第6話

 お坊さんの後を追っていくと、先ほどまで僕が廊下をウロウロしていた一番大きな建物ではなく、その後ろにひっそりと建っている小さな四角い建物の方へ向かった。

 「あの、すいません。本堂はあっちですよね?」

落ち着きを取り戻し、お坊さんに尋ねる。

 「はい。あちらが本堂でございます。

ですが、あなた様がご用があるのはこちらの“宵堂”ではございませんか?」

お坊さんは全てを分かっているような口調で続けた。

 「宵堂はこのお寺に眠っておられる‘神でも仏でもないお方’がおられるところです。あなた様はご存知かと思いますが、この建物ははるか昔、ある神社の神主が一族の者を殺め、血肉を食し、鬼にもなれず、ただ呪いだけを残し亡くなった彼を静かに眠らせておく為に建立されました。」

宵堂の前につくと「どうぞ」と促され、建物の真ん中の座布団に座るように言われた。そして、お坊さんは話を続ける。

 「このお寺は彼がやってくる前から、此処にありました。ですが、この山奥ゆえに、人もあまり訪れません。そんなある日、隣の京都から参ったという者が、 《神のお傍に置けないほど禍々しい存在を、この寺で祀ってくれないか。》と申してきたのです。しかし、ここは寺であって仏様を祀っております。ゆえに、当時の住職は断ったそうです。ですが、使者の方も引かず、《それならば祀れとは言わないが、輪廻転生の輪から外れ、神をも殺してしまいそうな彼を京都で埋葬しておくわけにはいかない。どんな形でも構わないから、引き取ってくれ。》とせがんできたそうです。そこまで言われてしまっては住職も断ることはできず、彼を祀ることは出来ないが、彼の墓を作り、輪廻転生の輪に戻れるようにお祈り致しましょう、ということになりました。そして現在私たちが居るこの建物ができたのです。」

住職がざっと語ってくれた話は、想像以上だった。

 また、神社で聞いた話と若干のずれがあるのは、現神主が直系の者ではないことや、古い話なので、言葉伝えにしているうちに話が紆余曲折してしまったのではないか、ということだった。

僕は一通り話終えた住職に、疑問をぶつけた。

 「あの、じゃあ、さっき僕に言った“ここは危険”といったあの場所はなんだったんですか?ここに彼が眠っているならあれはなんですか?それにあの木の看板の字はなんて読むんですか?」

すると住職は少し間を置いて、また話始めた。

 「先ほどのあれは、彼の…《よいつぐ かける》の人ではない部分入っていると聞いております。私も含めこの目で見た者はおりませんし、見たのはこの箱を作るときにこの寺の住職だった私の先祖のみです。お札は毎年張り替えておりますが、決して蓋を開けてはならず、と言われてきました。」

「始め、彼は心臓の部分が空の状態の無残な姿で運ばれてきたそうです。しかし、彼をそのまま埋葬するのは可哀そうと思った住職は、綺麗な布で体を拭き、白い着物を着せ、死者としてきちんと弔ってやろうとしました。ですが、人間には決してあるはずのないものが彼にはあり、更にそれは生きているかのように脈打っていたそうです。これでは彼を人として輪廻転生の輪に戻してやれない、と感じた住職はこれを切りました。すると、死んでいるはずの彼が大きく、長い叫び声を上げ本当の意味で息絶えたらしいのです。住職はこれが彼の遺体と共に埋葬されてしまっては、きっとまた彼は禍々しい者になり、恨みや呪いを重ねてしまうだろうと考え、厳重な石の箱を造り、その中に入れ、封印をしたそうです。」

ここまで一気に話し、住職はお茶をお持ちします。と告げ宵堂を出て行った。

 僕はこの話が信じられなかった。

呪われているということでさえも半信半疑だったのに、ついには4代目は人では持たない何かを持っていたとまで言われ、さらには字は違えど僕と同じ名前だったという子に、僕は混乱していくばかりだった。

一人座布団の上で正座を崩すことなく、頭の中で必死に考えを巡らせていると、いつの間にか住職が戻ってきており、僕に温かいお茶をくれた。

夏なのに、先ほどまでの茹だるような暑さはなく、この建物は涼しすぎる場所だったので、温かいお茶はちょうど良かった。

一気に飲み干し、一呼吸を置いてから、住職に聞いてみる。

 「それで、あの、人にはないものって何だったんですか?」

住職は少し躊躇った後に答えた。

 「…角です。それも額に14本の角が生えていたと伝えられています。」

僕は耳を疑った。

角ということでも驚いたけれど、何より驚いたのは14という数字だった。

ここでもまたこの数字が現れた。

やはり、僕の、いや、僕の一族は14という数字に取り憑かれている。

「あの、、、なぜ14なのですか?」

「なぜと申されますと?」

住職は不思議な顔で聞き返してきた。

ということは住職でさえも、この数字に取り憑かれている理由や、原因は分からないということだ。

僕は今までの経緯や、千春が亡くなったこと、千春のおばあちゃんに言われたこと、神主さんにいわれたことを伝えた。

住職は口を挟んだりもせず、ただ僕の話に耳を傾けてくれた。

そして、一通りの話が終わると住職は

「宵継さん。あなたはきっと先祖の生まれ変わりに近い存在なのではないでしょうか?」

と突拍子もないことを言い出したのだ。

僕が4代目の生まれ変わりに近い存在??

突然そんな話をされても、信じる要素も何もないのだ。

それに、人ではない者になった彼が、輪廻転生の輪に戻れたのかということでさえ確かではないのだから、そのような状態で僕が生まれ変わりと言われたって「はいそうですか。」と簡単に納得など到底できない。

 「あの、和尚さん。」

 「はい。」

 「なぜ、僕が生まれ変わりなのですか?」

率直な疑問を投げつける。

 「私も直接、彼とお話をしたわけではございませんので、あくまで伝え聞いたことなのですが・・・」

と和尚さんは断りを入れてから、また話始めた。

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