第4歩目!「愉快な仲間たち」

オタク部仮入部から一週間ほど。

拓海は遥と光国からおすすめされたスポーツアニメにすっかり入り込んでいた。

「光国先輩。これ、凄いですね...」

「デショ!!拓海っちは気に入ると思ったよ☆」

すこし小洒落た革靴で音を立てた後にクルリとターンを決め、顔の前でピースサインを取る。

「やったぁ!やっぱりスポーツ系はアツくなれるからいいよね。」

「は、遥。近いよ。 」

(この距離は流石にもたないよ。)

「あっ、ごめん。」

ディスプレイに顔を近づけた遥と拓海の頬はすぐにキスが出来るほどの距離だった。

「ちょっとぉ拓海!遥は私のものよ♡」

「凛子さん、苦しいですぅ...」

可愛いもの中毒の凛子はすっかり遥をぬいぐるみかの如く抱きしめていたが、裕美にすぐ引き剥がされる。

「やめろ凛子。遥は誰のものでもない。それより、拓海。どうだ?久しぶりに見るアニメの感想は?」

「そうですね。毛嫌いするような物じゃないなって。スポーツやってた身としても、結構リアルな感情描写が細部まで描けるんで見入っちゃいますね。」

「そうだろう。フッ、その顔は続きが見たくて仕方ない様子だな。すまない、邪魔したな。」

拓海すぐにヘッドホンをしてディスプレイに集中した。それを見た光国は「ほらネ☆やっぱり期待の星だ!」と自慢げに腕組みした。


入学してから2週間目、拓海と遥は初めてゼミナールの講義を受けようと教室のドアを開いた。

「それでね。次に拓海君に見てほしいのはね!」

「ああ、教えてよ!」


早めに教室ついていたつもりだが、二人先客がいたようだ。

「アンタ達もしかしてオタク?キモいから関わらないでね。」

「ちょっとぉ、百合ったら強烈ね。フフッ。」

拓海は「いきなり失礼だろ!」と威嚇したが、隣の遥は震えていたので、とりあえずは彼女たちと反対側の席に着席した。

そういえば、遥は人見知りだった。オタク同好会での彼女を見ている拓海は失念していたようで、それにしても腹立たしい奴だと怒りを内に溜め込んだ。


自己紹介を終えて浮かび上がったのが彼女たちの名前とサークル。

二人を馬鹿にした最初の女性が出町柳でまちやなぎ百合ゆり。派手目のメイクに茶髪の「1軍女子」だ、アウトドアサークルに所属しているそうだ。

そして百合の隣で笑っていたのが難波なんば沙羅さら。彼女もチャラい見た目で百合と同じサークル所属。

しかし、やはりこういうタイプには男が群がる。

講義後に二人は輪の中心にいた。

拓海は遥を連れてすぐに教室から退室し、オタク同好会の部室に向かった。


「さっきはごめん。辛かったよな。」

「ううん...私が弱いから。」

拓海は遥の儚げな顔を見て、頭を撫でようとするが、神出鬼没の彼が二人の間にぴょこんと顔を出す。

「元気だしなよ!!辛い事は好きな事で忘れようネ☆」

「だからみっちゃん先輩、どこから...」

「今みっちゃんって言ったね?キラッ☆」

「な、言い間違えですよ!!」

「へへっ。」

二人の他愛のない会話に遥に笑顔が咲いた。

涙と笑顔でくしゃくしゃになった遥の顔を見て二人は慌てた。


「あ!アホ部長!子猫ちゃん泣かしたわね。許さないんだから!」

「それは聞き捨てならないな。光国、覚悟しろ!」

部室近くで声を聞きつけた凛子と裕美は恐ろしい表情を浮かべて光国に制裁を加える。

「ちっ違ってぇ!キラッ☆」

「だからキラッって...」

「あははは!」

いつの間にか拓海はオタク同好会に居心地良さを感じていた。

そしてこの日を境に、拓海は正式にオタク同好会に加入する事になった。

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