第7話
「キ、キスだと! なんて不純なことを言うんだ! したことなどあるはずがないだろう!」
美咲、激しく動揺。どうやらキスというワードに過剰反応しているようだ。
「……マジか」
意外だなぁ。変態ファッションをしているから、てっきりビッチだと思っていたのに。精神年齢は本当にお子様なのかもしれない。
「リアルだったらまずあり得ないキャラなんですけどね。そんな女子高生、いるはずがないです。ですがこれは小説ですからね。ない話ではないですよ」
「だから小説言うな」
でも確かに、いかにもモテない男の妄想によって生まれたような設定だよな。
純潔清純であって欲しいってみんな思うだろうし。もちろん俺だって、そうであって欲しいと思っているけど。
「な、なんだ! 二人ともしたことがあるのか!? あるなら軽蔑するぞ」
「それくらいで軽蔑するな」
「あるというのか」
「いや、ないけど」
「ああ、そうだよな。うん、クソ童貞の三つ雲殿がキスはしたことがあるなんて考えられない」
「…………」
なんでだろう。美咲が処女であることは清らかな利点であるようなのに、俺が童貞であることは汚い欠点のように感じるのは。
男女差別だ! 女尊男卑、反対!
「そして、君はどうなのだ?」
「あったらどうします?」
美咲に訊かれて悪戯っぽい笑みを浮かべるなぎさ。結構表情豊かである。
「おしりペンペンだ」
「えーそうですか。残念、キスしたことはないんですよ」
……残念とは何に対してだろう。おしりペンペンをできなかった美咲に対してか、はたまた自分がおしりペンペンされないことにだろうか。
触れないでおこう。
「……そうか。それならよかった」
それは、本当に安心したような声だった。ほっとした、って感じだ。
二人に確認は取ってないからもしかしたら違うのかもしれないけれど、おそらく二人は姉妹だもんな。
剣上美咲と剣上なぎさ。
心配するのは当然で、微笑ましいことなのかもしれない。
「……アホ毛の努力についての話に戻ります」
ところで、なぎさは美咲に気づいているのだろうか。
ただの不審者だと思っているのか、それとも姉だと分かっているのか。
美咲的には今のところ隠したいことかもしれないし、もう少し様子を見てみよう。
「アホ毛の努力って何をすることだと思いますか? 三つ雲さん」
「え、えーと……イメトレかな」
全然分からないから、これも適当に言った。せめて選択肢くらいは欲しいところだ。
四択ならいけるかもしれない。テレフォンやオーディエンスの使用も込みならば。
だけど
「正解です! やりますねぇ!」
「え、マジ?」
「大正解ですよ! まさか『ファイナルアンサー?』と訊く前に当ててしまうとは」
当たっちゃった。
俺は天才かもしれない(そんなに誇れる問題ではない)。
「そう、大事なのはイメージです。アホ毛を動かすイメージをするのです」
普通のキャラなら苦労せず才能でやれることを、この子は努力でやっていると言うのか。
感動だ。
「このときに集中することが大切です。髪の毛の先に魂が宿るイメージを持ち、心を落ち着かせて集中するのです」
「……なるほど」
ここまで行くと武道の域だ。
アホ毛道。
「では実際に見てもらいましょうか」
「ごくり」
喉をならした。
本当に、アホ毛を動かすことはできるのか、果たして!
「ぴょこぴょこぴょこぴょこ」
「う、動いたー!」
直立していた二本のアホ毛が、お辞儀するように折り畳まれ、そして戻る。
繰り返し繰り返し、ぴょこぴょこと、折れて戻ってを繰り返すのだ!
お辞儀マスターのアホ毛がそこにはあった。
当然、手は使っていない。何に触れることもなく、まるでアホ毛に神経が、筋肉があるように動いていた。
初めてシマウマの赤ちゃんが立ったときのような感激!
感動!
「これくらいで驚くのは早いですよ」
「な、なに!?」
「ふんっ」
「ふ、増えた!」
アホ毛が二本から三本に増えた!
にょきっ、と第三のアホ毛が現れたのだ!
「そんなことまでできるのか!」
「海○からQ○ろうにジョブチェンジです!」
「あれはアホ毛ではないだろ……」
しかし、見事な技だ。アホ毛を増やす人なんて見たことないぜ。
「さっき話題になったあの人の髪型も再現できますよ」
「何!? まさか!」
「ふんっ。どうですか?」
「か、完璧にキ○オウだ……」
なぎさは、見るからに痛そうなチクチク頭を再現してみせた。
あれもアホ毛じゃないと思うけど……。
「まさか、何本でもいけるのか?」
「まあ、そうですね。形もある程度複雑なところまで作れます」
「凄いな……」
努力で才能を完全に凌駕してやがる。どころか人間すら止めてしまっているような気さえする。
髪の毛を意識的に逆立たせたりするのは、俺が知っている中ではサ○ヤ人くらいなんだけど……。
もしかしてこいつは何かの宇宙人なのかもしれない。
「でもアホ毛でベ○ータさんの富士額は作れないんですよね」
「作らなくていいよ」
「名探偵コ○ンの、ら○姉ちゃんさんの角なら再現できるんですけどね」
「角言うな」
確かに、あれが凶器なんじゃねぇかってくらい尖ってるけどな。
「では最後に、とっておきをお見せしましょう」
「とっておき?」
「はい、とっておきです。見たら失神するレベルのとっておきですよ」
……そこまで言うなんて一体、どんなアホ毛なんだろう。
ここまでで充分過ぎるくらい凄かったけど、一体、どんな……。
「覚悟はできましたか?」
「……ああ」
「じゃあ、行きます!」
なぎさは気合いが入ったように真剣な顔になって、全身に力を込める。たぶん、力はいらないとは思うんだけど、まあそれも必要な儀式なのかもしれない。
そして、俺に背を向けるようにくるっと反転し、しゃがんだ。
「ん、どうした?」
しゃがまれてしまうと見えるのは丸まった背中だけで、肝心のアホ毛がよく見えない。
どうしたのだろう。
心配になって、少し忍び寄る。
「…………にゃー!」
「わーっ! ってそれは!」
すると、なぎさは飛び跳ねた!
両手を万歳するように広げて、元気一杯叫びながら、俺の方を向いてジャンプしたのだ。
さぁ、アホ毛は!
「猫耳だー!」
立派な猫耳が二つ、かわいらしく愛らしく、現れた!
ふさふさの少し垂れた猫耳で、とても愛くるしい。
「ど、どうですかにゃ?」
「めっちゃかわいいー!」
マジめっちゃかわいい(語彙力)。
少し顔が赤くなっているのは、やっぱり恥ずかしいからだろうか。だとしたら、さっきしゃがんだのも、恥ずかしいからだったのかもしれない。
かわいい!
「それならよかったです! にゃ。これなら他の人気キャラに勝てますよね? にゃ」
語尾ににゃをつけるのは何故だろう。猫耳を持つ者の定めなのだろうか。
かわいいからもっとやって欲しい。
「当たり前だ。今、お前が世界で一番輝いてるぜ」
猫耳の効果というものは計り知れない。それだけでかわいさが反則級に跳ね上がってしまうのだから。
そもそもは、猫という動物は皆に愛されている。ルックスや立ち振舞いなど、かわいさの頂点にいるような生き物なのだ。
そんな猫様のかわいさを放つ大事なポイント、猫耳をかわいい子がつける。それがどれだけの破壊力を持つか。
言わなくとも分かるだろう?
へへへ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます