パーシュ達とミラの出会いのお話

「パーシュ、逃げて!」

「そっ、そうは言っても……!!」


アルビノは希少性とその見た目から特殊な扱いを受ける。

ある地では神聖なものとして。ある地では不吉なものとして。

ある者は不老不死になるといって心臓を食べようとしたり、呪術の生贄にしようとしたりする。


だからいつもは黒いキャペリンハットを深く被って、早々に立ち去るのだけれど悪い風で帽子が飛んでしまった。

何かに導かれ、気づけば見知らぬ森の中に入っていた。


「やっぱりアルビノだったわね。最高の生贄になるわ」

悪い風はこの女の仕業ようだ。


「大丈夫、パーシュ。クオリアが導いてくれた森だもの」

トワは直感などをクオリアと呼ぶ。しかし今はそれすらも罠かもしれない。

「とはいっても……あっ!」


石につまずきバランスを崩してしまう。

倒れるかと思いきや、柔らかなシルクの布に包まれた。

顔を上げるとまるで童話のお姫様のような金髪碧眼を持った女性が私を受け止めていた。

その状況を物ともせず、女は続ける。

「それは私の奴隷なの。返してくださる?」

「嘘ですッ、奴隷なんかじゃ……!!」

「まあまあ、それでは」

すっと手を離され、もう駄目かと思いきやそのお姫様は少し屈んで意外な言葉を口にした。


「お嬢さん、わたくしに仕えなさい」

「えっ」

「承諾するのなら、瞳に石に口づけを。早くしないと“ご主人様”に生贄にされてしまいますよ?」

「なッ……」

女は頭に血が上ったのか、勢いよくこちらへ近づいてくる。

それは怖く、恐ろしくて……口づけなんてした事ない、だがそんなこと言ってられる余裕もなく、瞳の宝石に不器用な口づけをした。


***


「パーシュ、目が覚めたみたいっ! お姫様!」

意識も虚ろなまま、トワの心配する声が聞こえる。私はふかふかのベッドに寝かされていた。


ミラ、と名乗るその女性は語った。

この森はミラ様と、その妹のリーシェ様の領域らしく普段は結界で守られているらしい。

しかし今日は結界を管理する妹様が不在で、結界に綻びが生じそこを偶然私とそれを追う女が通り抜けたそうだ。


「きっと、クオリアがわたくしと貴女を呼んだのですね」


その綻びがなければ私も入れなかった、ということだろう。


「貴女と契約する事で貴女を内のモノとし、わたくしが一時的に結界の綻びを封じ、あの女性を外のモノとして追い出したのです」


「え、えっと、ありがとうございました。助けてくれて」


「安心するのは早いですよ? 私と貴女は契約してしまいました。貴女にはこの屋敷でメイドとして働いていただきます」


ミラ様はズラッと数種類のメイド服をどこからか取り出した。

黒にピンクに深緑に……そのどれもは大量のフリルやリボン、レースがあしらわれていた。


「へっ?!  ご奉仕は喜んで致しますが、そのお洋服を着るのはその……」


「何事も対価は必要、でしょ? パーシュ」

それはトワに名と身体を与えた時の私の台詞だった。


「ボクもお仕事は手伝うから」

「は、はぃ……」

「期待していますよ、パーシュ」


とりあえず生贄は免れたものの、着せ替え人形の生贄(?)にされそうな毎日が始まった。

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