蛍火を弾丸と共に撃て

藍谷紬

「異変と偽善者。」

第1話「盲目の日常」

「普通」に暮らしている人は「幸せ」を望む。「幸せ」な人は更なる「幸せ」を望む。しかし、現在「不幸」である人は何を望むのであろうか、そう、「普通」である。何をもって「幸せ」とするかは人に委ねられる。金を持ち豪邸に住むことを「幸せ」とする人間もいれば、親に愛されるだけで「幸せ」と感じる者もいる。自分たちがどのような境遇にあり、どうしたいのかはその時、その当人になってみないと分からない。。


_______2410年、人類は火星に進出及び広い範囲での一般人の居住をも可能にしていた。民間のロケット会社が小型のロケットを開発したお陰で一般の間にも広がり、申請をし、認可されれば幼児や80歳を越える老人以外は自由に行き来することが可能になった。科学の発達によって人類は誇りを感じ、喜んでいた。しかし、そのちょうど10年後、2420年。復活したアルバニア人共和国を名乗るロシア人の新興宗教団体が力を持ち、武力をもってアメリカの大統領を襲撃、及び殺害。アメリカはこれを東側の攻撃と認識。臨時大統領は宣戦布告をし、第三次世界大戦が勃発した。核攻撃の繰り返しが行われ両国と同盟国は疲弊したが唯一放射能の対策を取った日本だけは大損害を免れ、それを敢行出来た八重樫宗次郎総理大臣は一躍英雄として現在2450年でも活躍している。。。。。。


 8月4日。うだるような暑さに古場亮は部屋の中でかけていた布団を蹴り飛ばした。

「くそ、、何でよりにもよって猛暑日に登校しなければならんのだ。」

イライラした口調で呟きながらゆらりと立ち上がり、特別講義の準備をする。

「大学1,2年でサボりまくったツケとはいっても酷いなこりゃ。」

ため息をついて古場はアパートを出た。

歩いて15分、そこに彼の通う日比波大学はあった。自動販売機でアクエリを買って勢いよく飲みながら歩いていた。しかし、急に校門から飛び出した影にぶつかった。

「キャッ」

少し甲高い声が響いたかと思うと眼鏡をかけたポニーテールの女が尻もちをついた。

「あ!すみません。大丈夫ですか?」

焦って女が落としてばら撒いてしまった紙の束を集めた。

「(この人、薬学科の人か?、多分一年生か。最近うちの学校の理系気合入ってるって悠介の奴が言ってたな。こんなわけ分からん文字列と睨めっこできるなんてすごいなぁ、、。)」

古場は集めた紙束を渡した。

「これで大丈夫ですか?」

「あ、はい。すいません、ありがとうございます。。」

視線を合わせようとはせず受け取ってそそくさと去ってしまった。

「俺ってそんな怖いのか?一年生は皆あんな感じなのか?大抵の一年の女の子は毎回あんな反応だし。はぁ。」

と、そこへ。

「お、やっぱ亮か。あの女の子にナンパでもしてたのか?怖がられてやんのな。」

へらへら笑いながら古場にそう言ったのは山中悠介。彼もまた特別講義を受けるべく猛暑の中ここへ足を運んだという訳だ。

「違ぇよ。アクエリがぶ飲みしてたら気づかなくてぶつかったんだよ。怖がれたことは否定できないが。」

そういって古場は涼しい教室へ向かって足を運んだ。


「なぁ、亮?昨日のテレビ見たか?」

講義中に山中が隣の古場の肩をつつく。

「テレビ?昨日はお前の好きな通販番組はやってなかっただろ。」

「違う違う。夕方のニュースだよ。うちの学校の近くで不審者が出たってやつ。」

「不審者なんて今の日本には腐るほどいるだろ。それがどうした?」

「あのな、その不審者ってのが血塗れだったらしいんだよ。身長も190㎝くらいあったらしくて不気味だったとか。」

「血塗れだって?しかも190㎝って、、。外人の殺人犯か?」

「さぁ?そこまでは分からないとは言ってたけど、行方が分かって無いらしいから今もその辺りに潜んでて明日にでもお前や俺が会うかもしれないぞ?」

そういって山中はニヤニヤした。

「(不審者はよく聞くけどそこまで変な奴がいるのも不思議な話だな、、)」

そうこうしてるうちに講義は終わったが、そんな話をしていたおかげで彼らは内容を一つも把握せず帰宅することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る