第6話「悲劇の雨。鉄の決意。」

山中の家に着いた古場と金田。古場はインターホンを慎重に押した。


しかし物音がせず、山中が出てくる気配は一向にない。


仕方なしにと古場がもう一度押すと、家の中から足音が聞こえてきた。


近づいてきた段階でドアにできるだけ近づき声を出す。


「悠介。」


その時に足音が止み声が返ってくる。


「亮か。どうしたんだこんな時間に。ニュース見てないのかよ。外には出るなって、、、。」


「見たに決まってんだろ。」


古場は山中の言葉を半ば遮るようにして言う。


「金田さんも一緒にいるんだ。家の戸締りはどうだ?」


引き続き古場は声を小さくして話しかけた。


山中はそれを聞いて少し早足で家の奥へと戻り、少ししてからドアの前へと来て口を開いた。


「開けていいのか?」


後ろで道路を見張っていた金田に古場は視線を送ると金田は頷いた。


「大丈夫だ。頼む。」


「全く。来るなら連絡を、、ってそうか。ダメなんだったな。」


古場に続いてドアに入った金田は銃をしまい、ドアを閉めカギとチェーンも閉めた。


「それで、今日はどうしたんだよ。太一さんも怖い顔しちゃって。」


金田は古場の肩をたたき頷く。


古場もそれにこたえるように頷き、昨日の金田の話と今朝のニュースの話を合わせて語り始めた。


その間に金田は家のクリアリングを念のためと済ませた後に一度アパートへと戻っていった。


「まじかよ、。今朝のニュースはまだ見てなかったがそんなにやべぇことになってたのか。だからお前がこんな荷物持って突撃してきたわけだな。金田さんは猟銃持ってくるのか?めっちゃ戦力になりそうだけど!」


古場には山中が少しばかり目を輝かせているようにも見えたので小さくため息をついて銃についての説明をした。


「ただ、必要なものは全部こっちに持ってくる、つまりしばらくはここで籠城するだろうから、その時の為にどちらかは持ってくるかもしれないとは言ってた。持ち運ぶには最悪だからな。」


「なるほどね。映画みたいにポンポン撃っていればいい訳じゃないんだな。」


「感染者自体があんな風貌だから忘れそうになるけど、一応病気を患っている'人'何だからな?」


「感染したのはその人が悪い訳じゃないのは当たり前だけど、結果として俺たて非感染者を攻撃するかもしれないんだろ?だったら何らかの方法で無力化すべきだろ。死んだら何もかも終わりなんだよ。俺はさ、元々戦争が大嫌いなんだよ。例えばとある国が圧勝したとしても規模によっては何百人、何千人と死ぬだろ?家族の人たちは大事な人を失って苦しみながら生きる事になる。結局遠くの死と俺やお前、家族、金田さんや身近な人間の死は世界の終わりよりなんだかんだで辛いよ。」


普段おちゃらけた山中にしては珍しく表情を曇らせた。


そこで古場は山中が姉の事を思い出していること察した。山中の姉,優香は山中と古場の5つ上、彼らが中学生や高校生の時に色々なところへ連れて行ってもらったりしていたが3年前に交通事故で他界した。


その日はひどい豪雨ではあったが本来ならば巻き込まれるはずのない事故だった。歩道を歩いていた優香は雨の音にかき消された歩道に突っ込んでくる車の音に気付かず、そのまま轢かれた。何インカの人間が巻き込まれ死亡したのは唯一優香だけだった。


そして轢いた運転手というのは戦争のショックでPTSDを患った元自衛隊の50代の男であり、彼には実刑判決は下ることはなく執行猶予3年という結末だった。当時の山中は姉の死の知らせを聞いてから轢いた運転手を一生恨むと古場にだけ涙しながら言っていたことがあったが、裁判でその男を見たときに復讐という憎悪が燻ってしまう様な悲しい思いに包まれた。


その男は日常生活をまともに遅れないほどのPTSD、鬱病、解離性同一性障害、パニック障害などの精神疾患も異常なまでに多く患っており精神が崩壊してないことが奇跡といえるほどの男は裁判の質疑応答にもまともに答えられていなかった。


確かに山中は最愛の姉の死に涙し、深い悲しみに呑まれ山中こそ鬱病になってしまいそうなほどだった。


古場も知らせを聞いたときあまりにも突然でまるで遠くの世界での出来事のように感じていたが、


山中の姉の葬式の途中に初めて涙があふれ、式場のトイレで泣き崩れ大声で叫んでいた。


それほどの悲しみに追われても二人が運転手の男を恨みたくても恨めなかったのは余りにもその男が不憫で、その男もまた多くの社会や世界戦争の被害者だと感じてしまったからだった。


その男を恨めたらどれだけ楽だっただろうか。誰かにこの悲しみの責任を負わせられたならこんなにも身近な人間が傷つくこともなかっただろう。


誰もが被害者だった。誰もが苦しみ、誰もが責任を負うことなどできなかった。


その頃から山中は明るい性格に時々影を見せるようになった。


「しいて言えば俺が恨めるのはせいぜいこの世界全部くらいだよ。はは、、。どうすりゃいいんだ。」


しかし、だからこそ今回の事件は「社会や世間によって殺されてしまう人間の不憫さ」を若くして知った二人にとって決意を固める出来事であり山中に生きる覚悟を選択させた。


「俺は姉貴の分まで生き抜くんだよ。死んだらもう二度と姉貴の墓参りにも行けないしな。」


「そうか、、そうだよな。」


その時山中は古場に手を差し出してきた。


「ん?何だ?」


「死んだら墓はいるか?」


そう言ってきた山中の言葉の真意を古場がとらえるのに数秒かかった。


「へっ。んなもんいらねぇよ。死なねぇからな。」


古場はニヤリとして山中の手をはたく。


「お前こそいらねぇのか?」


「そうだな。作るなら家のポチの隣に投げ捨てといてくれや。」


笑いながら山中は言った。


そのタイミングで金田が戻ってきた。


「ん?何だお前ら。立ち上がってニヤニヤしやがって。気持ち悪いぞ。」


そう言った金田は信じられないほどの荷物を担いでいた。


リュックサックを三つ。1.5mほどのライフルケースにキャリーバッグまで引きずっていた。


「え、なんすかその荷物。昨日用意してた時の倍はあるじゃないですか!しかもキャリーバッグとはまた大胆な行動に出ましたね。」


敵に襲われたらという感覚が欠如しているのか来ても絶対逃げられる自信があるのか。


どちらにしても古場と山中は顔を見合わせて苦笑いするばかりだった。




金田は荷物を置いて手をたたく。


「よし。では今後の為の作戦会議をしよう。」


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