第5話

 神社を後にし、神主さんから渡された地図をもとに目的地へと向かった。

しかし、場所は京都ではなかった。

 神主さんよると、一族の血肉を食べ、自分の心臓を抉り出して死んだ4代目を奉行所の者も怖がり、恐れたという。その為、たくさんの神が存在する京都で呪いと共に暴れられては大変ということで、彼の死体を奈良の山奥に埋めたそうだ。そして、お寺を建設して彼がこの後の時代で最悪を招かないように抑えることにしたという。ただ、僕の場合は直系であるということと、彼と同じ《宵》という名を持っていることが、僕の血に残る彼の呪いを呼び起こす原因の一つになっているのではないかということだった。

 4代目が亡くなった後、宵継家はひっそりと苗字を変え、「明継」と書いて“めいげつ”と読む苗字に変えたらしい。

 けれどここで疑問になるのは、なぜ母は明継という苗字なのに、僕にだけ4代目と同じ《宵》という苗字を残したのか、そして母がこの家系に生まれたというのを父は知っているのだろうかということだ。ちなみに余談にはなるが、父は婿入りをしてきた者なので、苗字は母方を名乗っていた。更に、僕は母から「お父さんは捕まっている時に心臓発作で死んだのよ」と聞かされていたので、僕は父が居ないことが当たり前だったし、未成年に手を出して捕まり、挙句の果てに死んだという情けない父の事など気にしたこともなかった。けれど今回のこの話を聞いてふと、父は知っていたのではないか、実は父はまだ生きているのではという思いが浮かび上がってきたのだった。

 僕は、4代目の墓参りと自分の呪いの解除をしながら、死んだと聞かされていた父の生死の真実も探ることにした。

 全ての話が終わった後、神主さんの好意でお昼ご飯をご馳走になり、神社を参拝をした後で、再度電車に揺られ、今度は奈良に向かうことにした。電車の中で神主さんから貰ったお札を改めて見てみると、僕では到底読めない字がびっしりと書いてあり、真ん中に謎の模様と「宵」という字が書いてあった。僕の名前にもある「宵」という文字は、神主さんによるとこの一族にとって何か意味のあるものらしい。やはり、母は何かを隠していたに違いない。そう強く感じた僕は、この呪いと共に僕に降りかかる災難の全てを終わらせる覚悟でお札を手帳に挟み、目的地へと向かうのだった。

 奈良の山奥にあるそのお寺は、驚くことに「宵継寺」といって僕と同じ名前が使われていた。山の上にあるこのお寺は目の前に長い階段があり、僕はお寺につく前に汗だくで、ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返す羽目になった。更に最悪なことに、お寺に近づくにつれて、自分の体を流れる血がドクドクと波打つので普段よりも疲れるのだった。上に到着する頃には、着ていたTシャツがビショビショになり、気持ち悪さしかないので、失礼かな?とは思ったものの、その場で着替えることにした。

 服を変えて多少はさっぱりとした所で、僕はひとつ深い深呼吸をし、再度、意を決してお寺の本堂へと向かった。


 本堂の中は薄暗く、落ち着いた、でもどこか厳かな雰囲気を醸し出していた。僕はきょろきょろと辺りを見渡しながら本堂の中を巡った。こんな山奥なだけあって誰もいないし、誰も来ないのだと思う。このお寺に来てから、住職すら見かけていないのだ。だけど、僕の目的を果たす為には住職と会って話をしなければ話は進まないだろう。僕は住職を探しながらお寺の周りをぐるぐるすることにした。お寺の周囲は木以外ほんとに何もなく、ここだけ別の時代に飛ばされたかのような感覚に陥る。どこかに居るはずの住職と、どこかにあるはずの先祖のお墓を探しながら、お寺の廊下を歩いていると、お寺の横、森の入り口とでも言うのだろうか、一か所だけ時間が止まったかのような、他の部分より明らかに暗く、重い雰囲気を醸し出している場所があった。

 僕は惹かれるようにそこへ向かう。近づくにつれて心臓の脈打つ速さが加速する。

どんどん、どんどん、そこへ近づく。

・・・・・・「え。」

目の前まで行き、その場所の正体が分かった時、僕の口から自然とその一言が漏れた。

 僕の予想していた通り、そこは先祖、つまり今回の呪いの発端である、4代目のお墓だった。ただ、どこから見ても普通ではない。普通、お墓といえば「○○家之墓」などどいう感じに彫ってあるものが一般的だと思う。もしくは、先祖が暴れないように祀られていると教えられていたので、きっと祠のようなものがあると思っていた。しかし、このお墓?は小さな石の箱ようなものに、僕が貰ったお札と同じと思われるお札で封をしているだけのものだった。そして横の方に木の板に《宵継玷の墓》と書かれ、立てらていた。はたしてこれをお墓と呼んでいいのだろうか?ほんとに先祖はここに祀られているのだろうか?僕は箱をじっと見つめながら、物思いに耽っていた。

 「もし、そこの方。こちらに用がおありですか?

  あまりそこに留まることはしない方がよろしいですよ」

突然、後ろから声をかけられ、飛び上がった。

おそるおそる振り向くと、僕の後ろにはいつの間にかお坊さんが立っていた。

 「あ、あの・・・」

僕は驚きと緊張のあまり言葉を失っていると、お坊さんは優しい声で

 「若い方。こちらの寺になにかご用がおありのようですね。

  ここは危険です。本堂へ参りましょう」

と言い、本堂へ歩き出した。

まだ何も伝えていないが、何かを感じとってもらえたようだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る