第12話
神社を後にした僕は鬼を呼び出した者達の末裔、母のもとへ向かう。
神社は京都にあったので、ここ何日間かは京都に滞在していた。
次の目的地は群馬なので、このまま向かうにしても新幹線でかなり時間がかかる。
電車に揺られる中で今までのことを思い返してみた。
千春が死んだ(本当は生きているけれど)ことで判明した僕の一族の呪い。
小さな頃から14という数字に取りつかれるように、どんな時でも僕の周りにはその数字が存在していた。
まだこの数字が意味するところは分かっていないままだけど、それ以外のことは徐々に分かりつつあった。
宵継家の呪い、宵継玷、鬼、怨霊、明継家、またの名前を鬼継家、そして鬼継琉彩・・・
たった一人の男の過ちでその後何世代にも渡って僕ら一族は呪いに苦しまされている。
神社で読んで貰った鬼継琉彩の日記には、宵継玷を説得する為に彼の近しい者を消すと記してあった。きっと、鬼継琉彩は、宵継玷の身近な人間を殺すことで、彼を孤独にしていったのだろう。きっと、彼の愛する奥さんが死んだのも、娘である四継が百姓に渡されたのも、琉彩が裏で糸を引いて操っていたのだろう。
そう思うと僕は鬼継琉彩が憎くて仕方なかった。
だけど、僕が彼を憎んで、彼の末裔達を見つけ出し、一人ひとり殺したところで、また憎しみの連鎖が起き、僕たち一族は終わらない呪いを永遠に繰り返していくだけだ。きっとそれでは意味がない。
だから僕はこの憎しみを捨てる。
僕は誰も恨まないし、恨みたくもないのだ。
けれど、僕にはどうしても腑に落ちないことがある。
きっとこれは神社の神主さんではきっと分からないことだろうから、あえて聞くことはしなかった。しかし、きっとこのまま曖昧なままで居続けることは今の僕にはできないことなのだと思う。
(群馬に行ったら、きっとすべてが分かる。そしたら僕は、また、お母さんと一緒に暮らせるかもしれない・・・)
昔の記憶が鮮明に蘇る。
あの日、全てが始まった日。
僕が学校に行ってる間に、母は自殺した。
親戚から母が飛び降りたと聞かされ、駆け付けた時には母の遺体は棺の中で眠っていた。いや、正確には母の格好をした誰かだったのかもしれない。
あの時は何も不思議に思わなかったけれど、母が亡くなってから火葬をするまで、親族たちは僕に頑として母の顔を見せてはくれなかった。理由は、『飛び降りた時に顔から落ちたから、顔はもう見ることができないような状態になっている』だった。どんなに泣いて騒いでも結局母の顔をきちんと見ることがないまま、火葬をし、墓に眠らせた。
しかし、考えてみればどう考えてもおかしいことだらけだった。
なぜ息子である僕にすら顔を見せてくれなかったのか、なぜ、自殺と断定できたのか、なぜ、遠く離れた場所に住んでいると聞かされていた親族たちが、あの日あの場所にすぐ駆け付けられたのか・・・今になって思えば不自然なことだらけだ。
きっとこの時から親族たちは、僕の呪いに関わる何かを知っていたのだろう。
全ては仕組まれたことだった。
そう考えれば、全てのことがすんなりと僕の中に入ってきた。
群馬に行って、あの日の真実を確かめる為にも、僕はまだ、立ち向かわなければならない壁がいくつもあるようだ。
僕はノートを取り出して、お寺で出しそびれてしまったお札を取り出す。
真ん中に謎の模様と、宵という文字が書いてあるそれは、最初に神主さんがくれたものだ。
ただ、お寺でこのお札を供えて終わると思っていたことは様々な因果が絡み合い、簡単には解決できない問題だった。
けれど、きっとどこかで使い道があるだろうし、この家紋のような絵も気になるので、僕はこのお札を持ったままなのだ。
何度見ても全然理解できないこの絵は、僕の《宵継家》の家紋か、はたまた《鬼継家》が鬼を降臨させるために作った魔法陣のようなものなのか、それともそのどちらもなのか・・・
考えても答えは見つからない。
けれど、神主さんが言うには、宵継家の一族であればこの絵は必ず玄関に飾ってあるということ、そしてこの絵が飾られていない場所、もしくはこの絵に手が加えられている場合は鬼継家であることが多いということだった。
であれば、僕のこの手元にあるお札はきっと宵継家のものに違いはない。
あの神社も鬼継家に乗っ取られたわけではなく、きっとあの過去の事件の後に宵継の一族の誰かが守ってきたに違いない。
ちなみに、僕がどうしても気になっていた神社の名前である《明月》の由来を聞いてみると、”闇夜を明るく照らすのが月であるように、この社は人々の醜い部分を照らし続ける”という意味らしい。
更に、この名前になったのは宵継玷が鬼となり、怨霊という概念になり果てた後の話で、それより前のこの神社、つまり、神社が建てられた時の名前は《
つまり、この神社の裏にあった祠に居たはずの神様とは、きっとこの神様なのだろう。
それが何かのきっかけで力を失っていき、忘れ去られた存在になってしまったのだと思う。そして、この神様こそがきっと宵継玷を、宵継家を呪った神様に違いない。
今まで謎に包まれていた部分が、徐々に紐解かれていく。
僕はきっとこの呪いを断ち切ることができる。
そう不思議と感じたのだった。
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