第2話「二つの事件。」
翌日、講義のない古場はアルバイトへと出掛けた。
「金も必要だけど、休みも必要だよなぁ、、。」
コンビニへ裏口から入り、ロッカーにある制服シャツを着ると、店長がいた。
「あ、古場君か。今日は君しかいないけど、搬入があるからしっかり頼むよ。」
「、、。はい。分かりました。」
古場は内心舌打ちをしたくなったが、ニッコリと笑った。
品物の在庫を確認したり補充等を一通り終えて、古場はレジの裏の管理室で監視カメラの映像を見ながら炭酸を喉に流し込む。
「今は、、11時か。外はサウナだろうな、、。」
彼がケータイを取り出してゲームをやっていると、頻繁に通信障害が起こった。
「あれ?ここ電波の入りが悪かったことないのにな。」
そう呟いたときコンビニのドアが開いたときの音楽が流れた。カメラをふと確認すると身長の高い男が入ってきていた。
そこで古場はふと昨日の山中の言葉を思い出した。
「まさかね、、。」
彼は首を振って立ち上がりレジの方へ出ていった。
「いらっしゃいませー」
その男はフラフラとした足取りでドリンクコーナーへ歩いていく。熱中症にでもなったのか、と古場は不思議に思ったがその数秒後。
長身の男は低いうめき声をあげてガラスをひっかき始めた
「え、な、何?何やってんだよ、、?」
職業上色々な客を見てきた古場だったが水を欲しがってガラスをひっかくなんて客は初めてだった。
収まるかどうかを見ていたが止めそうにないので古場は渋々その男に寄って行った。
「あの、お客さん?どうかなさいましたか?ちょおとそのようなことをされますと、、。」
その時その男が古場をゆっくりと見下ろした。
「ひっ、、、!!」
男を見た瞬間古場は金縛りにかかったかのような感覚に襲われた。
鼻をツンとつく腐った卵のような臭い、そしてなによりその男の目や口から血が流れている。服は何日も洗っていないように汚れている。
「・・・・・」
何も言うことはなく靴を履いていない血だらけの足を古場へ向けた。
「ぁ、、!」
喉が渇いて声が出ない。古場の頭の中では大音量で警報が流れる。しかし、何も頭が回らない。動かなった足はがくがくと震え始め言うことを聞こうとしない。
と、その時。ガラスの割れる音が店内に響いた。
「⁉」
その音に驚いてレジの方を見ると花瓶が棚から落ちてしまっていた。
すると男は古場へ向けていた足をその方向へ向け、大きな体を引きずるようにして歩いていく。
そこでようやく古場は、はっとして後ずさりした。
「(何が起こってるのかさっぱりだけど、なんかこの人やべぇ!!!)」
あちらに気を取られているうちに古場は一気にレジ裏に行きロッカールームで荷物を回収し逃げだした。
「はぁっ、、はぁっ、、!なんだよあいつ!マジで昨日のあれか!?」
コンビニが見えなくなったところで古場は足を止め振り返る。
「、、大丈夫か、、。いや、大丈夫ではないな。一体あいつは何なんだ?目と口から血が流れてるし、焦げたような、腐ったような臭いもするし、、、。警察に連絡した方がいいよな、、。」
と呟いて携帯を取り出した。
「くそ、、よりによってなんでこんな日に電波が入らないんだよ、、。」
直接行くにしては交番は遠いし、警察署も無かった為とりあえず古場は山中の家へと足を運んだ。
「おう、亮。どうした?まぁ入れや。」
両親が出張中の彼の家は酷く閑散としていたが今の古場にとってはそれが寧ろ心地よかった。
麦茶を飲み何故か映像が乱れがちなテレビを見ながら古場は事の顛末を話した。
「まじで?じゃあ本当に血塗れだったていうのかよ!」
話を聞いた後の山中は声を上げた。
「え、警察とかに連絡した方がいいんじゃねぇの?」
「だから電波が入ったらそうするって。なんか今日は携帯が繋がりにくいんだよ。コンビニから逃げた後からはずっと圏外だし。一体どうなってんだよ、、。」
面白半分で聞いていた昨日の話もまさか現実になるなどとは全く思っていなかった古場は頭を抱える。
「お前もあの顔と臭い、見たら体が凍るぞ。そして忘れられないだろうな。」
頭に浮かぶ男の顔を古場は振り払う。
「そう聞くと見たくないな、、、。こういう話は聞くだけなら面白いんだけど、巻き込まれるのだけはゴンだよな、、。あ、すまん。」
古場の顔を見て山中はそう言った。
「いやいいさ、別に会っちまったものはしょうがないし、この後どうするか。あのコンビニには行きたくないな。多分だけど血が飛び散ってそうだな。」
山中がひきつった顔をしたところで古場は昼のニュースを見始めた。
「えー、本日11時30分ごろ、茨城県の日比波市の駅付近で人が燃えているという通報があり警察と救急が駆け付けましたがその人は死亡した模様です。中継の稲葉さん?」
古場はそのニュースをため息をついて眺め、山中もまた細い目で画面を見ている。
「はい、こちら稲葉です。えー現場は警察が封鎖しており状況は詳しくは分かりません。連日のように起きている事件と何らかの関係性があるのではないかとだけ警察が発表しています。」
連日の事件。古場は静かに首を振る。
7月20日。東京の渋谷で人が燃えていると通報があったのが事の発端だった。殺人にしては回りくどく、自殺にしても手間なだけ。日本中が不思議そうにテレビをのぞき込む中で3日後に同様の事件が鳥取市で発生。あまりにも特異的な状況で警察や専門家が頭を捻ってはいるがそれらしい答えは今のところ出ていない。
「これで三件目、しかもうちの学校の近くじゃないか、、。うんざりだよな。長身の血塗れ男に人体発火事件。この日本もとうとうおかしくなったかね?」
山中はやれやれといった様子で立ち上がり新しく麦茶を入れてきた。
「戦後20年たった今でも空は薄暗く灰色、汚染物質が少ないとはいえ世界中にある。自分たちの面子や世界の覇権とかいうくだらないものの為に帰ってこないものを無くした人類だぞ?今更日本がどうだとか言えるほど皆まともじゃないさ。」
古場は首を振ってテレビを見ていたが
「て、あれ?」
と声を上げる。
「ん?どうした亮?」
「いや、俺の携帯はまだ電波入ってない。お前は?」
山中は自分の携帯を見て首を振る。
「その通報した人って電波入ってたってことだよな?同じ町でかなり近い距離なのになんでその人は電波拾えたんだ?」
そう聞いた山中は
「んー。分からんけど他のキャリア使ってるんだろ?俺とお前の携帯のキャリア一緒だし、たまたまだろ。」
とそれらしい答えを言った。
「、、、。ま、それもそうか。」
そう言って古場は立ち上がる。
「帰るのか?」
「ああ、帰って風呂にでも入って一度寝る。なんかこの数時間で疲れた。」
山中の家を後にした古場は時計を見る。
「2時、、。一番暑い時間じゃねぇか、、、。」
既に出た汗をぬぐい帰路についた。
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