夢追い人

マムルーク

音能力者

「この熱ーい思いをいつまでもー」

 俺の名前は折北旬(おりきたしゅん)。二十三歳。

 今日もお気に入りの金髪をバッチリ、オールバックに決め、東京の某駅の前で一人、歌っていた。

 大学卒業後、歌手を目指して、あらゆるオーディションに受けたが全滅。

 就職はせず、こうやって日々、どこかで一人ギター片手に歌っている。

 俺には音楽の才能があると自負している。カラオケ採点では九十点台を取ったことがあるし、ギターも独学で学んだ。

 今は目が出ていないが諦めなければ夢が叶う。そう誰かが歌っていた。

「届けー」

 歌い終わると、俺は気持ち良さで感極まっていた。さずかし、俺の歌を聞いた人は感動したことだろう。

 俺はあたりを見渡した。


 しかし、俺の歌を聞いている人はほとんどいなかった。お金を投げ入れてもらうための箱には十円玉が三枚しか入っていなかった。

「いて!」

 俺の体に何かが当たった。下には缶が落ちていた。

「下手くそな歌を歌ってんじゃねえぞ! バーロー!」

 酔っ払いのサラリーマンが俺に缶を投げたようである。俺は頭に血が登った。

「ああ! なんだてめぇわ! このハゲ親父が!」

「あぁん? やんのかおい!」

 俺はサラリーマンに近づき、胸ぐらを掴んだ。

「おう? 殴ってみろよ。できるもんならなぁ! はっはっは」

 狂ったように笑ったので俺はおのぞみ通り殴った。

「あべし!」

 変な叫び声を上げ、サラリーマンは後ろに吹っ飛んだ。

 ギロッと俺の方をにらみつけてきた。サラリーマンはスマホを取り出し、どこかに電話をかけた。

「もしもし? ポリスメン?」

「な......お前!」

 よりによってもう終わったアニメのネタを! 俺は捕まりたくないので、ギターを持って、一目散に走り出した。

 走っていると、ピーポーピーポーというサイレンの音が耳に入ってきた。俺の心臓がバクバクと音がどんどん大きくなっていった。

 俺は捕まるのか? こんな理不尽なことで? ふざけるな! 俺は悪くない!

「うわぁぁぁ!」

 俺は叫んだ。勢い余って派手にこけた。一瞬、視界が暗くなった。口からは血が出て、辛いような鉄のような味がした。

 目を開けると、五人の警官に囲まれていた。

「お前が暴力をふるったという無職か?」

 警官のうちの一人がそう言った。

 違う--俺は無職じゃない。俺は歌手だ。シンガーソングライターだ。これからの音楽を担っていく大きい男なんだ。

 警官が一斉に近づいてきた。ジリジリと迫ってきて、まるで巨人兵のような迫力を感じた。

「う、うわぁ! くるなぁ! くるなぁ!」

 俺は無我夢中でギターを取り出した。これでせめてもの抵抗をしようとしたのである。

「ギターを置きなさい!」

 そう忠告を受けたが、俺はギターを掲げ、何を思ったか歌を歌った。

「言いたいことも言えない! こんな世の中じゃレーズン!」

 すると、警官の上から大量のレーズンが降ってきた。

「う、うわぁ! なんだこれ?」

「れ、レーズン!?」

「お、落ち着け! これはただのトリックだ!」

 な、なんだこれは? いきなりレーズンが......俺にこんな力が? よし、もう一回試すか。

「銃をおけ! さもなければ撃つぞ!」

 警官の一人が銃を向けてきた。

「いいのか? 打っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだぞ?」

 俺が大学生の時に見たアニメでもっとも気に入っているセリフである。再びギターを弾き始めた。

「うつつじゃない。それもこれも〜その手で窓を開けましょう〜祝杯がwantなら〜悲壮を知りそしてあーけようーそして、きらめくライトニングソウル!」

 すると、警官に雷が落っこちてきた。

「ぎゃああああああ!」

 警官は雷に撃たれ、倒れた。俺は警官の脈拍を一人づつ確かめた。大丈夫、全員生きていた。

 俺はその場を離れ、自宅へと向かった。

 いやぁ、俺にはこんな才能(ちから)があったんだなぁ。知らなかった。これで、超能力歌手としてデビューできるかもしれないな。

「見つけたわ」

 俺は後ろを振り向いた。銀髪碧眼の少女が立っていた。身長は俺よりもかなり低く、手にはタンバリンを持っている。

「さっき、見てたわ。あなたも私と同じ音能力者なのね」

 抑揚のない口調でその少女は話した。

「お、音能力者ってなんだ? それにお前は誰だ?」

「私の名前は音西彩音(おとにしあやね)。コードネームは『タンバリン』。見てなさい」

 音西はタンバリンを鳴らした。シャンという音がなった。

 すると、俺の身体が突如、重くなった。

「な、なんだこれ......」

 再び、タンバリンを鳴らすと元に戻った。

「私はタンバリンを鳴らすことで重力を操ることができるの。音楽を使って特殊な能力が使える人間を私たちは音能力者と呼んでいるわ」

「お、音能力者......それよりも私たちってことは他にもこんなことができるやつがいるのか?」

 すると、音西は無表情のままうなづいた。

「ええ。私たち、音能力団にはたくさん音能力者が所属しているわ。あなたも入るべきよ」

「入ったらどうなる?」

 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。直感的になんかやばい予感がした。今までポーカーフェイスを貫いていた音西はにやりとした。

「日本、いや世界を征服するの。私たちの力を使ってね。悪くないでしょ? あなたも世間から音楽の腕を認められなかった口でしょ。この世界は腐ってる。私たちを評価しない世界なんて存在価値がある?」

「ないかもしれないな」

 確かに俺はたくさんの人から「個性がない」だの、「常人より少しうまい程度」などバカにされた。

「それじゃ」

「でも断る!」

 俺はギターを掲げた。そして奏でる。


「たからかーに爆笑すればともだち〜」

 すると、複数の猛獣が出現した。猛獣どもはウガォーと雄叫びを上げている。

「そう。仲間になる気はないのね。なら、ここで消してやるわ」

 

 これが俺と音能力団との戦いの始まりだった。

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夢追い人 マムルーク @tyandora

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