本格的始動
名前:??? ????
存在位:下位霊Lv.1
能力:存在可能(固定)
吸収(固定)
移動(固定)
思考(固定)
外部接触(固定)
記憶保持(不完全)
……………………特別な力なんて何もなかった。しかも記憶保持に至っては半分失敗している。道理で名前が思い出せないわけだ。神()から教わった方法は、「概要」と唱える(喋れないが)とのことだったが、期待し過ぎた俺は落胆していた。生前と出来ることは何ら変わりない。固定が何を意味するのかは知らないが、できて当然の事のように思える。自らを待ち受ける肉弾戦の運命が見えてしまった気分だ。と、そこで神が江ノ島から帰ってきた。案外すぐに観光を終わらせたようだ。
「自分の力を覗いた気分はどうだ?」
概要を発動したことも分かるようだ。さすが神。
「神を侮ってもらっては困る。」
それから、神は少し困惑したような声をして、
「戦闘に用いることが出来るような術が一つもないとは...。珍しいな。大抵は一つや二つは生前の趣味などが反映されるんだが...。さては、貴様、何の業も持たずに無味乾燥な毎日を送っていたのだろう?」
どうせ、何の取り柄もない男でしたよ。悪かったですね。というか、一般的には特殊能力の一つや二つあるという事実をさらっと言うのはやめてほしい。つまりはあれだ。ただでさえ肉弾戦という夢の無い戦い方をするのに、こちらは何も使えないというハンデ付き。不利すぎる。
「何か手助けをしてやりたいところだが…。残念なことに下位の存在同士の競争に我々神の称号を持つものが干渉することはあまり好ましくない。本来なら、こうして情報を与えることすら好ましくないのだから。」
好ましい、って誰にだろう。
「他の神々に、だ。他の神々の反感を買えば、存在の力を回収することを邪魔されかねない。我としても、それは避けたい。そろそろ感づかれ兼ねないので消えるとしよう。」
そういうと、唐突に神は消えた。感知できないようにしたのか、法則を無視して瞬間移動を行ったのかは知らないが、神になるとかなり便利なことだけは分かった。
兎にも角にも、まずは存在の格を上げなければならない。もう一度、神の言っていたことを反芻してみる。まとめると、1.存在の格というものが存在する。2.「神」というのは称号である。3.存在の格を上げるには、他から持ってくるなどして、存在の「力」を蓄えなければならない。4.一般的には特殊能力という能力が備わっており、その能力を発動することで、ファンタジー感溢れる戦いができる。5「概要」と唱える事によって、自分の能力などが一覧で確認できる。至ってシンプルだ。
さて、ここで俺が注目したのは、もちろん3である。他から存在の力を持って来ると存在の格が上がるらしい。そこで思い出したのは、神>無生物>生物>実体の無いもの、という存在の格の図式だ。俺が考えるに、神を喰らえば一番手っ取り早く存在の格を上げることが出来るだろう。だが、流石に神を喰らおうとすれば、こちらが吸収されるのは目に見えている。ならば、二番目の無生物から存在の力を持ってくればどうだろうか。やってみよう。ちょうどここに、3分ほど前に近隣の住民が停めていったカゴ付きの三段変速自転車がある。この自転車のベルから、存在の力を吸収してみることとする。いざやってみようとしたら、吸収の仕方がわからないことに気づいた。仕方がないので、全身がバキュームになったような気持ちで力を吸い出すところを想像する。
突如、俺の体(うっすらと見える)が赤黒く姿を変え、異様な光を放ち始める。中から暴走するような力の鼓動を感じる。苦しい、顔を掻きむしりたいほどに苦しい。存在の力が大きすぎて器に入り切らなかったのだろうか。今に爆発しそうなほどに体の内圧は高まっていく。これはまずい。非常にまずい。こんな消滅の仕方があるだろうか。まだ消えた… く… な…
気がつくと、体から発せられていた膨大の熱と光は、止まり、ここ一週間のと同じように透けているだけになっていた。どうやら助かったようだ。「概要」と心の中で唱えてみると、
名前:??? ????
存在位:下位霊Lv.1(1/72)
能力:存在可能(固定)
吸収(固定)
移動(固定)
思考(固定)
外部接触(固定)
記憶保持(不完全)
存在力操作(任意)
称号:自転車のベルに敗北した
となっていた。どうもこんにちは、自転車のベルに負けました。いかに下位霊が弱いかが分かった。自転車のベルがトラウマになった瞬間だった。
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