結局アイツにはかなわない。
女の脳と男の脳はそもそも作りがちょっと違うらしい。
右脳左脳の間の脳りょう組織が男性より女性の方が太い。脳りょうは感情を司る機関。
つまりそれが太い女性は男性よりも感情的なのだ。つまり、つまり…。
ナナの泣き虫はいいんだよ!
許せる範囲だよ!って話。
(どうでもいい)
俺は今誰もいない体育館でバスケのボールを投げている。
ダムダム。
ダムダム。
響く音。
外しまくるスリーポイントシュート。
なぜか…?
昨日ついに俺は正式に振られてしまった。
「お付き合いできません。」
ナナのあの真実の告白で
ナナが少し心を開いてくれたのかと自惚れた俺。見事に撃沈だ。
でもその自惚れはあながち間違っていなかった気もする。
「俺はナナとナナのピアノが好きだから秘密基地には来るよ。」
って言ったら困ったように笑って
「好きにしてください」
と言ったナナ。
なんかもうナナが俺を好きじゃなくても、
ナナが楽しそうにピアノ弾くなら、そこにいて許されるならそれでいい気がする…。
いや。ほんとはもっと欲とかあるけど!
今更三浦に幻滅したことを、何かに八つ当たりしても事実は消えない。
考えてみたら
「一度でいい。」
って言われてみ?あのツンデレに。
ーーーーーするだろ…!キス。
「島崎ー。おはよ。」
「はよ。なんだよ?」
「あ、ビスコ。俺にもちょーだい!」
「おい!限定ビスコだぞそれ!!」
島崎に怒られる俺。
「でなによ?」
結局二人でビスコを食べている。
「放課後暇か?」
「まー日直終われば。」
「島崎今海パンいくつもってる?」
「2枚。」
「一枚貸して。」
「おま、お前の履いたやつはくの俺?」
「いーじゃんか。洗って返すよ!」
と言って強引にも海パンをゲットした。
島崎は水泳部。
競泳用と通常スクール水着を持っている島崎。
この高校は室内プールなので年間通じてプールに入れる。
俺は今日プールに入りたい気分だ!!
「なになに?」
「おー山田!お前も水泳部だろ?」
「ああ。篠田に海パン貸してやってよ。」
「え!なんでだよ」
嫌そうな顔。そりゃそうか(笑)
「放課後水球しようぜ!」
篠田がいない間に勝手に決める放課後の遊び。
後から考えたが、山田の身長は小柄の160センチ。
島崎は180センチだった。まぁいいよ(笑)
で、結局昼休みに篠田が学校を抜け出してビーチボールを買いに行かせる。
俺は。
俺は音楽室にいる。
ナナはいない。
俺はピアノの椅子に座りながら待ってみる。
5分経っても10分経ってもナナはこない。
…。
まぁナナにだって用事くらいあるだろ。
委員会とか友達とか。
ちなみに俺はナナのラインも連絡先も知らない。
そう考えると俺は結構ナナのことを知らないと気づく。
三浦は知っているんだろうな…。
静かな音楽室の窓から見える5階の景色。
いつもナナが弾いてるピアノ。
がらんとした音楽室。
モーツァルトとベートーヴェンと、ショパンがこちらを向いている肖像。
ゆっくり流れる1人の時間。
鍵盤蓋を開けて見る。
キーカバーをずらして向き出る艶やかな鍵盤。
俺は『カエルの歌』と『きらきら星』と『チビ太のおでん』くらいしか弾けない。
すげーよな。
両手使って足も使うんだろ?
鍵盤に右手を置いて、キーを押す。
♪ドドソソララソ
♪ファファミミレレド
小学生並の(実際は小学生以下の)ぎこちない『きらきら星』のメロディ。
♪ソソファファミミレ
♪ソソファファミミレ
♪ドドソソララソ
♪ファファミミレレド
最後の音が音楽室にこだまする。
ナナはどんな気持ちで毎日弾いてたんだろうか。
ふと窓の外を見た。
L字づくりの校舎はここらかみると、向こう側の校舎が見える。
ここは5階。ちょうど2階の部屋がよく見える。そう、職員室。3年担当の先生の机は窓側。そして偶然にもそのすぐ上は英語準備室。
なるほどね。
なんだ。
なんだ。
そうだったのか。
そかそかーーーーー…。
昔読んだ漫画『4月は君のーー』
主人公がピアノを弾くシーンで『響け!響け!』と思いながら懸命に引くシーンを思い出す。
そしてピアノを弾くナナの恋するような表情。
それが俺の思い違いだったとしても、三浦のことを好きなナナが意識しなかったはずがない。
「お付き合いできません」の言葉よりも
偶然の気づきの方が失恋を自覚させられた。
帰ろう…。
予鈴がなる頃に教室に戻ってきた俺。
島崎と山田と篠田がいる。
「ジンー!」
「わ!」
篠田の声と同時にビーチボールが飛んできた。
キャッチして速球で投げ返す。
「どしたよ?」
「うるせ。」
「失恋か?」
「…。」
図星だがコイツに言われると腹立たしい。
「奇遇だな俺もだ!」
腕を組まれる俺。
一緒にすんな!釣りバカめ!
「女はごまんといるぞ!」
「うるせぇ。うるせぇ。ほっとけ」
「お前らほんと仲良いのな。」
山田と島崎も笑っている。
「だからできてんでしょ?」
サヤとミカが来た。
「できてねーよ。」
と言って、俺は肩を組む篠田の横でケツを両手で隠す。
「ジン、男も世の中に35億だぞ!」
島崎が言う。
そー言う問題ではない!
「なにこのビーチボール?」
ミカが言う。
「帰りこれで水球やるんだよwただのプール遊びだけど。」
「たのしそうじゃん。」
ミカが言う。
「女子の水着ないけどくる?」
「なにが嬉しくてあんたらのもっこり拝むのよ。」
さや言う。ミカが笑っている。
「すんませーん。」×4。
4人で謝る情けない男たち。
「ヒャッホーウ!」
バシャーン
俺が張り切って飛び込み、大量のみずしぶきをあげるプール。
島崎は日直、山田は補講で遅れてくるらしい。俺は1人だ。
篠田はと言うと、更衣室で山田から借りた競泳用水着を履くにあたり…。
ハミチンしそうだとかわけのわからないことを言いだすから、置いて来た。
俺は今仰向けになって浮いている。
腹の上にはビーチボール。
ガラ。
ドアが開く音。
篠田か、やっと履けたのかアイツ。
タッタッタ。
足音が裸足の音ではない。
?
俺は浮くのをやめて足音の方を見る。
ーーーーナナだ!
ナナは制服のまま、水泳倉庫を開けている。
「ナナ!」
「?」
ナナが振り返る。
前ほど嫌な顔はされないが、周りを確認してから俺に寄って来た。
「なにしてんの?」
「生徒会で、文化祭に使う用具の確認です。」
淡々と話すナナ。そこには照れも怒りも拒絶もない。
「先輩は?」
「今から遊ぶ。これで」
と言ってナナに投げた。
「濡れてるじゃないですか!」
と怒り気味に投げ返される。
「ナナ真面目だろ。」
ボールを投げる俺。
「先輩が不真面目なんですッ」
ツンケンだが悪い気はしない。
そして投げ返されるボール。
「今日秘密基地行ったらナナいなかった。」
ボールをなげる。
「生徒会で。でも予鈴ギリギ…。」
「なんだ生徒会かよ。」
と言ったら投げ返されたボール。
「ナナ今度ライン教えてよ。」
投げるボール。受け取るナナ。
「今度で。」
さらっと返された言葉とボール。
教えてくれる気はあるのだろうか(笑)
「約束ね!」
強引に言いながらボールを投げる俺。
ボールを掴んで困ったように笑うナナ。
ガラ。
「入江さん確認できたー?」
デキスギくんみたいな男の子が入って来た。
「今からです。すみません。」
ナナはボールを俺に返す。
ボールを持った俺と、デキスギ君と目が合う。
…あ、コイツ絶対ナナのこと好きだ。
と悟った(笑)
「三浦先生が、大体の数でいいって言ってたよ」
デキスギ君の声。
ナナが一瞬俺をチラッと見た。
三浦…。
そうだった、生徒会担当は三浦。
「じゃーな!頑張ってー。」
俺はそう言って、泳ぎだす。
篠田ぁ!早くハミチンなんとかして来いよ!
と心底思う俺。
平泳ぎしながら聞こえてくるデキスギ君の会話。
「入江さん、金井先輩と仲良いの?」
「ーーーー。」
「やめなよ、君まで不真面目に見られちゃうよ。」
おい。デキスギ!余計なこと言うな!
俺はスタート台に隠れてみる。
「そうですね。でもそれは私が決めることなんで。」
ナナが倉庫を閉めながら言っている。
ーーーーー…。
さすが。
さすがナナ。
ガラ!!
「ジーン!」
でかい声で篠田がショッカーさながら、ドアから入ってくる。
黄色い水泳帽にゴーグルを装着した180センチの長身の三日月パンツの男が仁王立ちだ。
パンツは小さめ。紺色に黄色のラインが入っている。
キモい!
超絶きもい!
そして最高に残念だ。
ナナもデキスギ君もびっくりだ。
ナナはびびって、後ずさり。
俺は笑いをこらえる。
ガラ。
「おー確認できたかー?」
後ろから、ジャージの三浦が登場。
「おま!お前なにやってんだ篠田。完全変態じゃねーかッッ!」
「先生いつから生物担当になったすか?」
篠田が言う。
『完全変態』とは、生物学用語で幼虫がサナギをへて成虫になることを言う…。
「さっさとどっかいけ。後輩が困ってるだろ。」
「あーい。」
ナナは照れたようにうつむいている。
その顔をさせたのは変態の篠田か、篠田の後ろにいる三浦の存在か。
あの顔は三浦だろうな。
そして、三浦とナナとデキスギ君は去って行った。
なんだかなぁ。
結局最後に持っていくのはいつだって三浦。
認めたくないけど。
結局ナナを射止めるのは
真面目なデキスギ君でも、完全変態の篠田でもない。もちろん俺でもない。
リア充5、三浦ソウマ。
32歳。
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