第3話 変態勇者
俺達勇者は謁見の間に通された。
相変わらず派手派手しい金ピカな部屋だ。
前回の俺は「凄い」なんて思ってたりもしたが、今の俺の感想は「この部屋を作るためにどれほどの悪徳を重ねたのだろうか」だ。
そんな悪徳の部屋の一番奥に奴はいた。
イーサンの糞野郎だ。
その隣にはあの糞女までいやがる。
その他にも見覚えのある貴族が何人もいて、さらには独断で魔族に攻撃を仕掛けた罪で処刑されたはずの守備隊長までいた。
しかも、奴の服装は軍のトップである軍務大臣のそれだった。
辺境の守備隊長が随分と出世したものだ。
予想通り「守備隊長が勝手にやった」というのも嘘だったか。
体中が怒りで悲鳴をあげるが、今は駄目だ。ここでは駄目だ。
ここは奴のテリトリーで勝ち目がない。
落ち着かなければ。
「ようこそ勇者様。僕が国王のイーサンです。さっそくですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「俺は鈴木一郎です」
イケメンがそう答えると、部屋中に緊張が走った。
なんとイケメンは以前の俺と同じ名前だったのだ。
「どうかしましたか?」
糞野郎達の様子がおかしいことにイケメンも気がついたようだ。
「先代の勇者もスズキ・イチローという名前だったので驚いたんです。勇者様はこの国にくるのは初めてですよね?」
「もちろんです。鈴木も一郎も日本では非常にありふれていますから、たまたま同じ名前だったのでしょう」
その答えを聞いて糞野郎の視線がわずかに右側に動く。
視線の先には「神の目」と呼ばれるおっさんがいた。
おっさんの本名はわからない。
興味もなかったし、みんな奴を「神の目」と呼んでいたので知る機会もなかったからだ。
奴は他人の言葉が嘘なのかどうか見破る『神の目』というギフトを持っている。
非常に危険なおっさんだ。
そんな危険な存在に今の今まで気がついていなかったなんて……。
いくら奴の隠形技術が高いとはいえ、俺は怒りのせいで自分が思っている以上に視野が狭まっていたようだ。
冷静にならなければ。
ゆっくりと深呼吸をする。
糞野郎が「神の目」を見たのは、おそらくこのイケメンが本当に俺と別人なのかを確認したかったのだろう。
もちろんイケメンと俺は別人なので「神の目」は黙って首を横に振るだけだった。
「私は高橋茜よ」
「私は田中さくら……」
ちょっと派手で生意気そうな方が高橋茜で、メガネをかけた大人しそうな方が田中さくら、か。
面倒なので「茶髪」と「メガネ」でいいや。
「俺は佐藤一郎」
「おや、勇者様もイチローですか。本当にありふれているんですね」
「ああ、イチローなんて名前は全然珍しくないからな」
なんとか怒りをこらえて冷静に話したが、これ以上は無理だ。
しかし、俺を見ても誰も俺が先代勇者だとは気がついていない。
あの当時の俺はイケメンで、今の俺は醜く肥えているから、仕方がない。
安心すると同時に、やっぱり俺の扱いなんてちょっと姿が変わった程度で気が付かれない程度だったのだと改めて思い知らされて悲しくなった。
まあいい。
糞野郎の相手はイケメンに任せることにする。
「それでは、勇者様のギフトを教えていただきたい」
「ギフト?」
「勇者様はこの世界に召喚される時に必ず強力なギフトを一つ手に入れます。この世界の住人でも極稀に生まれる時にギフトを授かるものもいますが、勇者様のギフトはこの世界の住人のものとは比較にならないほど強力なのです」
「仮に俺たちがギフトを持っているとして、どんなギフトなのかはどうやったらわかるのですか?」
「『ステータス』と唱えてみてください。それでわかるはずです」
普通は人前で『ステータス』と唱えたりはしない。
なぜなら、唱えてしまうと他人に自分のステータスがすべて丸見えになってしまうからだ。
『ステータス』と強く念じるだけでもいいのに、わざわざ唱えさせようとするのは俺達の能力をチェックするためだろう。
ちなみにちょっと訓練すれば今糞野郎がやったように、『ステータス』という単語を口に出した時に自動的に表示するのを防止することもできる。
「ステータス」
「ステータス」
「ステータス」
そんな事情を知らない他の勇者はステータスと唱えていた。
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イチロー・スズキ
Lv 1
HP 1010/1010
MP 160/160
筋力 100
器用 50
体力 100
魔力 15
【ギフト】 光の剣聖
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アカネ・タカハシ
Lv 1
HP 510/510
MP 1010/1010
筋力 50
器用 10
体力 50
魔力 100
【ギフト】 破壊の魔導師
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サクラ・タナカ
Lv 1
HP 310/310
MP 1010/1010
筋力 30
器用 50
体力 30
魔力 100
【ギフト】 聖なる癒し手
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「おお。さすが勇者様」
「素晴らしい」
部屋中から感嘆の声があがる。
他の勇者が注目されている間に、脳内で自分のステータスを確認しておく。
長い期間サボっていたから能力値やレベルが落ちていることを心配していたのだが、無用の心配だったようだ。
俺のステータスは完全にあの日のままだった。
違いはギフトが一つ増えていることくらいだ。
どうやら今回の召喚で新しくギフトを手に入れたらしい。
前回のギフトを持っていることがバレるのは不味いのでそこは非表示に、ついでにレベルや能力値の表示も改ざんしておく。
「ステータス」
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イチロー・サトー
Lv 1
HP 120/120
MP 20/20
筋力 13
器用 12
体力 11
魔力 1
【ギフト】 Pレーダー
---
「本当に勇者なのか?」
「いくらなんでも能力値が低すぎる」
「そこらの農民と変わらぬではないか」
「魔力が1ということは、魔法がほとんど使えないのか?」
「Pレーダー? なんだそれは?」
俺のステータスを見て貴族どもが疑問の声をあげる。
レベル1での能力値の合計の平均は40程度らしいから、貴族どもの反応も当然だ。
俺が改ざんして表示させている能力値の合計は37だから、総合的に見て一般人の平均よりも少し下程度の値だし。
「勇者殿、申し訳ないですが、その『Pレーダー』がどのようなギフトなのか説明してもらえませんか? 頭の中でギフトの名を念じればわかるはずです」
さすが糞野郎だ。
俺の能力値が低いと見るやいなや、すぐに勇者様から勇者殿に格下げしやがったぜ。
いいだろう。
俺のギフトを説明してやる。
「その女性が履いたパンツが、俺にとって、どれだけの価値があるかをPPとして数値化できるギフトのようですね。基本的にその女性が俺好みの性格や容姿であればあるほど高いPPが出るようです」
糞野郎は呆然として「神の目」を見た。
しかし、俺は嘘を言っていないので「神の目」は、ただただ首を横に振るだけだ。
「他には?」
「PPが高い女性の居場所を探知できるようです。その女性のPPが高ければ高いほどより遠くから探知できるようですね」
「それだけですか? 」
「今のところ、Pレーダーの能力はこれで全てです」
糞野郎はもう一度「神の目」を見たが、奴はまたもや首を横に振るだけだ。
貴族たちはショックだったのか完全に言葉を失っていた。
実はPレーダーはある程度使いこなすと進化するらしいのだが、こいつらにそこまで詳しく教えてやる必要はないだろう。
そんな中、他の勇者の声だけが謁見の間に響く。
「うわあ」
「変態……」
「キモイ」
残念ながら、他の勇者にはこのギフトの偉大さが理解できないようだった。
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