名付け


 さて、いきなり球体が美少女になって驚いた俺だが、これ以上の会話が繋げられないことに気づき、名前をつけてもらうのを忘れていたのを思い出した。

「分かった。実は名前を覚えていないから、つけてもらえない?」

「奇遇ですね。実は私も、名前を覚えていないんですよ。仕様なんでしょうか?」

おい、敬語なんだが。あとメタい。

「記憶保持が不完全になってるから、仕様では無いと思う。」

「記憶保持... ?」

神から聞いた概要の話をすると、彼女はかなり驚いているようだった。神、意外と良いやつだったんだな...。

「ところで、名前は?」

「ああ、名前、ですか。概要に夢中になっていてすっかり忘れていました。そうですね、色の名前からとっても宜しいですか?」

「自由に決めて。」

「では、今日から貴方は...柘榴、というのはどうでしょうか?」

まるでヘッドショットを決められるためだけにうまれてきたような名前だな。

「もう少し別のものが良い。」

「ええ...自由って言ったのに。それでは、今日から貴方は蘇芳すおうです。」

蘇芳、なかなか良いんじゃないだろうか。何となく響きが気に入った。恒例の概要を唱えてみる。


名前:蘇芳

存在位:下位霊Lv.1(32/72)

能力:存在可能(固定)

   吸収(固定)

   移動(固定)

   思考(固定)

   外部接触(固定)

   記憶保持(不完全)         

   存在力隷従(任意)Lv.3(58/106)

称号:自転車のベルに敗北した 能力無しにも容赦しない 操作を極めた男 名を得た者


おお、ちゃんと名前が変わっている。あとから付けても意外と変わるもんなんだと思いつつ、よくわからない達成感に浸っていると、

「あの~、私も名前を付けてほしいんですが。」

完全に忘れていた。仕様とかメタ発言をしていたせいでそちらに気を取られていたようだが、彼女にも名前がんだった。

「では、同じように色の名前からとっても良い?」

「まともな名前なら大丈夫です。」

少し考える。蘇芳はなかなか考えてつけてくれたようだった。ここで白とか言ったら、せっかくの頑張りを台無しにしてしまうかもしれない。俺は考えに考えた。絵なんて書いたことが無かったので、色の名前はほとんど聞いたことがない。そういえば、生前学校の同級生が絵を書いているときに言っていた色で黝色ゆうしょくという色があった。はじめて聞いたときは晩御飯の話をしているのかと思ったが、あとで調べてみたら色の名前だった。

「では、今日から貴女の名は...ゆうです。流石に色は外しておいたけど、これで大丈夫?」

「ゆうってどのゆうですか?」

すごくマイナーな色なのを忘れていた。床に体の一部を削りながら、まさに身を削る思いで黝の字を書いてみせる。

「かなり暗い感じの青なんだ。他にまともな色の名前が思いつかなくて...」

黝の名前が概要に表示されるのかどうかが気になり、黝に概要を開いて見るように勧めてみる。その際に、概要と唱えるだけで開くので鬱陶しいなと思いつつふと黝の方をみると、黝の概要が見えるようになっていた。先程まで見えなかったので、名付けるとかそういうレベルの影響を及ぼさないと見えないのだと思われる。当の本人がじっと考え込んでいるので彼女の概要を覗き込んで見る。


名前:黝

存在位:下位霊Lv.1(1/72)

能力:存在可能(固定)

   吸収(固定)

   移動(固定)

   思考(固定)

   外部接触(固定)

   記憶保持(不完全)

称号:命拾いした 名を得た者


少し前の俺並みに概要が悲しい事になっている。というか、敗北したからだろうか。存在位のレベルが1/72まで落ちている。このままだと殴られただけで消えかねないので、取り敢えず腕を千切って(もう慣れたものだ)黝の体に無理やり押し付けるようにすると、すっと入っていった。途端に黝は顔を上げた。

「すいません、何だが意識が遠のいて動けない状態になってました。」

やはり、反動でかなり弱っているらしい。もう二三本押し込んで見る(かなり嫌そうな顔をされたが)と、完全に彼女は復活し、元のように喋り始めた。

「では、これから何をしますか?お互いに名前もつけましたし、他の霊でも狩りに行きますか?」

物騒なことを提案しているが、黝にも能力を身に着けてもらわないと心細い。ここは何か便利な能力を身につけるまでしばらく観察するしかなさそうだ。しばらく他の霊に遭遇しないように索敵でも身につけて貰おうかと思いつつ、俺はどうすれば索敵が能力に追加されるか考え始めた。



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