第7話

「また場面転換しましたよ。恥ずかしくないんですか?」

「じゃあなんだよ。桜の木の下にブルーシートを敷くところを描写すればよかったのか? 面白味もねぇし尺も足りないんだよ」

「面白くならないのも尺調整もガバガバなのもあなたの実力不足なんですよ。短時間で面白おかしくブルーシートを敷いてください」

「無茶振りすぎる」


 面白い話をしろ、って言われるくらいの無茶振りだ。いや、それ以上か。


「三つ雲殿、なぎさ。二人だけで喋ってないで私も交ぜてくれ」


 ブルーシートの上。俺となぎさ、そして美咲が重箱に入ったお弁当を囲んでいる。

 そして、俺らの上には桜だ。空はパソコンのソフトで適当に塗りつぶしたように青く、対照的に桜はやたら細かく薄いピンクで彩られている。

 あと、シートもアホみたいに青い。全国的に見られる、一般的な花見である。この色合いがきっとマストだ。


「じゃあお姉ちゃんと三つ雲さんチェンジでお願いします」

「俺がいなかったら意味がないだろ」

「そうだな。三つ雲殿はいないと困る。三つ雲殿がいなかったら私たちは踊るしかない」

「イミワカンナイ」

「ミュー○! ミュージックスタート!」


 このノリ、ついていけねぇなぁ。姉妹揃ってしまったからか? 単体でも大変なのに、二人同時に捌けるわけがない。


「三つ雲さん三つ雲さん。最初はツッコミするだけのポジションだったはずが、いつの間にかボケをするようになった三つ雲さん」

「嫌な呼び方をするな」

「具体的にはおっぱいを掴んだ辺りから変わってしまった三つ雲さん」

「あのとき、俺は生まれ変わったからな! しょうがないな!」


 俺、あのときの感触が忘れられないんだ。

 人は変われるんだ、おっぱいで!


「この小説で一番伝えたいことが言えましたね」

「違うよ!?」

「三つ雲殿はそんなにおっぱいが好きなのか……」

「お、おい。引くなって。男子足るものならこれは当たり前で……」

「いや、知ってたけどな」


 だよな。うん、安心した。

 もう好感度が下がることはない。上がるだけだ。


「それよく言いますけどねぇ、わたしはそうは思いませんよ」

「と、言うと?」

「底に限界はないのです。底辺だと思って前だけ見てれば、落とし穴が待ってます」


 嫌な話だなぁ。ここから上がるだけだって言葉が素直に聞けなくなる。


「わたし、小学校の話ですが、テストで最下位を取ったことがあります。私立のお嬢様学校だったので、みんな頭がよくて……」

「自分でお嬢様言うなよ」


 嫌味か言い訳か判断しづらいな。まぁ、テストで最下位はきついだろうけど。


「それで、そこが一番底だ、上がるだけだって思ってたらさらに下がりましたからね」

「え?」


 最下位なのに? そこから下はないのに?


「さっき言った通り、わたしが戦っていたのはお嬢様学校の中だけ。その後、もっと下の学校に転校させられましたからね」

「マジか」

「はい。そこでも下の下でした。わたしはその下の下で耐えましたが、さらに下があるのは見えてました。穴に終わりはないですよ。突き抜けて終わりまで続いてます」


 ……壮絶だな。この年にして悟ってしまったか。


「でも、今の学校は頭がいいんじゃないのか?」

「コネですよ」

「コネかよ」

「嘘ですが」

「嘘かよ」


 社長の娘が、社長が創立した学校に通っているのだし、それがコネでない方が不自然だ、と思うのは腐ってる証拠だそうだ。

 洗濯機にダイブしよう。腐っているのは治してくれないけれど。


「お姉ちゃんに勉強を教えてもらいました」

「そうだぞ。私が見たぞ」

「へー……」


 こいつがねぇ。


「前も言いましたよね。お姉ちゃんは頭がいい設定で、わたしは頭がよくない設定なんです。アホ毛ってるやつが敬語使ってるのって、超馬鹿っぽくていいでしょう?」

「そんな設定のために敬語使ってるなら止めちまえ」

「あー、綺麗な桜ですねー」

「話がガラッと変わった!」

「いいんですよ。もうこれだけ場面転換やったんだし、話がいつの間にか違うものに転換しててもバレません。三つ雲さんが女の子になっててもバレません」

「そこはバレてくれ!」


 でも、小説だと書かないことは分からないから、確かにバレないんだよな。いや、なってないけど。


「三つ雲殿は女の子だったのか!?」

「ほら、こいつがまた変な勘違いするだろ」

「いえ、勘違いではありません。ほら、ここを触ってみると」

「ダァァァァ!」

「あれ? まだ生えてました」

「何、人のチン○いきなり握り潰してんだ!? 死にたいの!?」

「妹にセクハラをするとは許せない!」

「男女差別!」


 とか、騒いでいた。殴られたりした。あ、チンコはなくなってません。安心してください。

 一応説明すると、社長はここにはいない。忙しい人だからな。俺にくっさい手紙と、とあるボタンを預けてどっか行ったとさ。

 ボタンは、バラエティ番組とかでよく見る、赤くて大きい押すタイプのやつ。

 これで俺らが何をするつもりか、予想してみるのもいいかも。強制はしないけど。

 では、ここでまた、場面転換。チャンネルはそのままで。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「一旦CMです、みたいな場面転換ですね。初めて見ました」

「あのさ、もういちいち場面転換についてつっこむの止めないか? あと二、三回はやると思うし」

「いえ、止めません。あなたが場面転換する限り!」

「なんて迷惑な……」

「それに、場面転換はわたしも嫌いじゃないですから。むしろウキウキしてますよ」

「へぇ……意外だな。なんでだ?」

「ほら、場面転換すると私たちは移動を短縮できると言いますか、瞬間移動ができるじゃないですか。楽なんですよねぇ」

「そんなことはない!」


 書いてないところでもちゃんと生きてるから!


「話題もそんなにあるわけじゃありませんしね。場面転換をしてくれると、わたしたちが実はそれぞれ無言で、各々のスマホを弄っているシーンとか、なかったことにできるんですよね。とっても仲良しなように偽装できます」

「俺らはとっても仲良しだよ!?」


 現代っ子じゃあるまいし、花見しながらスマホゲーとかしないから!

 音ゲーとかしてねぇから!


「さっき、ガチャで星5が出たって喜んでたじゃないですか」

「それは、まあ」

「ゲームに課金するなら、わたしに課金してくださいよ」

「そっちの方が危ない感じがするから駄目だ」

「今課金すると、心と体を自由にできますよ?」

「尚更駄目だろ!」

「今、えっちなことを考えましたね? 童貞ですねぇ」

「悪かったな、童貞で」

「わたしも処女ですから、同じことを考えてたんですけどね」

「…………」


 …………そうか。


「反応がないですね? 表情が変わってません」

「まあ、そりゃ、なんて反応すればいいのか」

「でもこっちは素直ですよ! えいっ!」

「ダァァァァ!」

「あれ? 素直じゃないですね。大きくなってません」

「当たり前だぁぁ!」


 人生で、二度とないだろう。女子中学生に、局部を二度、握られる日は。

 それがもう一回起きる日は、きっと世界中の中学生が、俺だけを好きになるときだ。

 あれ? つまり、あり得ない奇跡体験をしたということか? ありがてぇなぁ。


「なあ、そろそろこの白い物について説明してくれないか? 一体これはなんなのだ?」


 そうだった。会話をし過ぎて美咲をここに連れてきたのを忘れてた。

 俺らはあのデカくて白い物の下に来ているのだ。二十メートルってところかな。

 高層マンションや高層ビルを見慣れすぎてしまって、二十メートルと聞いても、高いとは感じないような気もするが、それでも真下から見上げれば、まあデカイ。

 一般的な学校の校舎より高いからな。当たり前か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る