索敵


 索敵のスキルを手に入れるにはどうするか。索敵をすれば良いのかといえば、そうとしか言いようがない。具体的には周囲の物の存在、というか気配を感じ取り、目を閉じていても移動できるような訓練をすれば手に入るのでは無いのだろうかと思われる。早速その旨をゆうに伝えると、かなり不満げだった。

「ええ~、他の霊狩りに行きましょうよぉ。訓練なんてつまらないじゃないですか~。」

かなり口調が崩れてきているが、馴染んできた証拠だと思う。というか初対面の人間に対して1時間後くらいにこんな軽々しく話しかけるのは、俺には無理だ。かなりの強心臓なのだろうか。

「戦闘が好きなのかもしれないけど、何もなしで行ったんじゃすぐ殺されるのは目に見えてるよ?」

「別に戦闘が好きなわけではありません。退屈なのが嫌いなだけです。」

あ、これ絶対に学校の成績でいうと超上位陣か下から数えたほうが早いような奴の傾向だ。敬語にあわてて戻している点を見ると、ちょっと頭の悪い子なのかもしれない。

「退屈なのは分かるけど、一日程で手に入ることが分かっているから他の霊狩りは少し待とうか?」

「何ですか?その幼児に話しかけるような口調は。蘇芳すおうさん、私が戦闘狂みたいな発言をしたから私が言葉の通じないやからみたいに思ってるんでしょう?」

やからだとは流石に思わないと思う。それにしても、思ったより頭が良いようで良かった。今の俺は蘇芳さんと呼ばれても反応できないので、この名前ももう少し慣らす必要があるなと思いつつ、俺は黝に能力を学習させる方向に持っていくことにする。

「とにかく、特訓を始めよう。まず第一に、目を閉じて周りの物を意識する。そうすれば、自ずと索敵が行えるようになると思う。」

「何故知っているのかが謎です。大体、蘇芳さんは存在力操作しか特別な能力をもっていないでしょう?」

バレたか。むこうにもこちらの概要が見えるのを完全に忘れていた。最近忘れっぽいな、年かもしれない。

「まあ、どう考えても索敵は索敵だし、周囲を意識するのは変わらないだろうからやってみな。」

「蘇芳さんの口調が乱雑に...!?」

おっと、本音が漏れていたようだ。まあ丁寧語をやめるように言ってきたのは黝だし、問題ないだろう。黝もようやく話を聞き入れたようだしな。


黝は出会ったばかりの少年の進めるように目を閉じて周囲を意識してみる。当然ながら何も分からない。誰しも、生前にもやった事があるだろう。そんな事をしていたのは自分だけかもしれないが。とそんな事を考えるうちに、ふと自分がすでに幽霊であることを思い出す。存在力の塊のような今の自分なら、周囲の状態も分かるかもしれないと信じ、もう一度周囲を意識すると、今度はボンヤリと周囲の物の輪郭が見えてきた。蘇芳は見えないが、周りの、おそらく生前の蘇芳の部屋だったと思われる場所においてある家具などは見える。

「おお、なんだかボンヤリと物が見えますよ、蘇芳さん。」


「そうか、それは良かったな。一時間位で習得出来るのは目に見えてるから、しばらく頑張ってろ。」

俺は乱雑な口調を直しもせずに、そのまま黝に返事をする。この時間、すごく無駄なような気がしてきた。俺はたった一夜で板に付き始めたという動作を無造作に行う。問題としては、これを行うとかなりグロテスクな音がする。ブチッとグチャッが混ざったような音が。

「ヒッ、何かおぞましい音が聞こえる...!!?」

「気にするな、気にしたら負けだと思えばなんともない。」

そう言うと、俺は腕を遠距離から動かしてみる。案外、素直に腕は動いた。まだ体の一部のようなものなので、これなら生前の夢だった、その場から動かずに物をとったりできる自堕落ライフが出来るかもしれない。流石に同じことの繰り返しでは芸がないので、腕を粒子状に分解してまた集合させ、粘土のようにこねる。何を作れば良いのかがわからないのだが、置時計とかの内部の構造は見えるので、それを真似て作ってみる。幼稚園児の粘土遊びの結果のような物体Xができたが、これも修行の内だと思い、俺は歯車をひたすら作ることにした。腕を千切ってはバラしてまとめ、平たくし、中心に穴を開けて、周囲に突起を付けていく。一階の作業は10秒ほどで終わるので、一分間で六回、一時間で360回出来るな、などとどうでも良いことを考えながらだが。

「蘇芳さん、だんだんハッキリ見えてきましたよ~。」

うん、いちいち報告しなくて良いから。

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