第3話「冷たい再起動。」
アパートへ戻った古場はちょうど出てきた隣の部屋の人物に出会った。
「あ、金田さん。どうも。」
「やぁ、亮君。元気かい?」
金田太一。古場は数年前から彼と仲良くしていた。10歳も年上であったが気を遣うということもなく相談事もよくしていた。
「今日は暑いですよ。この調子じゃ山の動物を狩る前に金田さんがやられますよ?」
笑って古場はそう金田に言う。
「いや、今日は罠を仕掛けにも撃ちに行くわけでもない。ちょっと買い置きしようと思ってね。」
「買い置きですか?」
金田は昔から狩猟をやっていていつも狩猟に持っていく鞄を持っていたため古場に間違われたのだった。
「ああ、今年の夏は暑いし、水はすぐに無くなるだろ?それになんだか夜にお腹が減ることが多くてすぐ食べちゃうんだよ。頻繁に外にも出たくないしね。」
「仕事来たら出なきゃいけないんだからその時じゃダメなんすか?」
古場はこうは言うが金田の仕事が何なのかは知らない。不定期に夜中に出ていくこともあれば何週間も家に閉じこもりっぱなしなこともある。古場自身気にはなっていたがそんな不思議な仕事の事を詮索するのは何だか悪いような気がして聞こうとしなかった。
「まぁ、こんな時期だしね。あんまり仕事は来ないよ。それに仕事帰りで何かを買うのはめんどくさいじゃん?疲労困憊で荷物を持つのはしんどいって。」
笑ってそう言うと金田はリュックサックを背負いなおしてコンビニの方へ向かった。
「あ、ちょっと待って。金田さん。」
「なんだ?」
古場は金田を引き留め一度自分の部屋へ来るよう促した。金田は渋々といった様子で古場に従った。
そこでさっき起きた事柄を話すと
「それまじか?」
とかなり真剣な表情に変わり古場の話に食いついた。
「なるほどな。じゃああのコンビニは危ないかもしれないな、、、。って待て。お前しかシフトいなかったのにすっぽかしたんだよな?」
そう言われて古場は初めて気づいた。つまり今はコンビニはもぬけの殻。強盗もただの泥棒へと早変わりしてしまう。
「やば。店長に殺されるどころかただ働きで何年働かされることか、、。」
と古場は青い顔をする。
「ま、行ってみようや。」
金田はさらっとそういった。
「マジで行くんですか?あの大男がいたら殺されますよ?」
「居たら引き返して警察にもう一度連絡すればいいだろう。あのコンビニが使えないということは俺の死を意味するんだよ。」
「はぁ、、、、。仕方がないか、、。」
今度は古場が渋々金田に従った。
午後2時30分。まだ気温は高く古場は体が溶ける思いだったがコンビニの裏口に入ると幾分安らいだ。
さきに金田が様子を伺う。
「どうです?」
狩猟で身に付けたのであろう慎重な足取りを取る金田に古場はささやくように言葉をかける。
「・・・・誰もいないみたいだな、、、、。」
そういって中腰の姿勢を止め背筋を伸ばす。
「あ、おい亮。この血の跡。外へ行ったんじゃないか?」
そう言われて古場も入口へ目を向けると確かに二回血を引きずった跡があった。一度は入店時。もう一つは出て行ったときだろう。
「はぁ、、。良かった。でも店番はしたくないな。」
「その気持ちはわかるが、、。そうもいかんだろう。シフトが終わるではいてやるよ。」
少しばかり金田は格好良く決めて見せた。
「とか言って、本当は電気代もったいないから可能な限りここで涼むつもりでしょあんた、、。」
やれやれと古場はため息をついた。
シフト終了の午後5時まで何事もなく、帰り支度をしていた時。
「なぁ、亮君。余り物の弁当貰っていい?」
と金田は裏においてある期限切れ間近の弁当を見た。
「全く、、。まぁいいですよ。万引きするよりはましですし。」
「なっ!貴様俺が万引きをすると思っていたのか?」
「ええ。俺しかいないしどさくさ紛れでやりそうだとは思ってましたが俺にそう聞くってことはそれはやってないってことでしょう。」
そんなやり取りを終えてすっかり涼しくなったアパートへの帰り道。
「講義は明後日で最後か。めんどくさいな、、。」
それを聞いた金田は笑う。
「はは、学生なんて楽だぞ?社会人はもっと大変だ。戦後かなり経ったとはいえ人手は全く足りて煮ないから昔よかよっぽどしんどいぞ?」
「金田さんの仕事は知りませんけど社会人なんですかねぇ、、、。」
「そうだぞ、どんな仕事でも今は食っていくのが大変な時代だ。ロシアやアメリカみたいに格が直撃してないからまだマシなのかもしれないが。この社会もどこまで持つか。明日には社会システムが崩壊しているかもしれないんだぞ?」
「金田さんて時々まともなこと言いますよね。」
古場はぼそりと言った。
「時々は余計だ、って。あれ?」
急に金田が足を止めて10mほど先の電柱を見つめた。
「ん?どうかしたんですか?金田さん」
一度金田を振り返ってから古場も電柱を見た。
電柱のところに人影が見える。後ろを向いていたが何やら様子がおかしい。
「あれ。何だろうこの感覚。」
その人影は小さかったが古場は既視感を覚えた。
「あれはなんだ?」
金田はただ不思議そうに見つめている。そして再び歩き出そうとした金田に古場は声をかける。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
金田は古場を振り返る。
その様子がおかしいことに気づいた金田は再びその影を見つめる。
「背は低め、髪は長め、それになにか変な動きだな。」
人影は大きな動作こそ無かったが電柱に向かって立って全く動かないのは金田にも不気味に感じさせた。
その時ゆっくりと金田と古場の方へ体を向けた。
「お、おい、おい、、。」
金田はその振り返った「女」を見て声を出す。距離は遠いが古場にコンビニでの出来事を思い出させるには十分な様子だった。
「あの、顔は、、。」
その女の顔からは血が流れている。そして足を引きずるようにこちらに向かい始めた。
「なんかやばいな、おい亮。ゆっくり逃げるぞ。」
金田は亮の腕をつかみ女から目を離さぬようにゆっくりと後退していく。
「・・・・・・」
女は言葉を発することはなくただ黙ってこちらに近づいてくる。
「行くぞ。」
金田は速足でその場から亮を連れて行こうとする。
「うぅ、、。」
うめき声が響いた直後。
女は歩く速度を速めてきたのだ。ゆっくりではあるが確実に近づいてくる。
「亮、走るぞ。」
静かにそう言うと金田は走り出し、古場もそれに続いた。
15分ほどかけて回り道をしてアパートへと戻ってきた。
「はぁ、、はぁ、、。金田さん、あいつは、、多分」
「ああ。お前が見た男と似たようなものかもしれないな。」
古場の言葉をさえぎってそう言った。
「とりあえずうちに行こう。今日はこっちに来い。」
そういって金田は階段を上っていった。下を向いて息を切らしていた亮もあわててついていく。
「お前は先にシャワー浴びてこい。」
金田の雰囲気の変化を感じ取った亮は何も茶化さず黙ってその通りにした。
狭い風呂の中でシャワーを浴びながら古場は深呼吸をする。
「一体どうなってんだよ、、、。」
その頃、金田は携帯電話を見て舌打ちをしていた。
「やっぱり回線はまだ駄目か、、。いや「もう」駄目か、、、。」
紙とペンを取り出した金田はあることを箇条書きで書き出していく。古場がシャワーから出ると同時に金田はペンを置いた。
「金田さん、どうぞ。」
とだけ言って金田を促す。
金田が風呂に入ったことを確認してから紙を見た。
「これは、、、。」
『・顔から血が出ている
・足を引きずる
・声はうめき声ほど
・挙動不審
・聴覚は敏感、逆に視覚は低下している模様
・嗅覚は不明 』
「これは、あの「人」の特徴か。」
古場には正直人と呼ぶのもどうかとは思ったが他に適当な呼び方が思いつかずとりあえず人とした。
5分程で金田が風呂場から出てきた。
「さて、テレビをつけようか。」
急に金田はそう言ってリモコンをもってニュースを付けた。
「こんなニュースを頻繁に見たのは人生で初めてかもしれませんよ。」
笑って古場は言う。
「本日、全国各地で新型の病気が発生しているようです。」
ニュースキャスターは焦った様子でそう言う。キャスターの後ろでは色々な人が騒いで走り回っているようだった。
「金田さん、、まさかこれって、、?」
古場は金田に顔を向けるがテレビを見るよう顎をしゃくられる。
「感染経路は不明。感染した人は攻撃性を持つようです。非常に危険ですので感染した様子の人に近くから速やかに離れてください。新しい情報が出るまで決して安易な行動は避けてください。」
古場は唖然としてニュースを見る。
「これ、は、、。」
「俺のふざけて言った予言は当たっちまったみたいだな。」
「予言、、、?」
『明日には社会システムが崩壊しているかもしれない』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます