第4話
翌日、眠そうな顔をしたサラリーマン達と一緒に、朝早く電車揺られ、僕は、京都に向かっていた。本当は千春のお葬式やらに出席するべきなのかもしれないけれど、僕はこの呪いを解くことが、千春の死の弔いになると言い聞かせ、後ろ髪を引かれる思いでこの街を後にした。座席の端っこに座り、昨日メモした紙を広げる。
(まずは僕の先祖について知らなきゃ…)
僕は自分で言うのもおかしいけれど、呪いのことを除けばどこにでもいる普通の大学生のつもりだ。だから、自分の先祖についてなんて考えてこともないし、ましてや自分の先祖が武士で、その先祖が誰かに強く恨まれて(呪われて?)いるなんてことも考えたことは無かった。だから先祖について知って、呪われてしまった理由を解明しろと言われてもどうすればいいのか分からないと言うのが正直な話だ。
そこで僕が昨日の夜、寝る前に必死に考え出した結論は、千春のおばあちゃんから聞いた僕の先祖が住んでいたと言われる場所まで行って、そこに住んでる人、もしくは古いお寺か神社に行って話を聞いてみる、という方法だ。
どうやら僕の先祖が住んでいた家の跡には、今は神社が建っているらしい。ならばその神社に行けば、きっと家系図みたいなのが残っているはずだ。上手く行けばそこでお祓い(?)をすれば全部が一瞬で片付いて、僕は晴れて自由の身となって千春のお墓に会いに行ける。
その期待を胸に、僕は電車に揺られ続けた。
京都に着いた時には時間は既にお昼を過ぎていた。季節は夏、京都の夏は暑いとテレビで良く聞いていたけれど、本当に暑い。けれど、自分の住んでいる街と違って嫌な暑さではない。どこか気持ちの良い、懐かしい雰囲気がある暑さだ。
僕はポケットからスマホを取り出し、神社への行き方を調べておいた地図を開いた。駅からバスに乗って、バス停降りてすぐの場所にある神社なので、道に迷うこともない。僕はポケットにスマホをしまい、バスに乗り込んで、目的地へ向かった。
バスにゆられて少し経つと、目的地の神社の目の前に着いた。バスを降り、その神社の前まで行ってみると、さっきまで普通に一定の感覚で動いていたはずだった僕の心臓は、バクバクして胸が苦しくなっていった。あまりの苦しさに立っていられなくなり、その場にしゃがみこんでしまう。なんとか苦しさから解放されようと、短い呼吸を繰り返していると、うずくまった僕の目の前に誰かの足が見えた。僕は、あまりの苦しさに目の前にその『誰か』が来るまで人の気配にすら気づかなかったみたいだ。
すると、目の前の『誰か』は僕の肩に触れ、何か呪文?お経?のようなものを唱え始めた。そして、その呪文の最後に僕の肩をパンっと勢い良く叩くと、僕はさっきまでの苦しさが嘘のように呼吸が楽になった。
「っ……あ、ありがとうございます。」
一瞬の出来事で理解が追いつかないが、とりあえずお礼を言わなければと思い、急いでお礼を言った。
「いえ、この神社は結界に守れているので、きっとあなたの中にいる『それ』が結界のチカラに抗おうとして暴れたのでしょう。とりあえずは眠らせたので、数日は大丈夫ですよ。ただ……あまりあなたはここにいるべきではない方のようですね。宵継さん。」
「え…!?今、僕の名前を…」
「ええ、知ってますよ。何年も前からあなたのことは知っております。ようこそ…いえ、おかえりなさいとでも言うべきなのでしょうか」
その人は穏やかな口調ではあるけれど、全てを知っているという強い思いが読み取れる話し方をしていた。
「あ、あの!!僕はこの呪いを解きたいんです!なんでもいいので、何か知っていたら教えてください!!」
この人ならきっと何かを知っている。そう思った僕は、今までの経緯を全て飛ばして、僕が求めている呪いの解き方だけを聞くことにした。
「そのようですね。昨日、夢に初代の神主と名乗る者が現れ、宵継さんのことを話して行かれました。彼が来たら手助けをしてあげて欲しいと頼まれもしました。」
「じゃぁ、!!」
「いえ…申し上げにくいのですが、呪いの解き方は私にも分かりかねます。ただ、この家に伝わる文献や家系図をお見せすることと、この家に関わりの深いお寺の場所や、現在の呪いの根源が眠っている場所などをお伝えすることはできますので、どうか肩を落とさずに。」
さすがに、そんな簡単には終わらなかった。
肩を落とすなと言われても無理な話だ。
僕はガクッと肩を落として、とりあえず僕の先祖の家系図と、この家に伝わる文献を見せて貰うことにした。
僕が家系図と文献を見て知ったのは、ここの神主さんは直系の子孫では無いことだった。
江戸時代にできたこの神社は僕の先祖が建てたもので、管理も先祖が直接行っていた。けれど、幕末に近くなると神社などのいわゆる『神頼み』をする人は減っていき、この神社は1度潰れてしまい、神様も消えてしまったらしい。
ただ、その後もここは神が留守のまま守られ続けた。しかし、先祖(初代の人)が死んでしまうと、神がいないのならば神社を続ける必要はないと言う意見が一族の中で出てきた。初代の息子は悩んだらい。父が守り続けたのには何か意味があるのでは、と考えていたからだ。しかし、息子はあまりにも悩み過ぎたことと一族からの圧力で、心労で倒れてしまった。寝込んでから数日が経ち、このままでは神社を取り壊すことで意見が纏まると思われたその時、彼の夢に父が現れ、自分を祀り、神社を守り続けなさいと言われたのだった。その後、今までの体調不良が嘘のように元気になった息子は、父のお告げ通り、父を神として祀り神社を守り続ける事にしたのだった。
そしてこの時代まで守られ続けているこの神社ではあるけれど、江戸時代の終わり大政奉還が行われた頃だけ何故か神主の名前も、出来事も何も残っていないという空白の時間が存在していた。
その後、つまり明治時代になったところで直系である宵継の苗字はなくなり、直系ではない別の者が神主となり今の神主さんへと続いていた。
「あの…この、空白の部分でなにがあったんですか?」
僕は率直な疑問をぶつけてみた。
神主さんは少し考え混んだ後、この空白の時間について話の続きを始めた。
初代の神主が亡くなって、息子が跡を継ぎ、代々守られ続けてきた神社はその後は争いも何も起こらず、ただ普通に時代の流れに任せて生きてきた。
けれど大政奉還が行われた頃、事件は起きた。当時、4代目の神主として神社を守っていたのは、あまり人と関わることを好まず、閉鎖的な人間だった。それでは彼の代で神社が終わってしまうのでは、と心配した一族の者達が、彼には妻が必要だと言い出し、嫌がる彼をよそに無理やり縁談を組んだ。最初は嫌がり、会話もしようとしなかった彼だったけれど、妻となる彼女の明るさや優しさに触れ、自然とお互いに惹かれ合い結婚をした。
そして彼は子宝にも恵まれ、4人の子供ができた。男と女が2人ずつで、男女交互に産まれた子供達はその時代では誰もが羨む程の美男美女だったらしい。
だが、一族の者達はそれをよく思わなかった。
神社という場所もあり、4という数字は良しとされなかったのだ。更に、彼は4代目の神主であり子供も4人という4に囲まれている状態だった。4という不吉の数字から少しでも遠ざかろうと、周りの者達は4番目の次女を一族から追放しようという話の流れになった。親である神主の男とその妻には内緒で話を進め、真夜中、皆が寝静まった頃を見計らって次女を誘拐したのだった。
翌朝、娘がいないことに気づいた夫婦は周りの者も総動員で探し回った。しかし、ついに見つける事は出来ず4ヶ月が過ぎた。娘はもう帰って来ない、そう知ってから神主の妻は弱り、みるみる痩せ細り、衰弱していき命の灯は消えかけていた。神主は妻の為にも何とかして娘を見つけようと必死に探し回ったが、どこを探しても見つからない。それもそのはずだった。
誘拐された娘は、一族と全く関わりのない百姓の家に入れられ、そこの娘として育てられていた。誘拐当時5歳の彼女は幼いながらに、自分がいらない子供だと周りに思われていることを悟り、泣くことも一切しなかった。
その後、彼女が消えて一年が経とうとしている頃、遂に神主の妻の命の灯は消え、最後まで娘を思い、涙を流しながら亡くなった。
娘が消え、妻が死に、支えとなる者を2つも失った神主は塞ぎ込んで部屋から出てくる回数が減っていった。それを心配した一族は彼に娘を返すべきなのかと悩み、娘を奪い、結果として妻の命までも奪う結末となったことを後悔し、神主に全てを話すことにしたのだ。全ての話を知った神主は自分の娘が貧しい百姓に渡され、すでに死んでしまっているだろうと言われ、とても怒り、嘆き悲しんだ。
けれど、4は不吉だという理由だけで自分の娘が追放されなければならなかったのかと納得がいかず、激怒した神主は、一族は自分の代で全て終わりにしてやると言い出し、懐刀を取り出すと、娘を攫った一族の者達を次々と殺したのだった。それでも怒りと悲しみが収まらなかった彼は息子2人と長女をも殺し、心臓を食べた。屋敷の中は悲惨な状態となり、神主が奉行所の者達によって取り押さえられた頃には彼の家族と呼ばれる者は誰一人残っていなかった。自分の子供達の心臓を喰らい、血を飲んだ彼はもう『人』ではなくなっていたのだった。
血の涙を流しながら、それでも悲しみと怒りが収まらない彼は、
「4が憎い!憎くて憎くて仕方がない!!私はその数字を呪い、その呪いによって永遠に、我が一族がこの数字に苛まれ続けれるようにする!!お前達は4によって幸せを得ることは今後一切ないと約束しよう!14代目であろうと、24代目であろうと、4がある限りこの呪いと共に私は生き続け、お前達に苦しみを与えてやる!!」
そういい残し、彼は自分で自分の心臓を取り出し、息絶えらしい。
それからというもの彼の言葉通り、一族の末端から次代の神主となった者の、4人目の子供も、14代目の神主も、何故か周りの者を亡くして心を病み自殺を測ったり、病気にかかって突然死んでしまうということが起きた。それは今の時代まで続いている。
そして、驚くのはこの後からで、僕は4代目神主の直系であり、24代目だということだ。
実は4代目の神主の4人目の娘は死んでおらず、彼が最悪の死を遂げた後も百姓の家で必死に生き、結婚し、子供も産まれていた。そして、その子供の子供の…と続いて僕の母親が産まれ、今の僕がいるらしい。
「あの…つまり、僕はこの神社の正式な跡取りということですか…?」
「そうですよ。
この家系図を宵継家のままで引き継いでいれば、翔さんは正式なこの神社であり、そして、4に呪われた子でもあります。」
「4に呪われた子…どうすれば解けるんですか?」
「先、つまり4代目の神主…今は呪いとして生きる彼に許しを貰うしかないのです。先祖の墓に行き、あなたのずーっと前の祖母が4代目の娘だったことを告げ、呪いを終わらせて欲しいと頼みこむしかないのです。あなたの中には先祖の血が流れています。つまり、彼はあなたの中で生きているということなのです。だからこそ自分の最悪の死を遂げたこの神社に入ろうとしたあなたを拒み、暴れたのだと思います。」
神主さんはそう言うと僕に1枚の御札を渡した。
「これを先祖の墓に行き、備え、目を閉じで念じてください。きっと先祖は姿を現します。そしたら話をするのです。ただ……」
何故か神主さんはそこで言葉を詰まらせた。
「ただ?」
「はい…ただ、彼はきっと人ではなくなっていますので気をつけてください。」
僕は神主の言っている意味が分からなかった。
もう死んでて幽霊になって出てくるのだから人ではないのなんて当たり前じゃないか。
話をすれば全て解決するならさっさと終わらそう。
そう思った僕は
「ありがとうございます。行ってみます。」
そう言って、神主さんに渡されお墓のある場所までの地図を持って神社を後にしたのだった。
ふと、鳥居を出る時になって千春のおばあちゃんが言っていた《宵継家は武士の家系》という言葉を思い出し、神主さんに聞いてみると、そのような記録はないが、直系ではないが神主に就いた者の中に、確かに武士はいたということだった。
なので、家系図などを見ている人でなければ、宵継家が武士の家系と思っても仕方がないとのことだった。また、僕の家系の家紋は特殊で、鬼の角が生えた様な円の中に月が描かれ、宵という文字が中心に入っているらしい。これもこの家系のみにしか伝わってないので、傍から見たら宵継家という大きな分類で見てしまうのだろうということだった。
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