東二局
俺はしがない雀士。学生時代、麻雀にハマってしまいその魔力に魅せられた、今年で
麻雀では満たされない何かをBAR・Le Víaで埋めていた。
「やぁ、マスター。いつものお願い」
ボトルからグラスへと、トクトクと注がれていく光景をぼんやりと眺める。
「先日はどうも。姫川、可愛かったでしょ……ん? あぁ、チョンボマンの本名だよ。
グラスに口をつけ喉を潤す。
「あれから、田中さんと木村さんも
グラスを置きコースターを冷やす。中の氷は酒とともに溶けていく。
「ま、いつもの愚痴に付き合ってよ……そうそう、いつも通りの悪質客さ……今度の客? イカサマを使う奴だよ。ま、Vシネマに出てくるような如何にもって感じじゃないけどさ。只のおっさんだよ。木の樹液に誘われた場違いの蛾がね」
「一発自摸! 四千オール! ラストです!」
「くはー姫ちゃん。強いね~。オジサンたちすっからかんだよ」
「つよーなったな。ひめちゃん」
「えへへ」
「あいつ。意味わかんねーぐらい強くなっちゃってさ。剛運って言うの? リーチしたら一発は当たり前。暗刻は全乗り。だから大体は満貫以上。可愛い顔してバケモンだよ。本人はさ『ビギナーズラックですよ。先輩!』って言うんだよ。あのままだとこれから先、何年も言いそうだなアイツ……ん? 悪質客?」
「あ、それロンです!」
「え? ホンマか……ん? ってそれチョンボやん。ほらこれ」
「え、嘘! どうして!? こんな真ん中の牌切ってないです」
「うーん。確かにこの切り順。不自然だな」
「どうしましたか?」
「先輩。私、誤ロンしちゃったみたいで……でも故意ではないんです!」
「……」
「故意ではないにしても……三千オール払い」
「……はい。皆さん、申し訳ございませんでした。以後気を付けます」
「気にせんで! 次や次」
「おじさんたち。姫ちゃんのキュートな笑顔をさ見に来たんだから」
「田中さん。それセクハラです」
「田中はん。あきまへんで」
「ガハハハッ」
「……」
「その卓ではそれしかなかったんだけどさ……そのおっさん、姫川の河をすり替えたんだと思う。田中さんと木村さんに事情を話したら席を譲ってくれたよ」
「おーっと、そうだった。これから用事があったんだった」
「そーやった。ワイもや」
「おいおい、二人もか?」
「カミさんに叱られてまうわ、堪忍な。二人分の代走頼むでー」
「かしこまりました。代走入りまーす!」
「待たね。姫ちゃん」
「また来るさかい」
「?……はい。お待ちしております」
「そのおっさんには、座楽でイカサマするとどうなるか教えてあげたのさ……もちろん麻雀でだよ。でも少し苦戦しちゃってさ、点棒状況的にダブル役満が必要なくらい追い込まれててさ」
「(上家のねーちゃんは赤ドラの順子落とし、そして河もバラバラ。この点棒状況だと七対子はない、ドラも切ってるしな。となると、自摸四暗刻か単騎待ち。下家の店長は河的に萬子のホンイツかメンチン……いや九連……純正まであるな。親である俺からのダブロン狙ってるとしたら、これら萬子は切れない。そしてこの白も)」
「(対面のにーちゃん。中に発をポン。場にはまだ白が見えていない。確定か、シャボか。どちらにしろ点数は……この局を耐えれば勝てる!)」
「……」
「(!? 白とおるのかよ。脅かせやがって。ちっ、また萬子をツモっちまった……ここは奴と同じ白を)」
「ポン」
「なに!!? 切った白をポン!?」
「自摸! お客さん。大三元を確定させた人の責任払いで32000です」
「な……な、なんだと」
「すごい! 流石先輩です!」
「こんなこと他の客にしちゃったらクビもんだけどさ、これぐらいしか思いつかなかったんだよね。それにさ、イカサマにはイカサマでって言うのは、Vシネマの中での話。腐ってもプロ名乗ってるんだからさ……マスター」
「新しい道を見つける事って難しいけど重要だと思わない?」
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