第10話
お寺を後にした僕は、次の目的地へと急ぐ。
千春が生きてるなら早く会いに行ってあげないと。その思いだけだった。
けれど、本当に生きているのだろうか。
だって千春はあの時、息をしていなかった、だから僕は彼女が死んだと確信した。
でもそれが全て演技だったら??
彼女のおばあちゃんも、本当は千春が生きていることを知っていて、その上で僕に彼女が死んだと思い込ませていたのだとしたら?
もし、この仮定が正しかった場合、僕はこの呪いを解くために多くの人間に嘘をつかれていたことになる。
・・・頭がおかしくなりそうだ。
信用していた人に嘘をつかれ、ただひたすらに何十年もの間、呪いに苛まれて生きてきた。何度も死んでやろうとした。
しかし、なぜか僕の自殺は常に未遂で終わる。
そうなるように仕組まれていたのかと思うほどに・・・
怒りとも悲しみとも取れない、得も言われぬ感情を抱えたまま、僕は次なる目的地、明月神社へと向かう。
電車とバスに乗って神社の目の前まで来ると、どこか懐かしく感じた。
たった数日前に初めて訪れた場所のはずなのに、ずっと昔からここに住んでいたような、ふと泣きたくなる感覚に襲われる。
前回は、入口に足を踏み入れただけで襲ってきた猛烈な吐き気や激しい動悸も起きなかった。
一体自分の体に何が起こっているのだろう。
和尚さんは僕の体調が安定すればするほど、先代である宵継玷と同化してきているのだろうと言っていた。つまり、僕がこの神社に初めて来たあの時は、まだ先代の存在すら知らなかったが、過去の忌まわしい出来ことが起きたこの場所に先代の血が強く反応し、一種の拒絶反応を起こしたのだろう。
しかし、今回は僕が先代のことを認知し、先代の生まれ変わりであることを理解し、受け入れた上でここに立っているから、先代は人間だった頃の懐かしさを感じれているのだろう。
同化してきているからこそ、僕は楽に体を動かすことができる。
けれど、和尚さんには一つだけ厳しく忠告されていた。
それは、玷と完全に同化してしまった時はきっと、僕自身も呪いの一部となり、翔であって玷ではない今の自分から、玷そのものになってしまうだろうということ。そして、そうなってしまったら後は彼と同じ末路を辿ることになるそれだけということ。それだけは絶対に避けなければならないのだ。
自分の意志をしっかりと保つことは絶対に怠ってはいけないと、何度も注意されたのを思い出しながら、神社の中へ足を踏み入れる。
境内を突き進み、賽銭箱の前までやって来た頃には僕の頬には勝手に涙が零れていた。袖で何度も拭っていると、後ろから懐かしい声が聞こえた。
「もしや、宵継さんではありませんか?」
振り返ると、以前ここに来た時に助けてくれた神主のおじさんだった。
「ご無沙汰しております。」
僕は止まらない涙を拭いながら挨拶をすると、神主さんはとりあえず神様の側でお話をしましょうと言って、社の中に入れてくれた。
少し落ち着くのを待ってから、僕は改めて挨拶をし、神主さんに僕が宵継寺で見て・聞いてきたことを話した。
そして、鞄から木箱を取り出し、神主さんの前で開けた。
相変わらず何の素材で出来ているのかは分からない石。
「これは・・・?」
「これは、本来の場所から奪われたものです。
これを奪ったが為に、僕の一族は呪われたのです。」
「え?でも、先代が呪いだと先ほど言いませんでしたか?」
「言いました。」
「なら、これは関係ないのでは?」
「関係あるんです。」
僕の推理はこうだ。
僕の一族が神社を始めた後、この神社に神が存在していない期間があった。
しかし、それを憂いた一族の誰かが、神の所有物である≪勾玉≫を奪ってきたのではないかということ。
そして、この勾玉があった場所は、この神社の社の後ろ側にある、小さな祠から取り出されたものなのではないかと。
もし、この仮定が正しいとしたら、僕の一族は、自分たちの一族繁栄のためだけに神様の所有物を奪ったのだから、その神様は依り代をなくし、帰る祠も無くなったことで堕ちてしまい、結論として僕の一族を呪っているのではないかということ。
そして、この依り代泥棒の犯人こそが、14のつく名前か、年齢だった為にそのあとの全ての4のつく代で悲劇が繰り返されることとなったのではないか。
これが僕の推理だった。
けれど、どこかで確信を持っていた僕は、神主の顔色が明らかに変わっているのをみて、本当のことなのだと悟った。
「宵継さん。なぜわかったのですか・・・・」
「僕は、この石に触れた時、先代の宵継玷の記憶を見て、実際に体験してきました。それはとても怖かったです。
だけど、そこで一つだけ不思議な場面があったのです。
娘が攫われる数日前、先代は誰かと喧嘩をしていました。
その誰かはわからなかったのですが、その時に先代の首に勾玉がかかっていたのです。でも、場面が変わって殺戮の場所となると、その勾玉はかかっておらず、代わりに先代の胸元に石が埋まっていました。多分、これが勾玉が姿を変えた時なのだと思います。だから、この勾玉はきっとこの神社の側にあったものなのだろうと思いました。だからここに入る前に裏からこの神社を見てきたのです。すると、この社の後ろに隠すようにして小さな古い祠があることに気づきました。だから、僕はきっとこれはそこにあったものだと確信したのです。」
僕は自分の推理を一通り話すと、神主さんに真偽を確かめた。
「たしかに・・・勾玉を盗んだのは一族のものに間違いありません。
ですが、それは宵継の一族の血だけを引き継ぎ、名前も変えた異端の一族の物がやりました・・・」
「異端・・・?」
「はい。・・・鬼を崇拝していたのです。」
「鬼・・・」
「鬼は人を食らいます。彼らは自分たちにとって邪魔となる者たちを消すために、鬼を崇拝し、鬼の力を借りていたのです。」
「名前は・・・?」
「明継家、別の名を鬼継家」
僕は言葉を失った。
明継は母の苗字だ。
つまり、母の祖先が事の発端を作ったということになる。
母は四継の子孫のはずなのに、なぜなのか。
頭が混乱する中、神主さんは僕の推理に少し訂正があるからといって、説明をするために倉に文献を取りにいった。
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