17エアーポート

とある男の話。

ニューヨークから日本まではざっと14時間以上はかかる。

だからそんなちょっとやそっとの用事ならば、断るか、或いは"またの機会に"である。

しかし今回は、その"またの機会に"では済まないような話だった事と、

昔馴染みの"ダン"と愛娘からのお願いとあったら行かない理由はなかった。

「しかしまぁ、なんとも遠いな。同じ地球に、住んでいるのに。"Spring"に行くより遠いじゃないか。」

「No way, the restaurant in Paris? Do you know Spring?」

独り言が口に出ていたからか、機内の通路を挟んだ隣の青年が話し掛けてきた。

アジアの青年だった。

「君も、その年でスプリングを知っているのかね。料理人かな。」

「いや、僕は以前パリに住んでいたんだ。有名店だったか知ってるだけ。」

「そうか、いいな。パリには住んだ事がない。さて、君は旅行客、といった感じではないな?」

「おじさんこそ。仕事かな?僕は友達が困っているから助けに来たのさ。」

そう言って、青年はガッツポーズを決めた。

「心優しい青年よ、君のような人間が沢山いたらいいのになぁ。」

「ところで、おじさんは?」

「私は娘に会いに。」

「結婚?」

「いや、まさか。そうだ青年、君と歳は近いはずだ、良かったら一緒にディネでもどうかな。」

「ありがとう、嬉しいよ。でも帰国してからすぐ予定いっぱいなんだ。都内にはいるから、また誘ってよ、おじさん。」

そう言って、彼は眠りにつこうとした。

気はいいが、はやとちったか。しかし、いい出会いに感謝だ。

8時間後、空港に着くやいなや、娘、土山恵が待っていた。

「感動の再会は後からね、もう一人待ってる人がいるの。」

そう言って、彼女はきょろきょろとゲートを探している。同じ機に乗っていたのか。

「あ!いた、こっち!」

すると、そこには隣に座っていた青年が笑顔で手を振りながら歩いてきた。

「やっぱり、似てると思ったんだよね、おじさん。土山恵さんのお父さん、宜しくね。」

両の手を差し伸べられ、私も両の手を差しだし強く握った。

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