19影の彼

パリに渡ったのは数ヵ月前。

潜入捜査で海外に行くなんて思ってもみなかった男がいた。

警視庁所属で、公安部でもない、ある青年。

数ヶ月前のとある一室。

「木ノ下さん、それ辞令、ですか。そのパリに、行くのは…」

「ああそうだ、上からのな。お前"一人暮らし"だったろう。入寮頑なに断って、わざわざ遠いとっからよくやるよ。」

「家族がいるので…」

今とはまるで別人のような暗い雰囲気の青年。

「これからは俺がみてやるよ。お前も帰ってきたときに、一緒に行こう。仕方ない、来る時が来ただけだ。」

木ノ下は、そう言って「とりあえず報告は一緒に行ってやるよ。」そう言った。

その出来事がほんの数ヶ月前だった。

見た目は何も変わらない街は、中身だけがうずうずと闇に向かって進んでいた。

「ただいま、とりあえず今は、それだけ。けどまたどうせ飛ぶんだろうけどな。」

空港に着きすぐ、迎えの車内で打ち合わせをして、青年は途中で駅に下ろしてもらい自宅ではなく都外にある墓地に来ていた。

「寝泊まりはしばらくあっちの近くのホテルになる。次いつ来れるか分からないけど…次は木ノ下さんと来るよ。」

そうこうして家族の前に座り込んで3時間ほど過ぎた。

「もう済んだの?」

「なんだ、帰ったんじゃなかったのか。おじさんは?」

「着いて下ろして来たわよ。あなたの事相当気に入ってたみたい。私からしたらビックリだけど。」

「人を装うってのが俺には天職だったみたいだ。土山、送迎サンキューな。飯行くか。」

立ち上がって、青年は歩き出した。

「馬鹿ね木ノ下さんがお待ちかねよ。」

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