37 浅野

取調室でミステリー作家と刑事は対面し話し合っていた。

室内の内容は隣の部屋から見ることはできても聞こえないようにしていた。

「ええんか、職権乱用やって問題なるで。」

「どの口が言ってんだ、今まで散々首突っ込んでるだろう。たまたま今回は、皮肉にも当事者での参加のようだがね。」

「悪い口やなぁ、刑事さん。作家は目立ちたがり屋が多いけどな、基本は皆んな傍観好きやで。」

「どこぞの探偵小説みたいなことを言いやがって、まったく。」

「ほんで木ノ下君、今回の事件の概要は聞いたかね?」

「ああ、ここにお呼びがかかって確認済みだ。お前も同時刻に現場に居合わせたって聞いたから、協力付き合ってやってくれ。」

「私の見解じゃあ、ある男が怪しいと思ってるんだけどね。詳しくは話せないが、実は依頼であの店にいたんだ。」

「ほう、それは話してくれるのか?」

「守秘義務ってあるだろ?まあ、だが、今回は依頼者が被害者である以上話さらざる得ないな。」

はあ、と腕を組み呆れた浅野は言った。

「亡くなった以上は無効だな。」

「今回の被害者がお前の依頼者って訳か。内容は。」

「ある人物についての調書と、以前亡くなった依頼者が詐欺にあったらしくてな、その件に関しての調書の依頼だ。」

「ある人物は?」

「今回、私の他にも何人か参考人がいるだろう。その中にいるんだ。堤下という男がね。亡くなった依頼者が言うには、詐欺の犯人だと言っていてね。」

「それで調査の依頼を。」

「ああ、警察に相談したらしいが、詐欺は捜査が難しい事を理解してたいみたいで、それで私のところへ。」

「なるほどな。それで?」

「結論から言うと、調査を踏まえて推測だが、クロだな。だが、立件は難しい。詐欺だからな。何しろ依頼者が亡くなってしまった。お手上げだ。私はここまで。」

そう言って浅野は、木ノ下に二つの少しあつい封筒を渡した。

「まあ、私立探偵の言うことなんざ信用してないだろうが、君にあげるよ。私にはもう必要ないからな。」

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