第12話
「当たり前ですよね! なんでアホ毛の話からチン○の話まで持っていくんですか! ガキですか!」
「あ、お前、俺がチ○コって伏せたことでまだチョコの可能性を残してたのに! チン○って言ったら一つに絞られるじゃないか!」
「あぁん? チンコチンコうるさいんですよ! 小学生ですか!」
「まともに言いやがった……」
美咲だったら俺を殴って場が収まるのだが、なぎさ相手だと、とことん争ってどちらかが言い負けるまで続くようだ。
恐ろしい。
「わたしはアホ毛対決がしたいわけではなく、もっと全体の話をしているのです」
「全体?」
「そうです。つまり、キャラとして勝ちたいのです!」
「ふへ」
相づちのパターンが足りないから、新しいのを試してみた。
意外と使えるかもしれない。ふへ。
「ちゃんと聞いてますか?」
「ふへふへ」
「あ、聞いてますね。なら続けますよ」
……マジで使える!
会社で上司とかに何か言われたらこれで行こう!
「キャラクターとして、より優れた存在に私はなりたいのです!」
「ふへふへなるほど。よく分かったが、普通競うなら見た目の美しさとかじゃないのか? かわいさとか」
「分かってないですねぇ。見た目のかわいさで勝ち負けをつけられるわけないじゃないですか」
「いや、まあ」
勝ち負けをつけるのは愚かということだろうか。
「わたしたちは謂わば二次元なんですから。みんなかわいいので差とか特にないですよ」
「元も子もねぇな」
「髪型を同じにすれば大体みんな同じ顔ですよ。平等に幸せで、いいことではありますけどね」
整形技術が進んだ未来、これと同じ状況になるのかもしれない。それは果たしていいことだろうか。
「いやでも、俺からしたら美咲もなぎさも、他の人とは違って、めちゃくちゃかわいく見えるけど」
「それはわたしたちが主要キャラだからですよ。モブと比べられても嬉しくありません」
……こいつはひでぇや。
「まあ、分かった。美咲に見た目とかではなく、キャラクター、つまり個性で勝ちたいってことなんだな」
「はい、そうです。それがわたしの第三の矢なのです」
勉強、運動、キャラクター。
せめて三本目であるキャラクターでは勝っておいて、残り二つは努力目標って感じか。
「具体的には人気投票やファンレターの数、グッズの売り上げで勝ちたいところです」
「将来設計が早すぎるな」
書籍化すらしてねぇよ。
「ですが、お姉ちゃんは強敵ですよ」
「そうか?」
「はい。変態天然ヒーローで甘えん坊。才色兼備で運動神経抜群。百六十五センチDカップのお姉ちゃん属性。まさに強敵です」
「ひでぇ紹介だ」
あれがDカップなんだ……。
柔らかかったな……。まさに理想の胸だ。
「一方わたしは、アホ毛妹属性だけ。これからさらなる進化が必要なのです」
「いやいやちょっと待て」
「なんですか?」
「お前、もっとキャラ濃いだろ」
「そんなことないですよ。それだったらこんなに悩んでません」
「…………」
こいつ、自分のこととなると色々気づけないタイプか。日本人には多いらしいが。
「お前は、ドS兼ドMキャラであり、超メタいことでも許される、女子中学生! つまりロリだろ! 加えて運動できない系属性でもある! これ以上何を望む!?」
「はっ!」
その言葉に、なぎさは目を見開いた! 今日一日散々言ってきたことを言っただけなのに、心底驚いたようだ。
ってか、ロリに似合う貧乳にしてるって自分で言ってただろ。その設定は忘れてたのか?
「わたしって、なんて魅力的なんでしょう! こんなことで悩んでたのが馬鹿みたいです! ありがとうございます!」
「ああ、そりゃどうも」
俺は、何もしていないのだけど。思ったことを言っただけ。元々彼女が魅力的だっただけなのに。
まあ、褒められたら嬉しいし、礼を言うのも分かるから、その礼はありがたく受け取っておこう。
実際は褒めたかどうかも怪しいが。
「それで、悩みはもうないのか?」
「いえ、もう一つあります。わたしには友だちがいないことです」
「あぁ」
そういえば、美咲はその目的のためになぎさを連れ出したんだったか。
初期設定を無理矢理持ってきたような感覚だ。そんなのあったね、みたいな。
「お姉ちゃんを心配させてしまいますから、友だちは作らなきゃいけないとは思うのですが」
「お姉ちゃんはもういいだろ。勝てるところ、お前だけの価値も見つかったし、あいつの言うことを聞く必要はない」
「でも……やっぱりお姉ちゃんは大切ですから」
美しい姉妹愛ってやつか。俺は別に美しいとは思わないけど。
「……なら、どうして作らない? 作れないわけじゃないだろ?」
「そうですね。わたし、おしゃべりは好きですし」
みんなが話についていけるかは謎だな。俺は大丈夫だけど。
「小学生のときから一人で過ごすことが多かったんですよ。本を読んだり、アニメを見たりして過ごしてました」
小学生のときから染まってしまったのか。だからこんな子になったのか。
いいことじゃないか。仲間ができたようで嬉しいな。
世間一般で言われる、健やかな女子児童の道からは外れてしまっているような気もするけれど。
「お姉ちゃんとはよく遊びました。いえ、遊ばれました」
「……そうだろうな」
「わたしをおんぶして車道を走ったり、わたしを足で挟んで、校舎の壁をクライミングとかしてましたね」
「妹にもやってたか……」
大罪人じゃねぇか。早く捕まれ。
「でも、なんやかんや楽しかったですよ。友だちを作らないのはつまらないからです。わたしは、一人でいた方が楽しいです。もしくは、お姉ちゃんとなら、一緒にいても楽しいですが」
「……なるほど、な」
美咲といるのは楽しい、か。
分かるぜ。
「お姉ちゃんと比べたら、他の人と過ごしてもつまらねぇか」
「そうです。あ、三つ雲さんは別ですよ! 三つ雲さんと話すのは楽しいですから」
「あ、ありがとう……」
照れちゃった。そんなこと言われるのは初めてだし、免疫が足りない。
「え、えーととにかく、俺の考えを言わせてもらえば、友だちなんて、無理に作るもんじゃねぇってことだ」
「そうなんですか?」
「ああ。嫌々付き合ってれば相手にもそれは伝わる。そうなるなら、どっちも不幸だ」
「……じゃあ、わたしはどうしたらいいですか?」
わざとらしく頷いてから、俺は答えるのだった。
「お姉ちゃんに、心配するなと強く言う」
「それは無駄ですよ。お姉ちゃんはきっと心配し続けます。今だってきっと、わたしたちを探そうとしているはずです」
「ふっ。そう言うと思っていた。もう一つ策がある」
「かっこつけて勿体ぶらないで早く言ってくださいよ」
「それは、だな」
言われたことを無視してかっこつけながら、俺は言った。
「俺と友だちになることだ」
「へ?」
そう! 単純明快にして最高完璧な答えはすぐ近くにあったのだ!
俺は、繰り返し言う。しつこいストーカーのように。
「だから、俺と友だちになろうよ! そうすれば一件落着だ! なぎさには友だちができるし、俺なら悩みだっていくらでも聞いてやる。メタい話だってかわいいアホ毛の自慢だっていくらでも、好きなだけ聞いてやるよ! だからさ、俺と友だちにならないか!」
我ながら、中々の気持ち悪さだった。
それでもなぎさは、あんまり引いてはいないようだ。
引いてはいない。ただ、じゃあどんな感情かと言うと、ちょっと分からない。
「ああ、ちょっと待ってください。そういうことですか」
「?」
頭痛がするのか、頭を押さえている。眉間にしわが寄っている。
「三つ雲さんは、私と友だちになりたいんですね」
「え?」
驚きの返事だった。思わず訊き返す。
「三つ雲さんが、わたしと友だちになりたいんですね。分かりました」
「え、いや、そういう話じゃ……」
「違うんですか?」
「…………違くありません」
そうなのだ。結局俺は、この子、剣上なぎさと友だちになりたいだけだったのだ。
色々とかっこつけたり、らしくないことをしたのも全部、そんなことのため。友だちになって欲しかったから。
それはまるで
「ふふっ。三つ雲さん、小学生みたいですね」
子どものようだった。
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