横領

 俺の回収した存在力を横から奪っていた黝だったが、このシステムは契約した影響によるものだろうと考えられる。今の所俺は存在力を奪い取る術を持っているが、黝にも得させようとするならば、消滅のリスクを追わなければならない。そこまでして得る必要はないと思うし、俺も得させようとは思わない。今は黝にも索敵という役割があるだろうが、いざ襲われた場合にどうしたものか。

「蘇芳さん、見てくださいよ私の概要。」

何かあるのかと思い、概要を見てみると、同じだけ存在レベルが上がっていた。


名前:蘇芳

存在位:下位霊Lv.1(71/72)

能力:存在可能(固定)

   吸収(固定)

   移動(固定)

   思考(固定)

   外部接触(固定)

   記憶保持(不完全)         

   存在力隷従(任意)Lv.3(78/106)

称号:自転車のベルに敗北した 能力無しにも容赦しない 操作を極めた男 名を得た者 奪われた者


名前:黝

存在位:下位霊Lv.1(43/72)

能力:存在可能(固定)

   吸収(固定)

   移動(固定)

   思考(固定)

   外部接触(固定)

   記憶保持(不完全)

   索敵(任意)Lv.3(56/78)

称号:命拾いした 名を得た者 妄想姫 奪った者


39/72もふたりとも上がっていたということは、今昏倒(?)させてきた奴は2Lvちょっとあったのか...。その割にはあっけなかったな。13Lvは伊達じゃないって事か。というか、何故こんなに簡単にレベルが上がるのに誰も鍛えようとしないんだろうか(一人しか会っていないが)。今世紀最大の謎である。


それからも、俺と黝はしばらく周囲の霊を狩り続けた。五人ほど狩ったが、二人目で一瞬集団で行動している霊たちに気づかれかけた。ちょうど殴りかかった後だったのだが、敵の能力なのか体が一瞬動かなくなる。その隙きに回避行動を取られてしまって、なかなか拳があたらない。

「蘇芳さん!!例の集団が近づいてきてます!!」

仕方がないので、一瞬引くふりをして遠距離から発動させる。威力は落ちるはずなのだが、(昨日検証した。)相手はすぐに昏倒させることができた。二人でその霊を全力で運び、見つからなさそうな寂れた商店街の肉屋と八百屋の間においてきた。そんなこんなで、初日から暗躍していた俺だが流石に疲れた。不思議なことになくなったと思っていた三大欲求のうち、睡眠に対する欲だけが戻ってきた。これは集団で行動する事でが戻ってきたのではないかと俺は思っている。もしかすると久しぶりに動きすぎただけかもしれないが。


眠くなってきたので寝ようとしたら、寝る間は無防備になることに気がついた。正直言って、この家の中にいるのも、なんとなく落ち着くからであって、物質をすり抜けられる状態の俺たちからすれば、物質の囲いなど何の意味も持たない。仕方が無いので黝に起きてもらって探索を頼むことにした。眠るのは、当然俺のベッドである。いざ寝ようと思ったらすり抜けた。当たり前だが、このままではベッドが使用できない。しばらく工夫して、リラックスした状態で滞空出来ることに気がついた。今日はこれで寝ることに決め、ウトウトしながらも黝に生前の事を聞いてみる。

「黝って、この辺りの出身なのか?」

「ええ、凄く近くですよ。私の家はこの家の左前のあの2階建ての家です。」

「意外とご近所さんだったんだな。死んだのはいつぐらいなんだ?」

「そうですね~、大体一ヶ月前くらいでしょうか。家で一人でいたら急に胸の辺りが苦しくなって、気がついたら自分の葬式を見ていました。蘇芳さんは?」

「俺は一週間ちょっと前だ。下校中に大型車種にはねられたらしい。」

「率直に聞きますが、蘇芳さんって何歳なんですか?」

「死ぬ前までのカウントなら14歳だな。」

「私も14で死亡しましたね。あっけない終わり方でした。」

そういえば、近所との立ち話で母親が心筋梗塞でなくなった子がいたらしいって話を聞いてきたことがあったな。一ヶ月くらい前なような気がするから、あれが黝だったのか。よく考えたら、生前の黝も一度だけ見かけてよくできた顔だな~とか考えたような気がする。黝との会話のネタもなくなり、俺は明日何をしようかと考えながら既に死んだ身で眠りについた。


さて、蘇芳さんは寝たわけですがここで何かして私の有能さを知らしめてやりましょう。まずは索敵、それから攻撃技でも身につけておけば、明日驚かせる事は十分可能なはずです。差し当たっては、まず索敵をひたすら細かくやっていく事にしますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る