初陣、あっけなく


 いちいち報告している黝だが、ついに俺が自分の腕を千切っているのがバレた。下位霊の存在は薄いし、バレないだろうと思っていたら先程と同じように嫌そうな顔をされた。それに、何とは言わないが俺の大事な隠し物の位置もバレた。生前に何故廃棄して置かなかったのがが悔やまれる瞬間だった。こちらは軽蔑の対象となった。


さて、一悶着あったところで他の霊狩り(といっても寸止めで、あとは放置しておくだけだが。)に出向くことにした。黝は完全に止めを刺したかったようだが、流石にそれは道徳を知っているのかどうか怪しいレベルなので無視した。時刻は既に11時を過ぎていたが、そんな事はどうでも良い。

「黝、索敵の半径はどのくらいなんだ?」

呼びかけられた黝はキョロキョロと辺りを見回して、やっと自分が黝だということを思い出したようだ。

「半径は、だいたいここから江ノ島くらいまでですかね?そこから先をすぎると輪郭?のような物がぼやけて見えます。」

なるほど、というか広いな。よくある情報処理速度が間に合わずに鼻血を出す(出るのかわからないが)みたいなシチュエーションは無いのか。概要、と唱えて黝の概要を覗く。最近暇なので覗きすぎているような...


名前:黝

存在位:下位霊Lv.1(4/72)

能力:存在可能(固定)

   吸収(固定)

   移動(固定)

   思考(固定)

   外部接触(固定)

   記憶保持(不完全)

   索敵Lv.3(56/78)

称号:命拾いした 名を得た者 妄想姫


Lv.3でもかなり遠くまで見通せるようだ。そして妄想姫の称号が増えた彼女、どういうことなのか解せません。兎にも角にも、索敵のレベルがかなり上がったようなので襲われる心配は無いだろう。

「近くに下位霊はいるのか?それと、どのくらい密集しているんだ?」

「先ほどから探っていますが、周囲には大した力を持った霊はいないようです。密度としては一平方キロメートルに100人ちょっとしか居ないようです。」

それだけ人口(霊?)密度が低いならば、群れている奴らも少ないだろう。

「集団で行動していると思われる霊は?」

「二組ほど居ます。ここから北北東の方向?、700m先あたりに5人ほどが群れていて、連携を取りつつ単体の霊を襲っているようですね...、あ、襲われていた霊の反応が消えましたね。もうひとつはここから南東の方向、500m付近に2人が群れているようです。二人組の方はあまり大きくは動いていないようです。」

以外と近いな。まあ、いつ襲われるか襲われないかという距離ではないし、別に良いんだが。


 俺は黝にしばらく観察してもらう形で、単体で他の下位霊を襲っていたような霊を探し出してもらい、その霊から20m付近まで近づいた。

「良いか?黝は他の霊に接近されないように警戒していてくれ。俺は奴の視界に入らないようにして、背後から近づいて一気に存在力隷従で方を付ける。」

「分かりましたが、攻撃的な霊を狙った理由は?それだと何の意味も無い気がするんですが。」

「殺さないとはいえ、攻撃した後の罪悪感の問題だ。」

そう言うと、俺は物陰から標的の様子を伺う。霊といえど透視はできない(すり抜けは出来る)ので大丈夫だろう。敵が向こうを向いていると思われる瞬間を狙って...可能な限りの速度で飛び出す。初の自分からの攻撃に緊張して、とてももどかしく感じる。風を感じることは既にできないが、それでも緊張感は感じる。標的はこちらの急激な接近に気がついたようだが、もう遅い。標的との距離は、二歩踏み込めば詰められるような距離しか無い。俺は存在力操作の時と同じように、存在力を吸収するイメージで標的に殴りかかる。何かを吸収する感覚で拳を突き出すのはかなり難しいがそれでもやるしか無い。標的に拳があたった瞬間、高速で自分の中に存在力が流れ込んでくるのを感じると同時に、標的の存在力が減るのを感じる。なぜか俺から存在力が漏れていくような感覚もあるが、そんなことはどうでも良い。標的はあたった直後に避けようという意思を感じさせたが、動く前に存在力が低下したようで動きを停めた。意外とあっけなく初の戦闘は終わった。


俺は存在力を吸収するのをやめ、それ以上何もせずに黝の元へ戻る。

「蘇芳さん、蘇芳さんが獲得した存在力が、私に流れ込んで来るのを何となく感じましたよ!。これは...養殖ができます!!」

存在力を横から奪ってたのお前か。

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