第2話 壁の花のご令嬢

それから3日後のとある夜会。

パートナーのいないエリザベスは、ぼんやりとパーティを眺めていた。

エドワードとの婚約解消は、瞬く間に社交界に知れ渡った。

お父様方からは今のところ何のお咎めもないが、噂好きの貴族の視線がビシビシと刺さる。

(君の隣は、苦しい。。・・・ね)

アイリスのような可愛げは、生憎エリザベスには持ち合わせがない。

自分では、いい関係を築いてきたつもりだったが、相手はそうではなかったらしい。

人に心理に疎すぎると、反省していた時だった。

「意外と長く持ったな、ベス」

からかうような声とともに、隣に男が寄りかかる。

「・・・余計なお世話よ、アル」

怜悧な瞳の、秀麗な面差し。

王弟、アルベルト=フロリア=エスタシア。

先代皇帝の最後の息子で、現皇帝とは20歳以上離れているが一応は兄弟である。

王位継承権は、エドワードに次ぐ2位。

鮮烈な、才気の走る青年だ。

「まあ、並大抵の男では、君の相手は務まらない。エドワードもその程度の男だったということだな」

そう皮肉げに笑う姿も様になるのが、アルベルトだ。

「・・・私の隣は、苦しいらしいわ」

ぽつっとエリザベスは呟いた。

おや?とアルベルトは彼女を見遣る。

「もしかして、傷心中か?」

「そうじゃないわ。ただ、つくづく恋愛には向いてないと思っただけ」

腹の探り合いは得意なのにネ、とエリザベスは肩を竦めた。

「別にエドワードのことを、本気で好きだったわけじゃないんだろう」

「そうね。ただ、向こうがそう思っていたことも気付かずに、呑気に良い関係を築けてると思っていたことが、馬鹿らしくなったのよ」

「・・・フーン?」

疑わしそうなその返答に、エリザベスは少し眉根を寄せた。

「何か言いたげね?」

「別に。それに、あんなつまらない男の言葉にとらわれる必要もない。心配しなくても、お前はいい女だ」

「光栄なお言葉をどうも」

アルベルトは、エリザベスに向き合うとすっと手を差し伸べた。

「今後のことで話がある。場所を変えよう」

「ええ」




アルベルトにエスコートをされながら、エリザベスはぼんやりと思った。

(彼が婚約者だったら、違った未来も待っていただろうに・・・)




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