第3話

 授業が終わってすぐ、僕は昨日ぶりに千春の家に訪れた。玄関のチャイムボタンを押すと、すぐに昨日のおばあちゃんが顔をだした。

 「あ、あの…こんにちは」

 「ああ、宵継さんだね。こんにちは

 どうぞ、お入りなさい」

 僕は彼女に促されるままに家に上がらせてもらった。

 「あ、あの!千春は…?」

 居間に入るなり彼女に向かって問いかける。少しだけ間が空いて、ゆっくりと彼女は答えてくれた。

 「千春はね、宵継さんがお帰りになった数時間後…容態が変わってね、今日の14時に部屋で死んでいました…」

 「え……?」

 何かの聞き間違いか、それとも夢でも見ているのか、今聞いたことが現実とは信じられずただ唖然とした。昨日まで笑っていた千春が死んでいた…?そんなはずがあるわけない。きっと、僕を脅すための嘘にちがいない。

 「千春…!!!」

 居間から飛び出し、彼女の部屋へ向かった。勢いよく扉を開け、目の前で『えへへ』と笑っている千春を想像しながら顔をゆっくりあげる…そこには、ベッドの上で眠るような感じで千春がいた。

 「な、なんだよ…

 生きてるじゃないかよ…冗談よせよー」

 笑いながら千春に近づき、彼女に触れてみる。

 「っ…」

『それ』は現実だった。

 千春は冷たくなって、息をしてなかった。

 「千春…ち、はる…おい…頼むよ…返事してくれよ…」

 彼女の頭を抱えて、止めることの出来ない涙を流した。

 どれくらい泣いただろうか、気づけば僕のうしろに千春のおばあちゃんが立っていた。

 「あの…こいつはなんで死んだんですか」

 「…14の呪いです。

 あなたの呪いが影響したのでしょう…

 彼女の意思ではなく、呪いによって自分で首を吊るという行動に走ってしまったのでしょう…」

 「なんで!なんで止められなかったんですか!!」

 僕は堪えきれず大声で千春のおばあちゃんを怒鳴りつけた。すると彼女はやけに冷静な顔で、「呪いとはそうゆうものなのです。逃げられない…」と言って部屋から出ていってしまった。

 呪いとは一体なんなんだ…

 なぜ、自分の周りばかりで人が消えていく…

 7年前もそうだった。時々ウザったくて、でもご飯が美味しくて、優しい母親が大好きだった。いつも通り学校に行って、授業を受けていた所に先生が駆け込んで来て、すぐに家に戻りなさいと言われた。何事かと思い家に行ってみたら、今朝まで普通に笑っていたはずの母親が死んでいた。僕は母親が死ぬ予兆さえ何も感じなかった、僕は母親を守れなかったのだ。

 そして、今回もそうだ。昨日の時点で異変は起きていた。それなのに僕は、呪いなんてものは現実と思ってなくて、心のどこかで適当に流していた。千春も1日経てば治るだろうと勝手に思い込んで、呑気に学校なんて行っていた。もし、僕がそばにいてやれば、きっと彼女はまだ生きていれたかもしれないのに…

 悔しくて涙が止まらない僕は、ただ小さな悲鳴にも似たような嗚咽を漏らしながら、声と涙が枯れるまで泣いた。

 目一杯泣いた。酷い顔をしているだろう。でも今はそんなことに構っている余裕はない。僕は意を決して千春のおばあちゃんのいる部屋へ向かった

 居間に入ると、おばあちゃんは待っていたかのように僕にお茶を差し出した。

 「覚悟をお決めになったんですね」

 「えぇ、もうこんな思いは二度とごめんです。本当に終わらせることが出来るなら、僕はこの呪いを終わらせたい」

 僕は呪いを解き、全ての因果を終わらせることにした。そうすることがきっと、死んでしまった母親や千春の弔いにもなるだろうし、僕自身のためにもなると思ったのだ。

 「左様ですか。呪いを解くのはあなた自身でしかできません。そして、それは苦しみや悲しみも伴います。それでも進む覚悟をお決めに……いいえ、お決めになったのですね。」

 彼女は優しい目で僕を見つめ、呪いを解くために必要なことを教えてくれた。

 まず始めは、僕の先祖が何故14という決まった数字に呪われることになったのか、それを究明すること。2つ目は呪いには必ず怨霊がいるはずだから、その怨霊とコンタクトを取ること。強い念を持っている霊ならば、僕にあまり霊感がなくてもコンタクトは取れるらしい。そして3つ目は、その怨霊に許してもらい成仏してもらうこと。この3つが成功すればきっと呪いは解かれ、今後の僕の人生に、14という数字によって起こる悲劇はなくなるだろうということらしい。正直、こんな事で呪いが本当に解かれるのかは定かではない。けれど、やるしかないのだ。

 僕は、千春のおばあちゃんに言われたことを忘れないようにメモを取り、家に帰って荷造りを始めた。千春のおばあちゃんによると、僕の先祖は地方の武家だったらしい。そして、呪いもそこから始まっているとのこと。何故、千春のおばあちゃんが僕の先祖を知っているのかは謎だったが、彼女しか頼れる人はいない。僕は、彼女の言葉を信じて自分の先祖がいた土地に行ってみることにしたのだ。

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