第5話「金色の弾丸、赤色の鮮血、灰色の空。」

午前6時。横で寝息を立てている金田を横目に古場はニュースを見始めた。


「先日お伝えしました各地で起きている謎の病原体感染症についてです。本日は感染症に詳しい専門家をお招きしました。本田さんです。本田さん、今回の感染症はいったいどういうものなのでしょうか?」


「そうですね、、。」


白髪の混じった専門家は険しい顔をする。


「今回のような感染爆発とでもいうべき状況は近年では全く見られなかったことです。症状も新しく、感染速度、致死率なども全く不明です。私たちが今回の状況を認識してから民間の方々に広まる速度があまりにも早すぎると我々は感じています。現在確認されているところではどうやら接触による感染はほぼ確実でしょう。空気感染かどうかはその原因となる物質等をバイオセーフティレベル4の施設で確認しないとなんとも、、。」


「なるほど、、。一体何が原因なのか予想などはできますか?」


そう振られて専門家の本田は眉間にしわを寄せる。


「まだ何とも言えませんが、近代100年200年、いやこのような凶暴性を持つ病気と言ったら狂犬病くらいでしょうが、あれは400年ほど前にワクチンもありますし、他に似た症例というものが存在していません。近年でその可能性を作ったものといえば、やはりあの戦争でしょうか。」


「しかし戦争が始まって数年後には放射性物質の遮断壁が出来ていましたよね?それでもダメなものなのでしょうか?」


「確かにあの電磁壁でほぼ100%カットできてはいるでしょう。しかし、例えば壁が出来る前の数年で各国で起きた核爆発の相互作用などで放射性物質がなんらかの突然変異を起こし、それが何らかの形で我が国に入ってきた可能性なども考えられます。現段階で原因を特定するのはかなり難しいと言えるでしょう。」


「では本田さん。これワクチンなどは開発することできるのでしょうか?」


「恐らくですが出来ないことはないでしょう。しかし余りにも原因不明な物質の可能性の為研究を始めてどれほどでワクチンを作れるかもわかりません。もしかしたら核戦争の影響で人間の体そのものに何かしらの異常が起きている可能性も無いとは言い切れません。」


「そうですか。ではやはり現在は研究が進むまで進行を食い止めることが最も重要な訳ですね。」


「はい、その通りです。感染が接触感染などであればある程度の対策で掛かる人は激減するはずです、われわれの研究がどれだけ早く完成するか。それにかかっていますから、我々研究者一同全力で臨みます。」


力強く自分にも誓うように言った専門家はそこで頭を下げる。


「はぁ、、。」


分かっていたこととはいえやはり望みが無いことに対して古場はため息をつく。


「やっぱり駄目だったみたいだな。」


金田の声がして古場は横を見る。


「今起きたんですか?」


金田はくあっと大きく口を開けてあくびをしながら頷く。


「お前のため息が聞こえたところでニュースの内容は聞くまでもないってことだ。」


金田が起床して10分もすると家を出る準備が整っていた。


「電波は?」


古場は首を横に振る。


ポケットにしまうと同時に携帯の電源を切った。


携帯電話は電波が無いと驚くほど電池の消耗が激しい事を古場は知っていた。


「電波がないこの状況でこれから役に立つとは思えないけどなぁ、、。」


そう呟きながらも念のためと自分自身を納得させた。


金田が自室のドアを開ける時腰から何かを抜きだした。


「ん?金田さんそれ、、」


金田が手にしていたのは古ぼけたリボルバー拳銃だった。


猟銃に分類される散弾銃やライフル銃は威力は非常に大きく有効射程距離もモノによっては50mを優に超えるものまである。しかし銃というのは基本的に対1人から3人程度までしか有効に扱うことはできない。挙句装弾数は基本的に2-3発。銃弾を入れ替えてる暇があったら逃げる方がよっぽど長生きする。


それを金田は分かっており、昔「仕事場」からくすねたものがあったらしい。


「弾も大量にあるわけじゃないがそこそこある。」


そういって黒いウエストポーチを開けて見せる。じゃらじゃらと音を立てて金色の実包は互いを擦りあう。


「これなんですかこの丸っぽいやつ。」


古場が指さしたのは弾の中に弾が6個円上に連なる筒のようなものだった。


「ああこれな。スピードローダーっつってな?この旧式のリボルバーだとリロードするとき弾をシリンダーに一発ずつ入れなきゃならなくてな。まぁ今はみんなオートマだろ?リロードが追い付かねんだわ。」


「別に盗むことを肯定するつもりはないですけど盗むならどうしてわざわざめんどくさい方のリボルバー盗んだんです?」


「今時の銃って盗むのが滅茶苦茶難しいんだよ。例えば小隊とかなら隊長に武器管理を徹底される。薬莢一つなくしたら山狩りみたいなレベル。昔の俺の仕事場はそんな正規のまともなところじゃなくて適当な感じだったからな。護身てことでパクったわけ。弾も10発くらいずつこっそりな。」


護身で銃を持つのはまた危険な発想だと古場は思ったが金田程になると命の危険が近くにあるのだろうかと疑問を抱かせるきっかけでもあった。


「あれ、てことは俺って滅茶苦茶危ない日々を送ってたんじゃ、、、。」


「そうだな。一歩間違えればアパートごと燃やされてたかもしれないな。」


「勘弁してくださいよ。金田さんの持ってる弾とか爆発するんじゃないですか?」


「、、、、。隣なら何発か入るかもな、、。」


「おいおい、、。」


そんないつも通りの会話の後二人は外へと出た。


外は不気味なまでに静まり返っている。


「どうなってるんです?正直なところもう少し感染した人がうろうろしてるかもと思ったんですけど、、。」


とは古場は言ったが道路のあちこちに血が飛び散ったりこびりついているように見える。


「ニュースを昨日の段階で見て既に家から出ないよう努めてるお陰で感染者自体がこの地域に少ないか感染はしたが何らかの理由でいないのか、、。」


ここ日々波は人がかなり少ない。世界大戦で世界中の人が死に、日本人も多く巻き込まれた。


もともと人口が少ないのも相まって過疎地域になっており隣の町と合併するかという話も先月に出ていた。


「ただ、この血の量を見ると前者の可能性は低いような気もするが、、。」


そう言ったところで金田は立ち止まる。


古場は金田の背中にぶつかりそうになり慌てて足を止めた。


「どうしたんで、、。」


古場はそう言いかけて目の前の光景に息を呑んだ。


20mほど先に赤い塊が見える。


6人ほどの死体であろうか、体から血を多量に流し倒れている。再びきつい臭いが古場には感じられた。


争ったような形跡も見られたがそんなのを古場は気にするほどの余裕もなくただ立ち尽くしていた。


「、、なんか変だな。」


金田は死体を見て呟く。


「な、何がです?」


古場は何とか声を絞り出した。


「よく見ろ。なんで全員同じ方向に同じようにうつ伏せで倒れてんだよ。」


古場は金田の言ったことを確かめるように再び死体の山へと目を向ける。


確かに血が道路から壁まで飛び散りお互いを傷付けあったような様子はあったが全員が全員道路の向きから少し斜めに向かって倒れこんでいる。


悲惨さもあって古場にはまるでカルト宗教の恐怖にも似た不気味さを感じた。


「行くぞ。」


金田は死体の間を躊躇なく歩いていく。


古場は死体を見ないようにし、鼻をつまみながら泣きそうな思いで金田の後をついていく。


「これぐらいで参っていると来週あたりには発狂して泡吹いてるかもな。」


通り過ぎた後で金田は背中を古場に向けたまま言った。


「毎週まで持つんだろうか、、、、。」


古場は小さく、ため息をついた。

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