第12話

「昨晩はお楽しみでしたね」


 これが翌朝、なぎさの俺に対する第一声であった。


「ちげぇよ」


 と、当然返すと


「ですよね。そうじゃなかったらステータスの童貞表示がなくなっているはずですもん」


 と言われたが、ステータスに童貞が表示されるゲームなんてやったことねぇよ。


「童貞の三つ雲さん、朝ごはんを食べましょう。お姉ちゃんが先に行って待っています」


 話したいことは全て話せたのか、美咲はあの後、すぐに帰っていった。

 だから俺は、童貞のままである。あのままいたところで、それ変わらないが。いや、変わってはいけないだろうがな。法に引っ掛かる。


「高校生に手を出すのは駄目なんですかね? 結婚できる年齢なのに」


 駄目だろ。

 同意がなかったら特に。


「ベッドから始まる恋もあるんですよ」


 お前が何を知っているんだよ。


「あ、お姉ちゃん」


 と、そんな危ない話をしていたら、朝食会場に着いた。

 美咲は、ちゃんと待っていてくれたようだ。


「おはよう」

「ああ。おはよう」


 自然な挨拶ができたことに内心ほっとする。微妙な感じになったらどうしようとか、考えてたからな。


「海苔が美味いぞ!」

「そうだな」

「漬け物が美味いぞ!」

「そうだな」

「リンゴも美味いぞ!」

「そうだな」


 どうやら、食べるのが好きなようだ。朝から元気である。


「では十時には出ましょう」


 と、他に特筆すべきところはなく、あっという間に十時になって、旅館を後にした。

 そして飛行機に乗って、いっという間に地元に帰ってきたのだ。


「早くしてくださいよ、三つ雲さん」

「待って。マジ飛行機無理。先行ってて」


 空を飛ぶのは慣れない。しかも機械でだぜ?

 生身の人間に乗るならまだしも。


「人間は飛べませんよ」


 その通りだった。


「……はぁ、しょうがないですね。お姉ちゃんを置いて、わたしは先に帰ります」

「何故私を置く!?」

「タクシー代わりになるでしょう?」


 実の姉をタクシー代わりにする妹がここにいた。


「それに、物語の最後くらいは二人に締めて欲しいですから」


 そんな、最後までメタいことを言って、剣上なぎさは帰っていった。


「……三つ雲殿、肩を貸そうか?」

「いや、大丈夫。自分で歩けるよ」


 そこまでしてもらうのはちょっとな。

 空港を歩いて、二人で外に出た。

 太陽の光が眩しく、どこまでも照らしているように思えた。


「三つ雲殿。今日はこれからどうする?」

「ん? いや、予定はないけど」


 強いて言うなら、家でだらだらする予定だったけど。


「ふむ。それなら私と一緒に来てくれないか?」

「え、まさか」

「ヒーロー活動をしようじゃないか」


 だらだらする予定は、変更しないといけないようだ。

 今日もきっと、忙しくなる。


 まったく。

 美咲の笑顔には、敵わないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣上美咲はヒーローごっこをやめられない 岩崎月高 @IwasakiTukitaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ