第9話「負け犬はいつもお前に噛みつく。」
午前6時30分。
「よし、行動開始。」
金田の掛け声で作戦が開始された。急遽入った下田は山中の手伝いということになった。
「いいか。水分補給が最も重要なものになる。頼んだぞ。」
そう言い残し金田・古場ペアは外の見回りと食事の確保に移った。
「今朝は早いんですね。でももう既に近隣の人が来てる可能性もありますよね?」
金田の背中に向かって古場は言う。
「確かに。この時間は遅いという訳ではないが、早いという訳でもない。地震とかの災害で、人口が多い場合は夜中に行動する必要があるな。でも今回はそうもいかないんだよな。」
「?、、あ、そっか。」
金田の言わんとすることが分かった。
今回は普通の災害ではない。歴史でも類を見ないような攻撃性を持った病原体に感染した人がいる可能性があるのにわざわざ暗い夜中に行く人はめったにいない。しかもあれほどニュースで異常事態だと騒げば老人は勿論、子を持つ親は動けるはずはない。
動く可能性があるとしたら古場達のような大学生か知識のある男か何も考えていない高校生くらいなものだ。しかもこの近辺には高校はなくもともと人口が少ない。相当なことが無い限りコンビニなどの品が無くなるなどの事態は起こらない。
「なるほどね、、。」
小さく呟いて回りを見るが辺りには何もないし、いない。
「この近辺に人って本当にいるんですかね。空地は多いし、もともと家が少ないし、、。」
「そうだな、死体が一方向を向いていたことや、感染速度、あまりの静けさ、、。何かありそうな気はするがまだそれを考える段階ではない。携帯が使えない以上、これ以上、、、。」
そこまで言って金田は立ち止まる。
「ん?ど、どうしましたか?」
「電話、、。いや、帰ってから確認する。」
金田はそう言って再びコンビニの方向へ歩き出した。古場は首を傾げつつ、付いていった。
____________
「あ、未歩ちゃん。それはこっちに置いて。この部屋に貯めた水の入れ物置くから。」
「は、はい!」
下田はフラフラと水が入ったバケツを運んでくる。山中が驚くほど下田は働いていた。
「しかし頑張るねぇ、、。女の子とは思えないほどの体力だ、、。」
下田には聞こえないようにつぶやく。
部屋の中には、そこにはバケツやらペットボトルやら、挙句には新品の使ってなかったごみ袋にまで。
入れられそうなものには全て水を入れてある様子がうかがえる。
水道代金はいくらになるのだろうなんて山中は考えながら額の汗をぬぐう。
「ま。請求なんてされないか、、。」
そう言って山中は電話台を見る。
「(そういや携帯電話と固定電話って仕組みが違ったよな?固定は地中にケーブルを、、。)」
そこまで考えてから電話のそばによって受話器を取ってみる。
「まさかね、、。」
旧式の電話のボタンを押して古場の家の固定電話にかけてみた。
「・・・」
プッシュ音が聞こえてからしばらく
「プルルルル、、、プルルルル、、。」
「!、かかった?マジで?」
そこで一度電話を切り山中は110を押す。
「、、、、は、はい!こちら、、警察ですが!!えー、えっと事件ですか、事故ですか?」
暫くして出た司令部の声はあわただしかった。
「あ、いや、えっと、、」
勢いでかけてみただけで何を話すかなど考えても無かった山中はしまったと思った。
「テレビで報道されている感染者が町にいて、警察ではどうにかできないんですか!」
「、っ!またか、、。え、-ととりあえず家で待機していてください!今我々が全力で対処していますので!」
そう言われたところで電話の向こうでは怒号が飛び交っていた。
やれ「早くしろ」だの「どうなっているのだ」と、警察の間でも大きな混乱が起きているのは明らかだったが山中はそこで受話器を置いた。
「くそ、、・やっぱり駄目か。」
繋がったのはいいものの固定電話もいつまで持つか分からない。
繋がらなくなる前にどうにかして助けを求めるべきだと山中は思ってはいたが心当たりはない。
「とりあえず金田さんには伝えておこう。」
そう呟いて再び作業に戻った。
____________
「おい、詰めたか?」
金田は食料を鞄に詰めていた古場に声をかける。
「も、もうちょっとです。まだ入ります。」
古場は視線を落とし、自分が詰めたものを更に押し込む。
様々な道具を入れていた金田はきょろきょろと店内を見る。
「にしてもまさか一人もいない上に入った形跡もないとは、、。」
先日に古場と一緒にコンビニにいたときの様子と全く変わっておらず、商品も何も盗まれた様子はなかった。それはそれでいいはずであるが金田はどうにも嫌な予感がしていた。
「あと何か使えそうなものは、、。あ。」
金田が立ち止まったのはおもちゃが置いてある場所だった。
「これは、、使えるか?一応持っていくか。」
「それ」をいくつか詰め込んだところで古場の声がした。
「多分これでいっぱいいっぱいですね。一度戻りましょう。」
「ああ、今行く。てうお、、ぱんぱんだなおい、、」
古場の登山用のリュックサックは余りに詰め込みすぎて既に丸くなりそうな勢いであった。
「まぁ、まだいっぱいありますし、あとでまた飲み物取りに来ましょう。結構入れたつもりですけど。」
金田は小さく頷いてコンビニを出て、古場もそれに続いた。
山中宅に戻り、ポカリを飲んでいた金田に山中は詰め寄った。
「あの、固定電話がまだつながるみたいなんです!」
金田はうんうんと頷いた。
「やっぱりまだ大丈夫なのか。それで?」
「警察に電話したんですけど似たような電話が結構来てるみたいで、相手にされなかったっす。あれじゃ多分動けるのは先の話になるんじゃないかな、、」
山中はうっとうしそうに髪をかき上げる。
「ま、そうなるわな、、。こうしてコンビニの品物全部パクってるような奴がいるのに全く気付いてもないし、日本の組織体制が基本的に話し合いからだからな。」
そう言って金田はテレビをつけた。まだ生きているらしい。
「ほら見てみろ。この腐った役人どもを。」
そこには国会中継で議員たちが大声でまくしたてるような話し合いがされていた。
最早話し合いではなく、自分の思う所滅茶苦茶に叫んでいるようにしか見えない。
「自衛隊を導入するべきか、人権を優先すべきか。殺す前提ですねこれ。」
古場は国会中継などもともと見ない人間であり実際どういうものなのかは詳しくは知らなかったが自分たち大学生よりもひどいものだと呆れかえってしまった。
「確かに人権は重要ではあるが被害を抑えるための対策として隔離するという提案をしているのにどうしてこういう意見が出てくるのかまるで意味が分からん。まぁ実際のところこいつらは無能のくせに生き延びるために他人を蹴落とすからな。安全な場所へ今すぐにでも逃げ出すさ。」
政治主導権を握っている側の意見としては今すぐにでも感染者の広がりを防ぐために感染者を隔離すべきと主張し、その手段として自衛隊の出動を検討していた。一方側の意見は感染を防ぐ為とは言え無理やり隔離するなど人の所業ではないとは主張しているが代替案は出そうとしない。
「だいたいさ、人の意見を批判する奴ってネットにもいっぱいいるけどどうすればよくなるのかを考えようとしてないよな。その個人を批判したいだけで目的を完全に間違っている。暇人というか性格悪いよ。」
山中もため息をつくように言った。こうもここの中では意見が一致するというのに日本だけではなく海外でも少数派や単数を誹謗中傷しそれを間違っていると否定しようとしない。
「私昔からいじめられてたんですけど先生も助けてくれた試し、無いです。この国ってどうなっちゃうんですかね、、。」
俯き加減で言った下田に対して金田はつぶやく。
「とっくにどうにかなってるよ、、。」
「俺はこの国が好きだ。文化や食べ物。ほかの国にはない独創性も凄いと思ってる。だけどちぐはぐしたところが多いと思うんだ。しかもそれに対して国民はわれ関せずと言って何もしようとしない。そういうやつがいざ当事者になると決まってこういうんだ。」
金田はテレビを見たまま無表情で続ける。
「話が違う、どうして私だけが、ってな。」
首を振って眼を細くする。
「その言葉はそいつが今まで当事者の事を考えなかったからこそ出てくるんだよ。痛みを知らないからじゃない。『痛みを知ろうとしない』からだ。そういうやつを見ると本当に殺したくなる。」
金田の組んでいた手は力をこめすぎて白くなっていた。
「今ここに映っている奴らはきっと典型的なタイプなんだろうな。こんな国さっさと抜け出すか、さっさと違う惑星に行きたいところだぜ。。」
山中は舌打ちをし、下田は無言のまま。
「ま、とにかく今はそのどっちか決めなきゃいけないわけで。」
古場は声を少し大きくして空気を変えようとする。
「そ、そうだな。海外に行くなら飛行機か、船だが、影響が確実にないところまでってなると長いから基本的には飛行機だろうな。」
金田も古場に続く。
「でも太一さん、もし海外も駄目とか。規制敷かれてたら、、。」
山中は金田に視線を投げた。
「決まってるだろ。宇宙に行くしかない。あそこで感染爆発してなければ、の話だが。」
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