙が走る。




「私三浦先生とキスしました。2回。

だから、噂は本当ですよ。」



ーーーーーーーーーーー!?




は?

え?

待って。

今の日本語???




ナナは眉間にシワを寄せて、まっすぐ俺の目をみる。



「俺は、それでもナナが好き。」



嘘じゃない。

嘘じゃないんだけど。

だけど

あまりに衝撃すぎて、

とっさにこぼれたその言葉に全く熱が入っていない気がした。





「だけど三浦先生は、お姉ちゃんを愛しています…」


まっすぐ俺を見るナナの目に、宝石が溢れ出す。



「私が不純で最低なだけ。」



「だからこんな最低なヤツ好きとかありえないです。」



俺はナナの腕を掴んだまま

ポケットのなかのくしゃくしゃのハンカチを取り出す。




「ナナは最低じゃない…!」




受け取ってたハンカチ目に当てて首を振るナナ。

俺はナナの顔を覗き込む。




「どう言うことか聞いてもいいの?」










つまり真実はこうだ。


ナナが中3の時、ねぇちゃんの彼氏である三浦が家庭教師さながら受験勉強を面倒見ていた。

「第一志望の公立受かったら好きなものあげるよ。」

と言うよくある(?)約束。

受かったナナは「キスをくれ」と言ったらしい。「一度でいい。そしたら諦める。」

それで三浦はナナとキスをした。

もちろんナナのねぇちゃんは知らないわけで…。

で、3/20に公務員の人事異動発表で三浦がナナの志望校に赴任。

まさかの展開。

面識もあって仲のいい二人は、側から見たら不思議な関係でしかない。

そしてついに、好きを抑えられなくなったナナは英語準備室にいた三浦の不意をついてキスをする。

そこを学生に見られた。(正確にはキスし終わったくらいらしいが。見られたってこと)


で、幸い証拠の写真もないので「付き合っている」「キスしてたらしい」というのは噂に過ぎない。


思春期の好奇な視線は噂を炎上させる。


これ以上はまずいとおもい、個人的な話はしないよう、他人行儀に振舞よう、決める。

三浦が去年秋に結婚したことで噂は終息に向かう。

しかしナナのねぇちゃんが、結婚式のピアノをナナに頼むために楽譜を三浦託す。

で、展開を俺は見てしまったわけだ。





やっぱり、隠したい真実がそこにあったってこと。




ナナが喋り終わったところで予鈴がなって、それから俺たちは音楽室からお互いの教室に戻った。


階段を下る俺。

思考はまたもフル回転。


まじか。

まじか。



あーーーーーまじかぁーーーーー!!


でも俺はそれが事実だったとしてもナナに幻滅したりしていない。


だって。


俺はナナが笑った時、

キスしたいって思った健全な男子。

そう。

三浦にキスしたナナの気持ちがわかる、俺!



幻滅なのは三浦だ。

クソジャージ。リア充5ーーーーーー!!














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