25そして息子

とある病院の一室。

「もうすぐ来るそうですよ。奥さん、まだ旦那さんのお手伝いしてるんですね。」

「もう辞めろって言ってるんだけど、聞かないんだ。なんだかんだ、どっちも仕事人間なうえに愛想尽かしてないからなぁ。」

「何で別れたんですか。」

「俺が知るわけないだろう。"あの後"実家に戻るつもりで帰ってみたら、知らない間に離婚してたんだよ。」

橘スグルは、ダンこと日引と橘弥生の長男にあたり、都内で法医学者をしている。

「弟さんの事件の後、ですか。」

「さあなぁ。事件の後か前かも知らないが、いつまで気負いしてんだか。」

スグルの弟は、警察官だった。

警視庁組織犯罪対策部に所属しており、任務を遂行中に殉職。詳細は極秘任務のためか告げられる事は無かった。

その後から、両親は仕事をしながら裏で情報を躍起になって収集している、らしい。というのも、ここに来る信頼している刑事から聞いた話だった。

「母さんの病院でデータ照合されないとなると…相当厄介な案件だなぁ。佐山くん、本当にいいのかい?電車なくなっちゃうよ?」

「4日も駐在してる先生一人にさせる訳にはいかないでしょう、付き合いますよ。」

「いやぁ、悪いね。データの照合は終わってるから、あとは仏さん来てからだね。」

医者としても、家族としても、最後の弟には会えなかった。

無念だった。

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