鯉と恋といたずらと紙飛行機。


今日から5月だ。

気分は五月病な俺。

「おいジーン!」

俺はうなだれて机に突っ伏していた。

「どしたよ。」

「お前がどしたよ。」

「おセンチだからほっといてくれ。」

「はー?」

「お前はユリちゃんと幸せになれよ。」

「まーいいやちょっとこいよ。」


と言って俺は篠田に連れ出されて今、なんでか二人で学校の庭園の鯉に餌(食パン)をやっている。

しかも2限の自習授業を抜け出して。


「俺さー。ユリちゃんと別れるわ。」

「は?」

いや、待て。

そういう恋話は俺がしたい!

と突っ込みたいが俺は言わない。

「なんかさー。女ってわかんないよなぁー。」

知らんがな。

「ユリちゃんほんとはお前のこと好きなんだってさ。」

「……は?」

俺は鯉同様口が開けっ放しになった。

「お前に近づきたくて俺と付き合ったらしいよ。」

「ふ、振り向かせればいいだろう?」

「んー。でも俺も気づいちゃったんだよね。」

うんこ座りした学ランの生徒が、食パンをチネって投げる。

チネって投げる…。

チネって…

「ユリちゃんといるよりもみんなでバカやってた方が楽しいっていうか。」

女より友達…てやつか。

よくあるアレな。(よくあるのかは知らん)

「好きじゃなかったのかよ。」

「わかんね〜。釣り糸垂らしたら釣れちゃった的な?」

魚を前にして言われたら、納得してしまうが。

なかなか最低な男の発言だぞ篠田!!


「で、お前は?」

「峯岸ユリとは付き合わないぞ…?」

篠田の疑問が何を聞いてるのか分からずこたえた。

「ちげーよ。なんでおセンチなのかって話。」

そっちかよ!


「好きな子に好きな人がいただけだ!」

俺はチネった食パンを池の遠くまで投げた。


でも俺は篠田とは違う。

俺は確実に鬼ごっこよりもナナを優先していた!(ドヤ)

そして振り向かせようと思っている…!多分。


「なー。篠田。」

「俺って側から見たらどんな奴に見える?」

「チャラ男。」

釣り糸垂らして女の子を釣るようなお前に言われたくないと心底おもう俺。

「俺は制服も着崩さないし、ピアスだってじいちゃんが外人だから勝手に小さい頃開けさせられただけだ!」

ナナへ弁解するように篠田に言う。

「外見もそうだけど…。サボったりしてる素行だろ。」

誰のせいで鯉に餌をやってんだよ。


まぁ確かに楽しさに流されている。


「こらーーー!授業中に何やってんじゃーッッ!!」


向こうから用務員のおっちゃんが竹箒を振り上げて走ってくる。

「ヤベ!」


俺は走り出した。

途中で振り返った、ふと目についた視線の先。

池の端の小さな注意書き。

『勝手に コイ しないこと。学校長』


にドキッとする俺。


ーーーじゃなかった。

誰かがいたずらして黒いペンで消してあっただけでけで、実際にはこうだ。

『勝手にコイに 餌をあげたり しないこと。学校長。』



誰だよ。勘弁してくれ。



「ミカー。」

「自習プリント、答え見せて。」

授業の時間中に帰ってきた俺と篠田。

「どこいたの?ジン、篠田。」

ミカがプリントを見せてくれた。

ミカの学力でこの答えが本当に正解なのかは分からないが(笑)

「えー何?上靴めっちゃ汚いし!」

サヤも寄ってくる。

「慈善事業だよな、ジン!」

「まーな!」

あれを慈善事業とか言える篠田は天才だ。

「あんたたち実はできてんでしょ?」

サヤが言う。

「サヤが言うと笑えない」

ミカが言う。

「できてないし。俺のケツはやらねーよ?」

篠田が言う。

「ケツには興味ない。」

俺は…!

コイツに釣り糸垂らされても食いつかねぇ自信がある!!

「今日昼休み何する?」

サヤが言う。

「もう決まってる!」

篠田がおもうむろに購買パンの予約表をポケットから取り出す。

「購買の予約で焼きチーズを20個頼む。」

「は?」

焼きチーズとは50円の学生に大人気の小さな菓子パンだ。

「三浦の名前で。」

おい篠田…!


ナイス!!


で結局、篠田は休み時間にそれを購買ポスト入れていた。

3、4限俺は真面目に授業を受けた。


昼休み、俺たちは島崎も山田も含めてお菓子をかけてUNOをしている。

俺は負けない!


『ピンポンパンポン』


『3-2 三浦先生、三浦先生、購買までお越しください。』


「ぶはーーーーー!!」

「やべー!三浦呼び出されたー!」

「やべーーー!!」

「きゃはは!」

UNOどころの話じゃない。

きっとこの放送は、身に覚えのない大量の予約を取りに来いと言う購買からの催促。(爆笑)

「三浦どーすっかな!?」

何も知らない山田と島崎は唖然だ。

「何したのお前ら?」

「ちょっとなー!」


つまり俺は今日、ナナがいるはずの秘密基地へ行かなかったわけだ。


で、帰りの15分のHR。

三浦が入ってくる。もちろんジャージ。

「えーと。来月の授業変更とお知らせなー。」

プリントを配る三浦。

「それからー。篠田ー。」

「あーい。」

「お前ー。もっと上手くやれよー。詰めが甘いぞ。」

意外にも…爽やかな神対応。

「なんのことっすか?」

三浦が教卓でとっさに折った紙飛行機を真ん中の席の篠田に投げた。


すげー。


見事に篠田の胸に直撃。

あの大きさは…あれは予約票だ。

「今日は終わりー。気をつけて帰れよー。」


あー。なんだかなー。


嫌がらせまがいのいたずらも

結果的に、三浦の大人な対応と紙飛行機に悔しさを感じたことで、自分がちっぽけで稚拙だと思い知らされただけに過ぎない。



「ジンー。部活行くの?」

篠田。

「おぅ。昨日不調だったから汚名返上しないとな!」

と言いいながら、気乗りじゃないのが本音。




ナナは今ごろ、少しも俺のことなんか考えてないんだろうなー…。
















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