第5歩目!「俺の先輩は重度の可愛いもの好き」

桜の花はすっかりと葉桜へと姿を変え、温かい陽気の中で新生活に慣れ始める者達。

部活も仮入部期間が過ぎ、拓海と遥はオタク部に本入部する事になった。


拓海はというと、相変わらずスポーツアニメに熱中していた。

「むぅ〜。暇ねぇ。拓海くーん、子猫ちゃんは?」

「遥は今日は来ないですよ。補講の後バイトがあるそうで。みっちゃん先輩と裕美さんはどうしたんですか?」

部室には拓海と凛子、珍しい取り合わせだ。

遥に構いっぱなしの凛子とは長時間の会話を交わしたことがないので、拓海は心做こころなしか気まずさを感じていた。

「裕美はレポート出たからその日に終わらせたいんだって、ほんと真面目よねー。あのバカは私も知らない。」

裕美と凛子は同じ講義を取っているはずなのだが、真反対の性格だ、凛子はギリギリまでレポートを作らない主義らしい。いや、主義と言えば聞こえはいいが、つまりの所サボり癖が染みついている。

そしてどういう訳か、凛子はえらく光国に当たりが強いわけだが、理由は定かではない。


「そーですか、じゃあ俺も適当に帰りますね。」

拓海は鞄に荷物をまとめようとした時、凛子が飛びかかる。

「待ちなさい、ならせっかくだし買い物でも付き合いなさい!」

「り、凛子さんわかりました、行きますから離れてください!」

(胸当たってんだよ!!何カップだよこれ!?)

豊満なバストが、拓海の背中に当たり、思わず彼は顔を紅潮させる。

「それじゃあ、行きましょうか♡」


「ちょっと、凛子さん...居づらいです。」

「まぁ、いいじゃない!ほら、これ持って!」

駅前のショッピングモールの有名なキャラクターショップ「パンリオショップ」だ。

様々なキャラクターのグッズや雑貨、限定品などが揃えられているが、対象はどれも"女の子向け"で可愛いものだらけなのだ。

「あぁこのピムピムポリン可愛い♡」

凛子の目には常に輝いていた。

「諸君。可愛いとは何か分かるかね!?」

「何ですか急に。癒しとかですか?」

お気に入りのグッズを購入し、鼻を膨らませる凛子。

「うん、悪くは無い。しかし違う!可愛いとはズバリ正義なのだよっ!」

ガッハッハッと品性のない笑い声を上げる凛子に本人自身は可愛いとは全く逆を行っているのでは?と内心に拓海は失笑した。


(ん!?あれって...)

「どしたの?」

「いや、見間違えです、行きましょう。」

拓海は何の気なしに振り返ると、パンリオショップの反対側にあるアニメショップから見覚えのあるリボン姿が出てきたような気がしたが、オタクを馬鹿にしてた彼女がいる訳ないと気に止めなかった。


それから凛子は拓海を連れ、ボップな雰囲気の所謂"原宿系"のカフェに入り、それぞれクリームソーダとアフォガード(バニラアイスにコーヒーをかけたもの)注文した。

「どうして凛子さんはオタク同好会に入ったんですか?」

「そうね...あそこはありのままを見せられるからかな。馬鹿な事言っても許されるというか、なんせ部長があれだからね?」

「まぁ、それは一理あります。」

少し苦味の効いたバニラアイスを口に運びながら同意する拓海、彼自身もオタク同好会に居心地の良さを感じている。

「まぁ、私も色々あったのよ。あのバカ部長にはそれなりに感謝してるわ。言わないでよ!」

「はぁ。みっちゃん先輩って謎な所が多いですよね、何考えてるかわからないとことか。」

二人の会話が咲いた所で、グラスとコーヒーカップは空になっていた。

「さっ!用も住んだところで戦場に行くわよ!!」

「えっ!まだ行く所あるんですか!?」


ー国産和牛 特売セール!おひとり様ワンパック限り!ー

2人がやって来たのはスーパーマーケットだった。

「もしかして俺を連れてきたのって?」

「買ったな、ガッハッハッ!」

すっかり凛子の策略に乗った拓海だが、五人兄弟の長女だと言う事情、忙しい両親に代わって炊事を任されている事を聞き、受け入れた。


「拓海君、今日はありがとうね!実は遥ちゃんたぶらかしてるし、どんな奴か見極めたかったんだ。」

小悪魔的に笑みを浮かべる凛子。

「た、たぶらかしてるって!」

「好きなんでしょ!?」

「ま、まぁ...」

「譲らないけどね♡じゃあね!諸君!」

走り出した凛子を見て、拓海はなんだかどっと疲れた素振り見せ、駅方向へと歩いていった。

「まぁ凛子さんと仲良くなれたしいっか。」

拓海の少しだけ足取りは軽かった。

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