第4話 野良勇者
俺のギフトに対する驚きが収まった頃。
今度は糞野郎が自分たちに都合のいいつくり話を延々と繰り返しはじめた。
さっきの糞女二号といい本当にワンパターンな奴らだ。
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流石の俺も飽きてきて、完全に聞き流していた。
あまりに暇なのでPレーダーを使ってみる。
結果は、糞女と糞女二号は0、茶髪が2、メガネが3だった。
男にも使おうとしたが、当たり前だがギフトは反応せず数値がでなかった。
俺は男のパンツには興味が無いから、当然のことなのかもしれない。
むしろ、男のパンツに価値があったらすごく困る。
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その後も聞き流そうとしたのだが、糞野郎の話の中にいくつか気になることがあった。
「先代魔王の復活が近い」と「当代魔王と魔王軍は非常に強力だ」という二つ。
話の内容から考えて、当代魔王というのはレオナちゃんに間違いないようだ。
俺のせいで長い間、父親と離れ離れになってしまったので罪悪感があったのだけど、元気にしているようなのでとりあえず安心した。
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その後も話は続き、数時間後にやっと糞野郎の話がおわった。
「どうか勇者様! そのお力で我が国を救っては貰えないでしょうか?」
「俺に救う力があるのなら、困っている人の手助けをしたいです」
「私は、いーくんと一緒がいい……」
「しょうがないわね。私が助けてあげる」
どうやら三人は完全に丸め込まれたようだな。
あまり人のことは言えないが本当に単純な奴らだ。
間違いなく、利用された後、ボロ雑巾のように捨てられるだろうに……。
だがこいつらに恨みはあれど義理はない。
忠告してやる必要はないだろう。
俺は根に持つタイプだからな。
そんなことよりも、糞どもと一秒でも長く一緒にいるのは嫌なのでさっさと断ってここを出ることにする。
「申し訳ありませんが、俺はお断りさせてもらっていいですか?」
「「「え?」」」
三人は「どうしてこの流れで断れるんだこのひとでなし」と言わんばかりの目で俺を睨みつけてきた。
「俺のギフトはPレーダーですし……」
三人の目が同情のそれになった。
……。
だけどな、お前らが「キモイ」だの「変態」だの罵ってくれたことを俺は忘れてないぞ。
「サトー。確かにお前のギフトでは戦うことはできないだろうね」
糞野郎が上から目線で言ってきやがった。
遂には勇者殿でさえなく、呼び捨てで『お前』呼ばわりか。
「せっかく異世界に来たことですし、しばらく世界を見て廻りたいのですがよろしいでしょうか?」
「じゃ、餞別をあげるよ」
糞野郎が指を鳴らすと、使用人がずっしりと重そうな袋と指輪を持ってきた。
「袋にはお金が入っている。これを当面の生活費とするといいよ。それと、この指輪は身代わりの指輪と言って、一度だけ致命的なダメージを無効化してくれる指輪なんだ。早速指にはめてみてくれ」
「ありがとうございます」
ばれないように透視魔法を使って中身を確認する。
袋の中身は全部銅貨だった。
その数400枚。
平民の一ヶ月の収入が銅貨2000枚弱だから、ざっと一週間分弱か。
こんなところに拉致しておいて、こんな端金で済まそうだなんて、さすがは糞野郎だ。
全然フェアトレードじゃない。
ついでに指輪にも解析魔法を使ってみる。
……糞ッ。
何が身代わりの指輪だ。
ただの発信機じゃないか。
しかも、最悪なことに一度身につけたら二度と外れない呪いまで掛けてある。
後で俺を始末する時に居場所がすぐにわかるようにだろう。
以前魔王から聞いた話だが、召喚した勇者が一人残らずこの世界から消滅しないと次の勇者が呼べないらしいからな。
こんな発信機を指にはめるのは嫌だが、ここで指にはめないのは不自然だろう。
しょうがないから小指にはめる。
「あの……指輪が外れなくったのですが……」
「その指輪は装備者と一体化してしまうんだ。命には代えられないと思うのでそこは我慢して欲しい」
よくも息を吐くように次々と嘘をつけるものだ。
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城を出た俺は冒険者ギルドへと向かった。
もちろん道に迷ったりはしない。
前回の召喚時に散々利用していた場所なので目をつぶっても行けるくらいだ。
しかし、召喚初日のはずの俺が一切迷わず冒険者ギルドへ向かうのは不自然だから、わざわざ途中で人に道を聞いたりした。
尾行されている可能性を考えてのことだ。
今の俺なら大抵の相手の尾行には気付けるがそれでも万が一ということはある。
リスクはできるだけ減らしておきたい。
そういえば、むこうの世界にいた時は悔しさと無力感で家の外に出ることすら満足に出来なくなっていたのに今はなんともないな。
きっと、やっと復讐のチャンスが巡ってきたことに対する喜びと、糞どもを再び目にしたことでの怒りと、力が戻った喜びでそれどころではなくなったからだろう。
せっかくなので、道行く女性にPレーダーを使ってみる。
ほとんどの女性は1から5だった。
もしかすると五段階評価なのかもしれないと思ったのだが、一人だけ11の女性もいたので違うようだ。
ちなみに、見た目が5歳位の幼女や明らかに60過ぎであろう老女にも使ってみたが、ギフトが反応しなかった。
どうやら、老女や幼女のパンツは、男のパンツと同じ扱いらしい。
そんなことをやっていると、いつの間にかギルドに着いていた。
それにしても、相変わらず下品なギルドだな。
ギルドの中に酒場があるせいで、昼間っから酔っぱらいでいっぱいだ。
中に入った途端に酒の臭いがプンプンしてきやがる。
相変わらず美人受付嬢がやっている窓口には凄い行列ができていた。
十五年前には美少女だった彼女も、今では色気たっぷりな美女だ。
そういえば、この受付嬢には黒い噂がチラホラとあったな。
なんとなく、Pレーダーを使ってみる。
PP……。
たったの1か……。
ゴミだな。
黒い噂は本当だったか。
ちょっと顔がいいだけの女と二言三言会話するために長い行列に並ぶなんて、あまりに馬鹿らしくて俺にはできない。
俺は迷わず一番空いている窓口に並んだ。
「おう、小僧。見かけない顔だな。冒険者ギルドに来るのは初めてか?」
よくみれば受付にいたおっさんはギーシュだった。
少し老けて――はっきりいえば頭が禿げ上がっていたので一瞬誰だかわからなかった。
そう言えば奴は、使える奴がいないか自分の目で確かめるために、たまに受付の仕事をしているとか言っていたな。
こんなに窓口が空いている時点でその目的が果たせているかは酷く怪しい。
そんなことよりも、こいつも散々俺を騙してくれたカスだ。
機会があれば必ず復讐する。
「はい。登録をお願いします」
ただ、その機会は今じゃない。
まずは完全に自由になるのが最優先事項だ。
出来るだけ感情を抑えて会話をする。
「登録には銀貨5枚が必要だがいいか?」
「はい。お願いします」
この国の通貨は、金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚=小銅貨1000枚となっているから、銀貨5枚は銅貨50枚のことだ。
「名前と特技、それともし持ってたらギフトを教えてくれ」
ギフトを知られることは死活問題であるので、本来ギルド側に開示するかは冒険者側が選択できる。
開示したほうが仕事を得られやすいギフトでもない限り、自分の奥の手をわざわざ好き好んで他人に晒す冒険者はいない。
にも関わらず、このハゲは開示するのが当然かの如く要求してきやがった。
俺を初心者だと思って舐めてやがる。
相変わらずこのハゲはゲスいな。
だが俺はそんなことを知らない風を装って敢えてギフトを教えてやる。
「イチロー・サトーです。Pレーダーというギフトを持っています」
「Pレーダー?」
「その女性が履いたパンツが、俺にとって、どれだけの価値があるかをPPとして数値化できるギフトです。基本的にその女性が俺好みの性格や容姿であればあるほど高い数値が出ます」
どこに嘘を見抜くギフト持ちがいるかわからないから本当のことを言う。
「……そんなに役に立たないギフトは初めて聞いたぜ」
俺はそうは思わない。
例えば、俺好みの性格の部分。
俺の好みは色々あるが、一番大きいのは敵対者でもない相手を故意に陥れたり貶めたりしないような性格であることだ。
それに今の俺は女性の容姿にあまり重きをおかない。
つまり、PPが高い女性はそれだけで信頼できる相手と言える。
初対面の段階でギフトがそれを判定してくれるのは非常に大きい。
悔しいことだが、俺に人を見る目が無いのは実証済みだからな。
「ほらよ。これが登録証だ」
登録証には「イチロー・サトー:ランク 1」と書いてあった。
「ちなみに、銀貨5枚で血液認証の機能を追加できるぞ。これをつけておけば、盗まれて悪用されるのを防止できる上に、万が一紛失しても銀貨5枚で元のランクのまま再発行できる。金に余裕があるなら血液認証はつけておくべきだがどうする?」
ちなみに前回の登録証に血液認証をつけてしまったから今回はつけることはできない。
なぜなら血液情報をギルドに渡すことによって、先代勇者と俺が同一人物だとバレる可能性があるからだ。
先代勇者と同一人物だということは絶対に気付かれる訳にはいかない。
「血液認証してない時に、紛失などで再発行した時はどうなるんですか?」
「もう一度新規登録からやり直しだな。当然ランクも1からやり直しだ」
「そうですか。今はお金に余裕が無いのでランクが上がったら血液認証の追加を検討します」
「ついでにランクの説明もしておくぞ。誰でも最初はランクは1から始まる。一回でも依頼をこなせば自動的に2に昇格するが、それ以降はランクをあげるために審査試験に合格しなければならない。審査試験については条件を満たした時に受付から案内する。依頼にはランク制限があるものもあるから出来るだけ審査試験を受けてランクを上げておくのをおすすめするぞ」
さて、ここからが本番だ。
「ところで、ランク1で受けられる依頼の中で一番報酬がいいのはどれですか?」
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