第6話
「三つ雲さんが心底残念だということも分かりましたし、アホ毛の話をしますよ」
「どんだけ話したいんだよ」
「三つ雲さんがツッコミとセクハラしかできないアホであることと同様に、私もアホ毛と剣上という名字しか価値がないので」
「アホ毛って価値があるんだ……」
ってかどうしてそんなネガティブなんだよ。意外と闇が深いな。
もしかしたら、美咲がこいつを拐った理由もそこにあったりするのだろうか。
「でもその前に」
「また何かあるのか?」
「そろそろ縄をほどいてください」
至極もっともだ。
もっとも過ぎる。むしろ、ここまでずっと拘束されていたことを忘れかけてたぜ。
「いえ。読者ならともかく、三つ雲さんが忘れかけてたってどういうことですか」
「読者言うな。いや、ずっとそんな格好だったから、そういうファッションなのかと思い始めてたんだ」
「なるほど。どこの同人誌にそんなこと書いてあるんですかね。縛られてるのが日常ガールなんて」
いいからほどいてくださいよ、と彼女は言った。
こういう女の子を見れる機会なんてそうあるものじゃないし、もっと見ていたかったが……。
嫌々、しょうがなく、百歩譲って、美咲と一緒にほどいてあげた。逃げることはないと、美咲も判断したということだろう。
なぎさは、大きく伸びをする。ラジオ体操さながらの伸ばし方だった。
「んんー! やっと解放されました! 気持ちがいいです!」
「そっか。この馬鹿のせいで悪いことをしたよ。怒るならこいつに怒れよ?」
「ありがとうございました!」
「なぜ感謝をする!?」
「だって、わたし縛られてみたかったんですよー。結構気持ちよかったですし」
「キャラがぶれてる!」
ドSキャラの少女かと思ってたのに、ドMキャラになってる!
一体どっちなんだ!
「SかMどっちかだと思っている時点でナンセンスです」
「なんだと! じゃあなんなんだよ」
「わたしはLです」
「デ○ノートかよ!」
「いいんですか? 私に逆らうとノートに名前を書いちゃいますよ。ほらほらぁ」
「そんなLは嫌だ!」
しかし、Lって伏せれないから厄介だな。○って書いただけだと、何がなんだか分からないし。
というかあっさりとパロってやがるじゃねぇか。なんてやつだ。
「まあ、Mの人はSでもあるってよく言うじゃないですか」
「そうなのか?」
「はい。攻められるのが好きな人は、どんな風に攻められたいか考えますし、自分で自分を攻めてるとも考えられますしね。もちろん例外は沢山あると思いますけどね」
……そんなものなのかな。
じゃあ俺も、実はS要素もあったりするのかもしれない。
いい話が聞けた。
「じゃあアホ毛の話をしましょう。そのために解放してもらったことですし」
「どこがアホ毛のためになるんだよ」
アホ毛の話なんて、そんなにすることないだろ。
まさか、アホ毛の話するする詐欺じゃないだろうな。
それならすでに大成功だが。
「集中するためですよ。快感に集中力を奪われてしまいますから」
「集中?」
アホ毛を立たせるのに集中力が必要なのだろうか。
そんなことをしなくとも、二本のアホ毛はしっかりと、出会ったときからずっと刺さったままだけど。
「三つ雲さんはアニメ見ますよね?」
「まあ、な」
なんで分かったんだろ。そんなオーラ出てたかな。
「で、アニメ見てたら分かると思うんですが、人気が出るキャラの特徴分かりますか?」
「えーと、なんだろ……」
難しいなぁ。
いきなりそんなクイズが来るとは思ってなかったなぁ。
うーん……。
「はい、時間切れです。正解はアホ毛です」
「アホ毛?」
話の流れ的にそうなのかなぁとは思ってたけど、なんかしっくりこないんだよな。
確かに人気キャラの中にはアホ毛があるキャラも沢山いるけども……。
そんな感じで俺の中には不信感が募っていたが、しかしなぎさは揺るぐことなく言う。
「はい、アホ毛です。正確には、アホ毛を動かすことなんですよね」
「アホ毛を動かす?」
「はい。よくアニメとかでやってるじゃないですか。ぴょこぴょこって」
なぎさは、手でうさみみを作って動かして見せた。
ぴょこぴょこっと。
……かわいいなぁ。
そんなアホ毛は見たことないけど。
「感情表現をするときに、キャラクターはアホ毛を動かすんですよ」
「ああ、確かに」
「その動作がかわいいかわいいと評判になるんです、人気が出るんです!」
「あ、ああ……」
凄い迫力だ……。
よほど思うところがあるらしい。
「わたしも人気になりたい! キャラを立たせたい! だからアホ毛を作ったんです!」
「アホ毛って作れるものなんだ!」
驚きの事実!
アホ毛って作れるらしいよ!
びっくりだ!
「なのに、なのに! わたしのアホ毛は感情と連動しないんですよぉ! 私が困っても怒っても悲しんでも、この通り。ピクリとも動かないんですよぉ!」
「そ、そうなんだ……」
「天然ものじゃないからですか! 才能がなかったから駄目なんですか! 努力で手に入れたこのアホ毛は認められないんですかぁぁぁ!」
大泣きする彼女。
それでも真っ直ぐ直立するアホ毛。
悲しいなぁ。アホ毛でこんなに悲しむ人がいるなんて。
ああ、アホだなぁこの子。嫌いじゃないけど。
「でもほら、その努力だって無駄じゃなかったって」
取り敢えず、よく聞くことを言ってみた。こういう無責任なのは嫌いなんだけど。
ああ、別に珍しいセリフを言いたいわけじゃなくて、ありきたりなセリフでいいんだ。ただ、自分の考えじゃないことを言うのは嫌いだってだけだ。
この場合、自分の考えじゃないから、普段なら嫌いパターン。
無駄な努力なんていくらでもある。後になって良かったって思うのは、無駄じゃなかったって思いたいだけなんだと思う。
無駄は嫌だもんな。
で、なんでそんなポリシーがあるくせに今回は言ったのかだけど、まあ特に意味はない。
適当だ。適当。
励ましたかったのに励ます言葉が思い付かなくて、でも何も言わないのはもっとよくないと思ったから。
なんて、ここまでのことは全部、適当に言いました。
中学生の女の子を本気で元気付けようとして、しかも、それで出た言葉がありきたりだったから恥ずかしくなっただけなんです。
てへ。
なのに
「そうです! 無駄じゃなかったんですよ!」
「……へ?」
「さすが三つ雲さんですね! わたしのことがよく分かってるじゃないですか! 今日が初対面なのに」
まさかの肯定をされてしまった。そういう反応をされると余計に恥ずかしくなる。
はにかむなぎさ。
純粋な笑みで、瞳がキラキラしてて、とてもかわいい……。
「近いぞ二人とも。離れるんだ」
「ぐあ」
「わわっ!」
俺となぎさの間に割って入ったのは美咲だ。いや、それ以外に登場人物出てないけど。
俺たちの顔と顔を押して、無理矢理割り込んできたのだった。
「何すんだよ」
「不純な感じがした」
「不純って……」
これまでの方がよっぽど酷いことをしてきた自覚があるんだけど……。
「ヒーローとしては見過ごせなかったのだ。三つ雲殿が中学生に誘惑されて法に触れてしまうところをな」
「そこまで行かねぇよ!」
何も考えてなかったわ!
整った顔してるなー、とか柔らかそうな唇だなー、とかしか思ってないわ!
「まあ、しょうがないんじゃないんですか? このヒーローさんは、キスもしたことがないお子様のようですから」
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