第10話「謎は謎を呼び、一縷の光は額にさす。」
一週間後の8月14日。
うだるような外気は日中はもちろん、夜中も山中の家の室温を確実に上げていた。
三日前には電気、水、ガスが完全停止した。テレビもつかなくなり情報を集めるのに使うのはラジオとなった。この一週間金田と古場は早朝と夕方に見回りをしたが全くと言っていいほど感染者はいなかった。
確かに道路に何体かの死体、道路に血しぶきを発見したが、生きた感染者には会うことはなかった。
「あまりにも不自然だろう。死体はあんなにも固まっていたっていうのに、生きた奴に出会わないってのはどういうことだ。しかももっと不可思議なことがある。」
「あれですよね。自然発火?」
古場は天井を仰ぎ見ながら言い、金田は頷く。
「二人に話してはなかったが、一昨日の話だ。こないだ見た多くの死体があるところが気になって行ってみたんだが、、、残ってなかったんだよ、骨以外。」
それを聞いて山中と下田は目を丸くする。
「そ、それってどういうことなんですか?」
下田は身を乗り出して聞く。
「詳しいことは何もわからない。この暑さだ。死体なんて数日で腐ってとんでもない臭いを放つと思っていたんだが、、臭いが想定よりもしなかった。それで残っていた骨や、辺りを確認してみたんだが、どうやらどこからか発火したみたいでな。まぁ、臭いを抑えるために勝手に火葬されたのはいいんだが。」
腕を組んで続ける。「死体の自然発火って聞いたことあるだろ?あの可能性も考えたんだが、火種が無いんだよ。そもそも、確かに温度は上昇してたが発火点に達するようなものでもないし、どう考えても自然発火するような状況じゃないんだよ。それに、、」
そこまで言って金田は古場を見、古場は話を引き継いだ。
「それがな、、血が、焦げ臭いんだよ。その辺に飛び散ってた血液が。なぁ、下田さん。血が発火するなんてことありうるのか?」
そう問われた下田は難しい顔をする。
「血が、、自然発火?あり得ないと思います、けど、、。だって半分が水分だし、酸素があると言っても外に出ればある程度の時間で凝固します。どう考えても無理だと思います。」
血液は酸素を運ぶものであるから誰かが着火すれば燃えるのでは?と山中は問うが、出たのは酸素は助燃性があるだけで血液に燃える主成分が無いから燃えるほどの力は出すことが出来ない、という結論であった。
「じゃあ、感染したら血がガソリンにでも変わるんじゃねえの?」
山中はもううんざりといった顔で言った。
「おいおい、、。」
古場もそうは呟くが似たようなことを考えてしまうくらい意味が分からなかった。
「そういえば、、まだ電話繋がってるんだよな?」
以外にも固定電話は一週間たった今でも繋がっていた。恐らくそろそろ途切れるのではないかと金田は危惧しており早い段階で何かしら手を打つべきと考えていた。
「はい、昨日の夜に動作の確認できました。」
「、、、、、。あ。」
古場は突然そう言った。
「ん?どうしたんだ亮。」
金田は不思議そうな顔をして古場を覗き込んだ。
「安全な場所、逃げる道、、。行けるかも、、?あの、友人に電話してもいいですか?」
「それは別にいいが、いったい誰に?」
「高校の時の友人で時々連絡を取るんですけど、そいつの家金持ちで、親父さんが政界とかに顔が利くような人なんですよ。もしかしたら。。」
山中は思い出したように古場に顔を向ける。
「ああ!翔太か!」
本名 植草翔太。現在は彼の父親が二年前に新しく作った豪邸、というか最早ミニマンションのようなところに住んでいた。もしそこへかくまってもらうことが出来れば何とかなるかもしれないと古場は考えたのだ。
「でもあそこの親父嫌いなんだよな、、。あの顔にあの性格。」
苦い顔をした山中はうつむく。
「そう言うなって。あの時の父母会だけで印象決めるなよ。まぁ俺も嫌いだけどさ。もしかしたらッてこともあるだろ?」
「父母会って、何かあったんですか?」
下田は眼鏡の奥の目をぱちくりさせながら聞いた。
「いや実は、高校の父母会があった時にあいつの親父が教師を殴っちゃったんだよ。教育者としての品格が足らんとか、こんなところに息子を預けるかとかいって、挙句そこにいた父母さんたちの教育がなっていないから日本はダメになるんだ、とか怒鳴り散らして大騒ぎになったんだよ、、。」
山中はため息をつきながら事の顛末を語った。
その事件はその後大事件になり警察に訴えられると思いきや、何故か誰もそのことを口にしなくなった。植草から聞いたところによると父親が学校と教育委員会に圧力をかけていたらしい。
「ただただ傍若無人だよ、、しゃべったことは無いし、その案件しか知らないけど、関わりたくはないよな、翔太はあんなにいい奴なのに、、。」
そううなだれる山中を横目に古場は植草の自宅の番号を押していった。
コール音が4回なった時。
「______はい。もしもし植草ですが。」
植草翔太本人の声だった。古場が彼の家電にかけていた時期はお手伝いさんがとることが多かった為古場は驚いた。
「翔太!翔太か!」
古場は驚きの余り名前を出したが、
「え、えっとどちらさん?」
「ああ、お、俺だ。古場亮だ。」
その言葉を聞き電話の向こう側のトーンが変わった。
「え、まじか!亮なのか!?無事なのか!」
「ああなんとかな、そっちの様子はどうだ?」
これは単なる近況報告ではない。東京での感染者状況はどうなっているのかということだが植草はそれを瞬時に判断し
「そうだな、家の外に迂闊に出れないな。まだ国会議事堂からはかなり離れた地域だからなうちは。」
「だろうな、、。ん?国会議事堂?どういうことだ。」
「知らないのか?今感染した人たちが何故か国会議事堂に向かっていくんだよ。全員が全員同じ方向に。」
そばで電話を聞いていた金田はその言葉に引っかかった。
「同じ方向?じゃあまさかあの時の、、」
そう呟いて金田は古場を見ると古場は頷いた。
「人数的にはどうだ?」
「かなりすごい人数らしい。あそこの近くは多分全滅してるレベル。比較的郊外は感染者がいても全員そっちの方向に向かっていくから襲われることはあんまりない。けど疾病の書体が全く不透明な以上迂闊には動くのはまずいからな。そっちこそどうなんだ。茨城だったろ?」
「まぁ、俺の近くの人間が全くと言っていいほどいないことは確かだな。」
「全く?人間がか?感染者がか?」
「どっちも、だな、先週から悠介とかと合流して今サバイバルのプロをリーダーにして4人で待機してるといったところだな。ただどこまで持つかは分からない。お前はこれからどうするつもりだ?」
「親父が海外の窓口と交渉してるみたいだが上手くは行ってないらしい。とりあえず火星のグセフに住んでる親戚のところに行くかという話にいきそうではあるんだが、、」
「そうか、、。無理なお願いではあるが俺たちもどうにかできないか?」
植草でさえそんな状況なら、古場達が行くのは至難の業であるだろう。古場は顔をしかめながらも頼む。
「無理、、ではないはずだ。グセフ地域の為のロケットは基本的に大型だ。現に今立ち入り禁止の瀬戸飛行場にロケットはある。」
瀬戸飛行場。それは10年ほど前に作られた小型のロケット発射機がある小さい空港であった。空港といってもロケットを飛ばすための台と管制室しかない。切り立った崖の上にあり崖の下は数キロにわたって広い草原だけが広がっているという不思議な場所であった。
「あそこか、、。たしかお前の親父さんが作らせたんだよな。それでまだ立ち入り禁止状態なのか。」
「ああ。飛行場とはいってもかなりマイナーな地域な上に公表していないから誰かに先んじられてはいないはずだ。」
「俺たちが付いていってもいいのか?こっちはさっきも言ったが4人だ。男3人と女が1人だ。」
「大丈夫だろう。親父には話付けておく。、、。俺が話をしたら俺もそっちに迎えに行く。」
古場は目を見開いて驚いた。
「何?そんなのどうするつもりだ。」
「鈴谷と野田を連れてヘリで行く。近くに茨城空港あったよな?そこに降りる。」
「茨城空港だな、いつだ?俺たちが向かうには2日は必要だぞ。」
「そうだな。今日明日で説得する。出来れば明日には向かってくれるか?」
古場は頷きながら返事をして電話を切った。
「明日の朝、茨城空港に向かう。か」
山中も下田も大分驚いた様子で古場を見ている。
「古場さん、すごい友達がいるんですね。」
「まぁ、俺もびっくりだよ。持つべきものは友ってか、、」
まだ信じられないような気持で古場は窓の外を見る。
「とりあえずは大丈夫だろう。」
金田もそう言って荷物をまとめ始めた。
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