26恩人
海の見える公園のベンチにて。
土山の運転する車に、乗車し行き先を告げられぬまま走った先は首都高速をおりた先のここだった。
「おう、元気だったか?」
足音に気付き、振り向いた彼は言った。
「木ノ下さん、変わってないですね。」
「パリはどうだ。オペラ座観に行ったか。」
まあ休みなんてないか、と笑って隣座れとたたいた。
そんな冗談、木ノ下くらいだった。
実際は、海外の潜入捜査なんていうものは、誰もが避けたい任務だ。
それを笑い飛ばしてくれる器がある彼は、やはり格が違うと思う。
加賀美は長年、木ノ下にお世話になっている恩がある。親のいない彼にとっては本当の父親のような存在だ。
「土山どうした。」
「コーヒー買ってくるから先どうぞっと。気遣ってるんですよ。」
「あいつらしいな。まだ数ヶ月だろう。」
「何言ってるんですか、俺ホームシックですよ。流石に!」
「はは、よく戻ったな。おかえり、タツヤ。」
頭を撫でられる。
あれ以来だ。
最後の日。空港の搭乗口で、「生きて帰って来いよ。」そう言って、親が子供の頭を撫でるような感じで、自然とやってのけられた。
「…ただいま、」
父さんと、言いそうになった。
それ程、彼に心酔していた。
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