彼女は手段を選ばない
八月文庫
第1話 妹に婚約者を寝取られました
それは、平穏なありふれた1日だった。
正しくは、平穏なありふれた1日になるはずだった。
エリザベス・アメリア・ローレンスは、王家についで権力を持つローレンス公爵家の長女だ。
上に二人の優秀な兄と、下に妹が1人。
それから、皇太子を婚約者に持つ大貴族のご令嬢だ。
それまで、2人の兄には溺愛され、婚約者とも良好な関係を築いてきたつもりだった。
妹だって、特に仲は悪くなかった。なのに。
「これは、どういうことかしら?」
エリザベスは冷ややかに微笑んだ。
視線の先には、ベットで縺れる2人。
聞かなくてもわかるし、全然聞きたくないけれども。
「見ての通りですわ。お姉さま」
妹のアイリスは、乱れた衣服を直しながら悪びれずに微笑んだ。
「わたくしとエドワード殿下はこういう関係ですの」
「そう・・・」
エリザベスは、ちょっと肩を竦めた。
「一応、エドワード様の御主張も伺いましょうか?」
エドワードは最初こそきまりが悪そうに視線を彷徨わせていたものの、彼もまた開き直ったのか太々しく顎をしゃくった。
「エリザベス。君には悪いが、婚約を解消させてもらう」
(あ、そう・・・)
自分でも悲しくなるほど、全然何も思わなかった。
「お父様方には、ご自身で話を御通しくださいね」
別にエリザベスは、エドワードを恋い慕っていたわけでは全然なかった。
ローレンス家にとっては、皇太子と婚約するのはエリザベスでもアイリスでもどちらでも問題ない。
そう考えたら、好き同士で婚約したほうがいいよなーと呑気に思ってしまったのだ。
一方のエドワード達もあまりに淡白なエリザベスに拍子抜けしてしまったようだった。
「後で後悔しても知らないぞ」
「する予定は全くありませんので、構いませんが」
ただ、少しきになることはあった。
お互い、好き合っていなかったとはいえ。
「婚約を解消されるほど、わたくしがお気に召しませんでしたか」
それこそ、良好な関係であった自信はあるので。
エドワードは、視線を逸らすと呟いた。
「・・・お前は、俺がいなくてもいいだろう」
「はい・・・?」
「お前の隣にいるのは、苦しい」
ああ、とエリザベスは苦笑した。
だから自分は、恋など向かないのだ。
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