52 普通家庭

「なぜ突然やめたんですか?」

「本業でやるにはルールが厳しくてね。コネはつくったし、だから、まずは生物研究してから、好きな死体だけ相手にしようと思って。」

後部座席に座る彼女は外を眺めながら、心あらずといったところだ。

「でもすごいですね。元々法医学者目指して海外の学会まで出てたってことは国外で仕事しようとしてたってことですか?」

「いやいやまさか、私の家庭はごく普通の一般家庭だったからそんな資金はないし、学費も全額奨学金。行けてたのは教授の知り合いがアメリカにいてそのツテで運がよかっただけで、よくある実力がどうのこうのっていう話はないよ。むしろ、もっと秀才が他大学の同学年にいてね、その彼がとてつもなくすごかったよ。」

「へ〜先生でもすごいって思う人いるんですね。どんな人だったんですか?」

「これまたごく普通の人だった。研修や勉強会でよく顔を合わせてたし、馬もあって仲良くなって、法医学界を盛り上げていこうって話してたんだけどねえ。」

「なにかあったんですか?」

「社会人になって何年かたって、彼の兄弟が亡くなってね。それ以来なんだか、少し、ほんの少し彼や彼の周りが変わったみたいでさ。」

「なるほど。それがこれから会う元嫁監察医の息子さんってわけだ。」

「そういうこと。」

「全然、まあ、俺からしてみればごく普通なんてことないですけどね。」

「いや、普通だよ。ごくまれにみる、普通の家庭さ。彼も私もね。」

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The sister police. 野水 志貴 @mametibi

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